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休日1

 入学して六日が過ぎた。


 学校では朝から放課まで勉強の毎日だ。授業が終わった後だって宿題があるから油断ができない。軽く済ませるつもりが気づけば何時間もかかっている、なんてこともあった。


 この合間を縫って自由時間を作る必要がある。残念ながらこの時間は遊ぶためのものじゃない。捻出した時間は生活必需品の購入、それから仕事を探すための時間として費やされた。


 村を出るときにパパとママにあるい程度のお小遣いをもらったけど、それはせいぜい最初のひと月を生きる程度のものだ。学校が終わった後の放課後は仕事をする。これはユラと相談して決めていた。


 とはいえ実際の仕事は募集を見ないと分からないし、採用されるかどうかも不明ときている。仕事をするとは決めていてもその後は漠然としていた。


 さいわい、私たちみたいな田舎から上京して来た学生のために、学校ではいくつか学生指定のバイト紹介してくれる。その中から私たちにあった仕事を選べばいい。


 ユラは学校の図書館の司書。本好きで記憶力もあるユラにぴったりな仕事だ。新入生代表という肩書もあって面接を軽くスルーし、今はばりばり働いている。


 そして私はというと……学校の備品の整備・片付け、校舎の掃除、洗濯の手伝いなど。いわゆる雑用仕事をしていた。


 なぜそんな夢も楽しみもない仕事かって? ふっ、私の学力じゃそれくらいしか仕事がないからだよ……。


 そんなやること尽くめの毎日で、最初こそ手一杯だった。それでも私程度のスペックで環境に順応しつつあるのは、前世の記憶があるからだと思う。勉強や学校生活は前世とほとんど差がないからね。


 そんな怒涛の一週間が経って、ようやく入学して初めての休日を迎えた。


 週に一度の休日だ。当初はユラと街に遊びに行こうと思っていた。


 しかし、しかしである。私は今どうしてもやりたいことがあり、ユラとの遊びをキャンセルしてまでそちらに注力していた。それは……


「お嬢様ー、遊びましょー!!」


「無理です。遊んでいる暇なんてありません」


 同室のつれないルームメイトを遊びに誘うことだ。


 仕事終わりにアルセーヌお嬢様と駄弁ろうとしても、宿題や授業の予習復習をやっていたり、宿題が終わったかと思えばすぐ寝てしまったりと、この一週間でほとんど話せていない。


 たしかに忙しいのは分かる。


 私に仕事があるように、騎士科は放課後も訓練がある。前世で言えば部活みたいなものだ。それを終えて、夕飯とお風呂、課題や予習復習をやれば一日が終わる。


 だからこそ、こうして休日に遊びに誘っているのに! 私の誘いを断るとは何事か!


「今日はピアノの稽古があるので無理だと前にも伝えたでしょう!」


「私が知らなかったから言ってないのと同じだよ? だから全部お嬢様が悪い! イッツギルティ! その罰として今日一日私に付き合ってもらう!」


「どんな理屈ですか! 話を聞いてないあなたが全ての悪です。それに、仮に私があなたに今日の予定を言ってなかったとしても、ピアノの稽古があるのであなたと遊べないことに変わりありません」


「ルームメイトとの交友関係よりピアノの稽古の方が大事だっていうの?」


「ええ、その通りです」


 ばっさり切り捨てられた。もう少し悩んでくれても良くないでしょうか。


 せっかくの休日にお嬢様が制服姿に着替える。人前で着替えるのも一週間でだいぶ慣れたのか、私が見ていても恥ずかしがらずにさっさと済ませていた。それから学校を出て急ぎ足でどこかへと向かう。


「って、なんであなたがついてくるんですか!!」


「いやだって私と遊ぶじゃん。でもピアノの先生に無許可で遊んだら怒られるじゃん。だからドタキャンするの一緒に謝ってから遊ぼうかと思って」


「遊ばないと言っているじゃないですか!! バカですかあなたは!!」


「不思議と頭がいいとか賢いとか言われたことないんだよね」


「バカじゃないですか!!」


 そんな食い気味に「バカじゃないですか!!」なんて言われるバカも滅多にいないと思う。


 学校からしばらく歩くと屋敷に辿り着く。受験の時に泊まったホテルより大きな屋敷だ。


 それもそのはず、この辺りは一頭区画に入る。区画で見れば端の方ではあるが、周りにあるのは立派な建物。住んでいるのは雅な方々だ。


 間違っても私のような田舎者とは縁のない場所だが、さいわい見てくれだけは制服、どこにでも着ていける正装だ。お嬢様の隣にいても違和感はないだろう。


「ここがピアノ教室? ずいぶんと広いねえ。お嬢様の実家なのかな?」


「違います。ここはミリアム男爵家の御屋敷です。男爵夫人と交流があり、場所が学校と近いのでピアノの練習をする場所としてお借りすることにしました」


「ミリアム男爵家ねぇ」


 貴族のことはよく分からないけど、こんな屋敷に住んでいるんだから、相当な金持ちなのだろう。私の頭に稽古場にいたイケメンが浮かぶ。あんな感じのやつが住んでいそうだ。


「……はぁ。あなたはバカですか」


 お嬢様に何の前置きもなく呆れられてバカ呼ばわりされたんだが。


「ミリアム男爵家と言えば、セラス・ミリアム! この前あなたが友人になったと言っていたでしょう!」


「え、あ、ああ。言われてみれば確かに」


 いかにも貴族らしい屋敷を前にセラスの名前が出てこなかった。ほら、なんかセラスって貴族っぽくないし。


「あなたもセラスの友人です。ミリアム家の方々なら無下にはしないでしょうが、家の人に追い返されたら素直に出ていくように」


「そのときはお嬢様も一緒にね」


「ここに用事があってきたのになんであなたと一緒に出ていくんですか!」


「ピアノなんて放っといて遊ぼうよ」


「まったく、幼児に駄々をこねられてるような心地です」


 前世含めて精神年齢は三十路過ぎなんですけどね……。


 門を入って、お嬢様が扉に着いた叩き金を鳴らす。しばらくしないうちに扉が開き、若いメイドさんが出迎えてくれる。


「お待ちしておりました、モンテール様。……と、そちらの方は?」


 膝を折ってスカートの端をつまみ、一礼してから私の方を見てくる。


「レイア・クォーターです! あ、セラスの友人ですぅ」


「すまない、私のルームメイトなのだが、頭のおかしなやつでな。勝手についてきただけだ。ただの変態なので、追い返すことを推奨する」


 変態て。まだ入学式のことを根に持ってるのか。


 あれは私が悪いんじゃない、お嬢様のけしからん体が悪いんだ。あれでセクハラしない方がどうかしてる。私が男だったら確実に×××(ピー)してるだろうな、うん。


「レイア様というと……あの(・・)レイア様でございますか……! 承知しました。客室にお通しするので少々お待ちください。すぐに主人に確認を取って参ります!」


 あのレイア様って、どのレイア様なんだ?


 どうやら名前は知られているらしい。おそらくセラスが話したのだろうけど、まさかメイドさんにまで知られているとは思わなかった。


 お嬢様はこの屋敷の勝手を知っているようで、「それでは私はピアノの稽古に行きますので」と言って一人でどこかへ行ってしまった。


 お嬢様についていきたかったけど、急に来た私の応対をしてくれているメイドさんを放ってどこかにいくほどマナー知らずな私ではない。行きたい気持ちをぐっと我慢してメイドさんについていく。


 メイドさんに案内された客室はたいしたものだった。腰かけると適度に沈む心地よいソファと豪華な飾り物、実家のリビングより広い間取り。あと少し家具を持ち込めばここで住める自信があるね。


 客間にいる間はべつのメイドさんが応対して茶を淹れてくれる。遠慮なくいただくと口の中にふわっと甘みが広がって、飲んだ後にぽかぽかと心地良い気分になる。なんだこれ、滅茶苦茶美味い。村で飲んでいた茶がドブ水に思えるくらい感動した。


 もうここに住みたい。そんなことを考えながら茶を飲んでいる間に、最初に応対してくれたメイドさんが戻ってくる。


「確認が取れました。まず旦那様奥様は別件があり挨拶できないとのこと、ご無礼をお許しください」


「いえそんな! むしろ急に押しかけて申し訳ありません」


「ありがとうございます。旦那様からは「セラス様のご友人であればどうぞゆっくりしていってほしい」と承っています。どうぞ好きなだけ当屋敷をご堪能ください」


「ありがとうございます!」


 田舎者にも好待遇。やっぱ持つべきものは友達なんだよね。


 できればもう少しゆっくりしていきたいけれど、今日の予定はもう決めている。せっかくの休日だ、時間が惜しい。残った茶を飲み干して、私は言う。


「それじゃあさっそくなんですけど、アルセーヌのいる場所に案内してください」


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