受験2
実技試験の待機室には結構な人数の生徒がいる。
それは筆記試験でわかっていたけれど、なおさら多く感じるのは、その生徒各々が着席しているわけではなく、待機室を出歩いていて、しかも人間だけがいるわけではないからだ。
たとえば犬や猫なんかは可愛い方で、他には鳥を肩に乗せている人や、蛇を首に巻いたりしている人がいる。
手品で使うようなデカい箱を持っている人もいれば、自分の背丈ほどある弦楽器を持っている人もいる。
ここは大道芸の会場か?
そんな中で私はと言えば、麻袋を一つ抱えているだけだ。大荷物と言えばそうだが、この中では大人しい方だろう。
「次、レイア・クォーターさん。試験会場に入室してください」
「はい!」
さて……大見得切った以上は受からないといけないな。
覚悟を決めて、廊下を渡り、試験会場の部屋の戸を叩く。
「入ってください」
「失礼します」
「どうぞ、そのままかけて結構です」
「ありがとうございます。お願いします」
ここまでは手順通り。ユラに指摘された最低限のマナーを守って、麻袋を床に置き着席する。
前にいる試験官は二人。若くはないが、老いてる感じもない。男と女の二人組。パリッとしたスーツを着ている、現代日本にいても不自然じゃないビジネスマンといった印象だ。
「初めに説明しておきます。これは普通科の実技試験ですが、簡単な面接、という意味も持っています。まず名前、年齢、出身地を教えてください」
女性の方が先導してくれる。
本当にそれだけでいいのか? 簡単な面接とか言っておいて、実は自己アピール力を試されてるんじゃないだろうな……と疑いながらも、特別付け加えることもないままそれを答える。
「ありがとうございます。それでは実技試験に入ります。実技試験の内容は特技。なにをするのかについての説明と、どうしてその特技を取得したのかの説明、そして特技の披露までを五分以内におねがいします」
「分かりました」
分かってねえよボケが。
なに? なにをするのかの説明? これはできる。特技の披露、これもオーケーだ。
どうして特技を取得したのか?
転生特典でチートをもらったからだ……とそのままは言えないな。えーっと、たしかこの世界での設定をママから教えてもらったはず。たしか、ギフト? とかそんな感じだ。それを言えばいいか。
「えー、特技ですが、今日持ってきたレンガを割ります。特技を取得した理由は怪力のギフトがあるからです。じゃ、やります」
「レンガを割る?」
試験官の男がぽつりと呟いた気がするが、質問を受け付けてる時間はない。答えろとも言われてないしね。
麻袋からレンガを取り出して積み上げていく。
怪力自慢と言えばやはり瓦割かベンチプレスに限る。ベンチプレスはバーベルがないので無理だったけど、瓦割は瓦の代わりにレンガがあった。まあ瓦とレンガくらい違うと、もうなんかそれっぽいのを壊せばいいような気がするが、それっぽいものが思いつかなかったのだからしょうがない。
持ってきたレンガの数は二十。全部積み上げると胸くらいまでの高さになる。空手割の要領だと少しやりにくい位置だが、ここはインパクト重視だ。
「それじゃあやります」
「ちょっと待ってくれないか。我々はその、レンガを割るという行為について詳しくはないのだが……」
試験官の男が手をあげて聞いてくる。
いや、レンガを割るのに詳しい人って誰だ。なんなら私も詳しくないが。
レンガをひとつ手に取って、それを試験官の前の席に置く。
「このかたーいレンガを割ることができたら力が強いってことになりませんか?」
「つまりこれは魔術や奇術ではなく、純粋な力を証明したいということか」
「そういうことです」
「ふむ……」
試験官がレンガを持つと、それを指でコツコツと叩く。まるでそれがハリボテでないか確認するような手つきだ。失礼な、私がこれくらいのレンガひとつ砕けないと思うのかね?
思うよなぁ。私だってこんな美少女がレンガを二十個詰んでそれを割るとか言いだしたら、こいつやべぇって思うもん。
だがそれでいい。インパクトは大きいほど効果はある。いわゆるギャップ萌えだ。
レンガ一個壊すだけでも相当ギャップがあるのだから、二十個を一度で砕けばその威力は二十倍。これでナンバーワンを取りに行く!
「失礼した。続けてくれたまえ」
「分かりました」
レンガを戻して構えを取る。手をピンと上げて拳を握る。
そして私は高らかに宣言した。
「いきまーす!」
拳を振り下ろすとスナックみたいにレンガが砕けていく。
ひとつ、ふたつと拳はレンガを粉砕していき、瞬く間にそれは二十の底を尽きた。
というか私の拳が底を突いていた。
石の床がバキバキと罅割れて、石畳のひとつが破片になりました。
「はい! レンガが割れました! それでは片づけますね! 片づけました! それでは帰ります!」
「待ちなさい。おい待て、おまえ」
おまえて。
高速で砕けたレンガを麻袋にしまって退散しようとしたところを、男の試験官に呼び止められる。
ヤバい、なにか言わないと心証を悪くするぞ。試験官に言われる前になにか言っとけって。
なにかっていうか謝れ。謝らないとおまえ、ヤバいぞ!? 謝るぞ、よし……。
「違うんです! なんか勢いが余ってやっちゃったというか、なんかそんな感じで……なんかそんな感じで……っ!!」
「勢い余って床を破壊するというのは、どういう感じなんだ?」
私が聞きたいよ。なんで謝罪するまえに言い訳しちゃうかなぁって。
「一応確認しておくが、これはなにかトリックを使ったわけじゃないんだな? べつにトリックでも構わないが、正しい情報を教えてくれないか」
「普通のパワーですよ。ディスイズちから」
「なるほど。了解した。しかし君のような若い女子がこのような力を持っているとは、にわかに信じられんな。たとえギフトホルダーだとしても、だ」
信じろよ。なんのためにレンガ割りしたと思ってんだ。
さすがに言葉にする気はないが、引っかかる言い方にはこちらも一言いいたくなる。
けれど私より先に、女性の試験官がその言葉に噛みついていた。
「先生、それは女性蔑視ではありませんか? ギフトは性別に関わらず与えられるものでしょう」
「客観的な事実を言った。そして付け加えるなら私はレイア・クォーターの力を信用し難い。あのレンガの方になにか細工があったんじゃないか、とね。どうだ、きみにこの私の疑問を解消することができるか?」
それってあなたの感想ですよね?
知らないよ。タネも仕掛けもないことについてそれを証明しろってなんだよ。砕いたレンガ食わせるぞ。
「はあ、とにかく私が強いってことを証明できればいいんですか?」
「平たく言うとそうだ」
「そうなると、モノを壊すとか誰かと戦って勝つとかそういう感じになっちゃうんですけど、問題ないですか?」
「構わん。ただしこの場でやることが条件だ。無論試験官の私たちは戦わない。なにかを壊すのであれば仕方ない。目を瞑ろう」
と言われても、この部屋にあるのはテーブルと椅子、時計くらいだ。
試験官もそれを期待しているのだろうが、正直それではインパクトが薄い。レンガ割りがインチキと疑われている以上、この試験で一位を目指すならもっと印象に残るものを壊すべきだ。
印象に残る……?
そういえばアレを壊したのは私の人生でも印象的だった。試験官にも鮮烈に映るだろう。
ヨシ。
「それじゃあ、いきますよ!」
部屋を駆けて、私は壁に向けて拳を振り抜いた。
ドゴォン、と音が響く。
壁が粉々に砕けて、外から湿気のある風が吹いてくる。今日は暑いなー。
とか呑気にしてる場合じゃない。振り向いて、ぽかんとした顔の二人に私はただただ聞いた。
「これで満足ですか?」
「ああ……。ご苦労、退室してくれて結構だ」
とりあえず印象は残った。この部屋になぁ!
うん。やりすぎ。自覚はある。でもあの男の試験官がレンガ割りで満足しないのが悪いよね。




