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アルマルスちゃんマジ天使

 ピピーキキキァァァドガチャァァァン!


 あ、これは女子高生が車に撥ねられた音ね。マジで死ぬほど痛いからこれ。


 っていうか私死んでない? 車に撥ねられて死んでないよね?


「死んでるよー。ちょー死んでる。おっさんの飲酒運転のせいで若くしてご臨終だよー」


 マジかよ。


 ふ、ふ、ふざけんなぁぁぁ!!


 生きる価値もない飲酒運転のクソじじいに今をときめく女子高生が殺されていいはずがない!! そのじじいを殺すまで私は死なないぞぉぉぉ!!


「お、おう……。そこは安心していいよー。あのじじいもその事故で死んだからー。あと、運命裁判で地獄行きにもしといたよー」


「う、運命裁判? ってなんぞ? ダンガン○ンパ?」


「うぷぷ……簡単に言うと、死んだ人間が天国に行くか地獄に行くかを決める裁判だよ」


「やっぱりモノ○マじゃねーか。……ん? ってことは私もその裁判にかけられた? まさか地獄行きじゃないよね?」


 ヤバい。虫がキモ過ぎて殺しまくってるよ、私。蜘蛛の糸ないよ私。


「だいじよーぶ! 犯罪でも犯さなければ基本的には天国行きだから。ただ、きみには特例処置の判決が言い渡されているんだ」


「と、特例処置? まさか地獄行き!?」


 うわぁ、終わった。こんなにかわいい女子高生が犯罪者の集団に囲まれて、ナニをされるかくらい想像できる。交通事故で死んだ上にこんな仕打ちあんまりだぁ!


「愉快な子だなぁ。当然だけど、地獄行きじゃあないよ」


「天国でも地獄でもない……? まさか、無!?」


 死神がノートの使い方を教えているのを思い出す。ひどい、私キラじゃない! 信じてくれよぉ!


「それはキラなんじゃ……って違うからー! いいかい、きみは転生することになったんだ」


「転生って……あの悪役令嬢になって逆ハーレム作ったり、無能と思われていたけど努力したら実は最強で、見下してた奴らにザマァしたりする、あの……?」


「きみの知識は相当偏ってますなぁ」


「ところで今更なんだけど、あなたは誰?」


「うん。まずはそこからだよねぇ」


 おほんと咳払いして、目の前の女の子が腰に手を当て胸を張る。


「私は天使、アルマロス様でーす」


「あろまろすちゃん?」


「ア・ル・マ・ロ・ス」


「アルマルスちゃんマジ天使! 私は田原瑠夏! よっろしくぅ!」


「うぇ〜い」


 パァンとハイタッチ。


 この天使、ぜんぜん近寄り難い感じがしない。


「天使と友達感覚なのはきみくらいだけどねー」


 ごめんごめん、背の小さい女の子だからつい。


「まっ、へんに畏まられるよりやりやすからいいですけどぉ。それで、瑠夏は自分の寿命を全うせず理不尽な死を迎えたので、運命裁判で異世界に転生の判決が言い渡されましたー」


「異世界転生イッエーイ!! ふぅ~↑」


「死んだ後でそんだけハイテンションなのはきみくらいですよ、ほんと」


 そんなことないだろう。


 私とて落ち込んだが、異世界転生となれば話は別だ。たいていのキモオタや、人生に飽きてきた40代くらいのおっさんは手を叩いて大はしゃぎするはずだ。


「瑠夏の想像している通り、異世界は剣と魔法のファンタジーな世界だよ。そして転生するにあたり特典もあげちゃおう」


「特典……チート能力ってこと!?」


「あまり規格外なのは難しいけどねぇ」


 うむむ。貰えると言うならもちろん貰う。田原家の家訓はただより高いものはない、だ。


 ただ、一つ問題がある。


「その能力って、私が決めてもいいの?」


「うん。だいじょーぶだよー」


 嬉しいことではあるが、同時に悩ましくもある。自由研究の題材を聞いて「なにをしてもいいですよ!」と言われた気分だ。ある程度選択肢が絞られていた方が都合がいい時もある。


「うーん、そこそこ可愛くて背が高い女の子だったら文句ないけどなぁ。他になにかおすすめってある?」


「ちゃっかり二つ以上チートを貰う気だねぇ。まあいいけどー。おすすめかぁ。そーだなー、瑠夏は今度の世界ではどう生きたい?」


「どう生きたいって?」


「目標だよー。王子様と結婚したいとか、男になってハーレムを作りたいとかー?」


「お、おぅ」


 そうか。そういうことを考える必要があるのか。お金持ちになりたいなら錬金術を使えるようにとか、お姫様になりたいなら貴族の生まれにとか、目標によってどのようなチートが必要か変わってくる。


「私は……普通に生きられればいいかな!」


「ふつー? せっかくチートをもらえるのに?」


「うん。普通に生きて普通に死ねればいいかなぁ。あっ、貴族みたいな豪華な暮らしは興味ないけど、あんまり貧しい家暮らしも嫌だから、そこそこ豊かな平民の家の子として生まれたいな」


「オーケー。他にはどうする?」


 他って、自分で言うのもアレだけど、結構頼んだ気がするよ?


「美形で平民の生まれって、転生者だとだいたいデフォルトの生まれなんだよねぇ。ほら、あんまりブサイクに生まれたり、貧しかったりすると、せっかくの第二の人生がハードだったりするでしょー? だからそういうのはこっちで調整してるんだよー」


「ほー」


 転生後の人生マジでチョロ過ぎない?


「だから今のところ転生チートは選んでないねぇ」


「そんなこと言われても、これ以上欲しいものはないんだけど……もらわないとなんかすっごい損した気がする!」


「間違いじゃないけどー。貧乏性でチート選ぶ人初めて見たよー」


 うむむっと頭を捻っていると、煙が出てきた。


 異世界転生のアニメとか見たりするけど、まさか自分がその立場になるとは思ってなかったし、咄嗟に出てこないよぅ!


 えーっと、死んだらセーブポイントを戻る能力? だめだ、私の普通の人生計画が鬱展開になる未来しか見えない。


 食べたものを分析してそのスキルを獲得する能力? いったい私は何を食べて魔王になるというのか……。


 この際スマホでも持っていくのは……意外と一番ありかもしれない。ただ、剣と魔法のファンタジーで日常的にスマホを使うのが普通の暮らしというのは、やはり違和感がある。


「そういえば、瑠夏は体が脆かったから死んだんだよね?」


 ああでもない、こうでもないと唸っていると、天使ちゃんが聞いてきた。


「ん、んー……そうとも言えなくもない?」


 車に撥ねられたらたいていの人間は死ぬ気がする。


 でもそれは人間の体が脆いからだと言われてしまえば、たしかにその通りだ。


 いや、今度行く世界は剣と魔法のファンタジー。車に撥ねられて死なないような人間がいてもおかしくない。


「だったら、チートは〈頑丈な体〉にすればー? 次の世界に車はないけど、馬車はあるしー。元いた世界より物騒だから、屈強な体は役に立つと思うよー」


「おお! それ採用!」


 ナイスアシスト天使ちゃん!


 言われてみればこれしかないチートだ。今世では酔っ払いに訳もわからないまま殺された人生。こんな死に方もううんざりよ。


「〈不老不死〉のチートも捨て難いけどねー。魂が天界に帰ってきにくいから、天使的にはあんまり勧めたくはないんだけどー」


「え、遠慮しておくわ……」


 普通の暮らしどころか、アンデッドと間違えられて討伐される可能性もあるよね、それ……。


「うん。それじゃあ今の内容で転生をするねー」


 と、だんだんと視界が薄くなっていく。短い間だったけど、気の合う子だったなぁ。


「ありがとう、アルマロス! きっと次の人生も普通に楽しく過ごすから! またね!」


「……うん。元気でね」


 それを最後に視界が消え、意識が途切れる。


 こうして、田原瑠夏の人生は幕を閉じ、


 レイア・クォーターの人生は幕を開ける。









「〈頑丈な体〉……うーん、ないなぁ」


 カタログを開きながら、アルマロスがうぅんと唸る。


 そのタイトルは「異世界転生特典カタログ」 。


 お歳暮のギフトが載っていそうな感覚で、そこには異世界転生者に与えることができる様々な特典(チート)が掲載されている。


 しかし、その中に〈頑丈な体〉は存在しない。


「しょーがない。……あ、もしもし。ガブくん? アルマロスだけどー」


『その呼び方はやめろ。俺はガブリエルだ』


 アルマロスが手で受話器の形を作ると、異なる世界を監視しているガブリエルがそれに応える。


「あのさ、異世界転生者のチートに〈頑丈な体〉っていうのがないんだけど、なんでかなーって。転生のあれこれ管理してるのガブくんだよね?」


『ガブリエルだ。特典が〈頑丈な体〉だと? 今どき面接の自己PRでもそんなことを自慢するやつはいないだろ。世紀前に生まれた爺婆か、その転生者は?』


 ツッコミがどことなく日本人っぽいのは彼が監視している世界の影響だろう。


「……いいじゃん。〈頑丈な体〉」


『なぜおまえが不満そうなんだ?』


 まさか自分から言い出した特典だとは言えないアルマロスである。


『まあしかし、ないだろうな。そんな特典』


「なんで?」


『決まってる。特典のひとつ、〈最強〉がその上位互換だからだ』


「えぇー」


 その特典はアルマロスも知っている。何物をも粉砕する怪力と、何物に屈しない強靭な肉体を得る、というものだ。


「それだと瑠夏ちゃんが普通の暮らしできないと思うー!」


『は? るかちゃん? 普通の暮らし? なんのことか知らんが、力が無いよりはあった方がいいだろう。大人しく〈最強〉を付与しておけ。じゃあな』


 がちゃんっとガブリエルとの通信が切れる。


「困りましたなぁ」


 たぶん最強パワーは、瑠夏ちゃんの言う「普通の暮らし」に必要ないものなんじゃないかなぁ、とさすがにアルマロスも直感する。


 直感はしたのだ。


「でも、いいかぁー。必要なかったら使わなければいいだけだもんねー」


 そんな気軽さで、レイア・クォーターは最強になった。


 ……案の定、その力が彼女を普通から遠ざけるものになるとアルマロスが知ることになるのは、まだ先の話。


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