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入学2

 ラッキーなことに、クラスはユラと同じだった。


 入学式の後のホームルームが終わり、それじゃあユラと校舎か街でも見て回ろうかと席を立つと、既にユラの席の回りにクラスメイトが群がっていた。


 彼彼女等が我先にとユラに声をかけている。やれどこから来たのかだの、やれ勉強はどうしたのかだの、やれ新入生代表の言葉がすごかっただのと、まるで転校してきた美少女みたいな扱いだ。


 実際ユラは美少女だし、新入生代表の言葉は目を引いたからな。これくらいの注目を集めても不思議じゃない。


 念のためにユラが寮の部屋番号を教えてくれていたので、後で合流することにしよう。


 とりあえず私は先に寮に向かうことにする。ホームルームでもらった教科書一式を抱えて外を回るわけにもいかないから、荷物を下ろしてしまおう。


 それと荷解きもしないと。ああでも、寮はシェアルームで二人一部屋だ。クローゼットとかベッドとか先に決めないとそれもできないか。


 そもそもルームシェアの相手が誰かも見知っていない。今朝荷物を部屋に置いたときは誰もいなかった。女子寮だから相手が女子ってことはさすがに分かるけど。


 ルームシェアかぁ。たぶん私はどんな相手とのルームシェアでもそれとなくやれると思う。大人しい子でも元気な子でもクールな子でも明るい子でも大歓迎だ。


 ただ、せっかく三年も同じ部屋で暮らすのだから、気の合う相手が良いに決まってる。私が大丈夫というより、相手が私と気が合うか。そういう意味で当たり外れはあるかもしれない。


 そんなことを考えながらぼーっと歩いていると、寮の部屋についていた。さて、吉と出るか凶とでるか……


 ガチャリ、と私は部屋の扉を開ける。


 ふわりとシトラスの香りがした。それでもって、そこに下着姿の美少女がいた。


 少し肉づいた透き通るような白い柔肌と、ブラからこぼれるんじゃないかってくらい大きなおっぱいに目が奪われる。女子なら誰でも憧れるプロポーションだ。


 レースのついた白い下着と、よくといてあるブロンドの髪、頬を薄く朱に染めた端正な顔立ちをみて、ああ、この子はお嬢様だろうなぁと直感する。


 そのお嬢様がこちらを見て、ぽかんと口を開けた。


「な、」


「な?」


「なな、なんですか!? この無礼者!!」


 いくら抜けてる私でも、自分の部屋に入って無礼者呼ばわりされる日が来るとは思わなかった。


 とりあえずこの状況はマズイ。さっさと部屋の中に入って扉を閉める。


「私は普通科一組、レイア・クォーター。村の出身だよ。ルームメイトとして三年間よっろしくぅ!」


「なぜ平然と自己紹介していられるのですか!? 私が着替え中だと見て分かりませんか!?」


「そりゃ見れば分かるけど」


「だったら!! 着替えが終わるまで外で待つのが礼儀でしょう!!」

 

「そんな男子に覗かれたわけじゃあるまいし、大袈裟でしょ」


「大袈裟にもなります!! モンテール家令嬢の、は、裸なのですよ!!」


「ぐへへ、姉ちゃんいい体してるじゃねえか。俺とイイことしない?」


「不潔なっ!」


 ぱっしーんと頬に紅葉が咲いた。痛くはないけど心が痛いよね。


「悪かったって。でもここはあなたの部屋でもあると同時に私の部屋でもあるんだよ。自分の部屋に帰ってきて頬を叩かれるのは納得いかない」


「うっ……」


「たしかに下着姿を見られるのに抵抗があるのは分かる。申し訳ないんだけど、こればっかりはもう我慢してもらうか、着替えるときにタオルを巻いてもらうかしてもらうしかないかな」


「ううっ……」


 お嬢様が碧の瞳をきゅっと細めて睨みながら、胸とお腹を腕で隠す。うーん、えっちだ。


「とりあえず着替えたら?」


「そうします……」


 いそいそとお嬢様が着替え始める。


 着替えるといっても、ラフなシャツとズボン、ローファーからブーツに履き替えて終わりだ。その時間はほんの一分もかからない。運が良いのか悪いのかはさておき、少なくとも部屋に入ったタイミングはかなり悪かったらしい。


「あなたが私のルームメイトですか。村の出身と言いましたが、私の名はもちろん知っているでしょうね?」


「エリザベスとか?」


「誰ですかそれは!! はぁ、これだから田舎者は」


 露骨にがっかりされる。


 とはいえその言い分はごもっともだ。田舎の村に住んでいると、新聞だってロクに手に入らないので、有名人の名前なんか一人も知らない。


 しかし自分の名前を「知っていますよね」とは結構な大口だ。はたして本当に有名なのか、自意識過剰なのか。


「騎士科一組、アルセーヌ・ルイ・モンテール。モンテール公爵家の長女にして剣位二冠を拝命しています」


「えぇ、あのモンテール公爵家の令嬢!? しかも剣位二冠だってぇ!?」


「ふっ、さすがの田舎者でも驚きましたか? 本来なら口すら利けない尊き存在であることを自覚し、これからは私を敬うことです」


「ごめん、モンテール公爵家も剣位二冠っていうのもぜんっぜん分からないんだけど」


「ならなんで驚いたんですか!?」


「お嬢様の反応が面白くてつい」


「面白くありません!!」


 からかいがいがあるなあ。


「なんというか、あなたと話していると頭が痛くなります」


「それは災難だねえ。でもルームメイトになった以上は慣れるしかないかな」


「またそれですか。……分かりました。あなたとの会話は我慢しましょう。ただし着替えの時は私の方を見ないこと。これが絶対条件です」


 なぜ私が悪いみたいになっているのか。


「いいよ、それで。でもお風呂のときはどうするのさ」


「お風呂?」


「寮なんだから風呂は寮浴場。決まった時間に使うこと。当然お風呂に入る前は裸になるし、私以外の子にだって見られる可能性があるわけじゃない? そこんとこ、どうするのって」


「お、」


「お?」


「終わりました……私は三年間はお風呂に入れないのですね……」


「いや見られる方をどうにかしなよ」


 ポンコツなのか、このお嬢様は。まあ私も寮浴場のことはユラに聞いたけど。


 どうやらお嬢様にはユラがいなかったらしい。ずうんと両手を地について落ち込んでいた。


 さすがに男に裸を見せろって言われたら抵抗があるが、同性相手にそこまで嫌うものだろうか。まあ私の場合、銭湯だとかプールだとか修学旅行だとか、前世でそういう機会があったから慣れてるってだけかもしれないけど。


 それにしたって、村にも銭湯があったし、ユラと一緒に入ったこともあるが、そんなに気にはしていなかったけど。お嬢様ならではのなにかがあるのかな?


「なんでそんなに裸を見せるのが嫌なのかな? もしかしてお尻に変な痣でもあるとか?」


「ありません!!」


 キッとお嬢様がこちらを睨みつけて指をさしてくる。


「淑女たるもの、気安く人に肌を見せるべからず! 幼いころからそう教えられて育てられたのです。簡単に言ってくれますが、そう気安く慣れることはできません!」


 そりゃ痴女じゃないんだから気安く肌を見せろと言って育てられはしないだろうけど。


「とはいっても、現実問題三年間お風呂に入らないわけにはいかないじゃん? っていうかそっちの方が淑女的には問題あるし」


「それは、そうですけど……」


「まさかお嬢様だからといって寮浴場を独占するわけにもいかないしね。ルールが守れないなら仕方ない。今からでも家通いに変えてもらう?」


 というか、なぜこんなお嬢様オブお嬢様が寮生活をしているのか。そもそもそこが疑問だ。


 セントラル学校は全寮制じゃない。理由は知らないが、お嬢様が無理だというなら無理をする必要はないはずだ。


「その選択肢はありません。寮生活は私がこの学校に感じている一つのメリットですから」


「ふーん」


 そこだけはハッキリ言った。そのメリットとやらについて詳しく聞いてみたくなったけど、話が逸れるので今は置いておく。


「それだと結局話が戻るんだけど、お風呂、どうするの?」


「くっ、分かりました。ここは慣れるまで我慢しましょう」


 ようやく分かってくれたか。私は安心した。


 これで心置きなく仕返しができる。顔の紅葉、忘れてないよ?


「じゃあ、服脱いで!」


「な、なぜですか!?」


「なぜって、慣れるための訓練だよ。裸を見られる訓練。あ、下着姿でいいからね!」


「ぜんぜん良くありません!! どこの国にそんな訓練があるんですか!!」


「仕方ないじゃん、お嬢様が見られるのに慣れたいっていうんだからー。訓練せずにいきなりお風呂に行って脱げるっていうならいいけど、練習でできないことが本番でできるかは分からないなあ」


「ぐぬぬ……」


 もちろん滅茶苦茶てきとうなことを言っている。


 口から出まかせしか言ってないが、一発叩かれたんだから嫌がらせくらいしてもいいよね。


 しかしお嬢様が「ぐぬぬ」しか言えなくなってしまったので、ここらで「冗談冗談マイケルジョーダン!」とか言おうとしたところ。


「分かりました。練習でできなければ本番でもできない。たしかにあなたの言葉は筋が通っています」


「お?」


 そういうと、お嬢様がシャツとズボンを脱いだ。


 改めて白いレース下着と肌が顕になる。やっぱりすごいプロポーションだ。ボンキュッボンである。背の高さや細さで言えば私も負けてないが、おっぱいとお尻は正に月とスッポンだ。


 これで淑女とか無理があると思いました。


 美少女の下着姿はたとえ女が見ても目の保養になるなあ、とまじまじと見ていると、お嬢様が耳まで赤くなっていることに気づく。肩がわなわなと震え、目はじゃっかん涙混じり。


 あれ、これやらかした? と気づいたころには手遅れだった。


 ぱっしーんと紅葉が以下略。


「見過ぎです!! いくら訓練でも限度というものがあるでしょう!!」


 お嬢様がキレて服を着ると、ふんっと怒って部屋の外へ出ていく。


 こうして入学初日から美少女に平手打ちを二発食らいながら、私の普通の女子学生活が始まったのだ。


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