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異説・東方永夜抄  作者: 小湊拓也
9/90

第9話 穢れの大地

原作 上海アリス幻樂団


改変、独自設定その他諸々 小湊拓也

 爆炎の閃光が、夜空を真っ白に染め尽くした。

 一瞬だけ夜を昼に変える、その圧倒的な白い輝きの中、点々と原形を保っているものたちがいる。

 無傷の、土偶の群れ。

 ずんぐりと不格好な全身甲冑でマスタースパークを蹴散らし、飛行し、押し寄せて来る。

「くそっ、何だ! こいつら!」

 虚しく炎を噴く小型八卦炉を眼前に浮かべたまま、霧雨魔理沙は魔法の箒を駆った。

 アリス・マーガトロイドが背後から、弱々しくしがみついて来る。

 呆然としているのが、魔理沙にはわかる。立ち直りかけたアリスの心が、再び折れてしまった。

 無理もあるまい、と魔理沙は思う。

 マスタースパークの通用しない相手が、軍勢を成している。自分の心もすでに折れているに違いない、と魔理沙は思うが、心の折れように関係なく、やらなければならない事が今はある。

「わ、わかった! 私が悪かったよ、ごめん」

 魔理沙とアリスを乗せた箒が、空中で停止する。

 月人の兵士、であるらしい土偶たちが、ぐるりと2人を取り囲んでいる。

 両手を上げたまま、魔理沙は言った。

「綿月依姫に蓬莱山輝夜、だったか? そんな奴らの事は知らないぜ。本当に知らん。私の方から撃ったのは、この通り謝るから……頼む。成子を、捜しに行かせてくれ」

 眼下に広がる、魔法の森。このどこかに、矢田寺成美は撃たれて墜落した。

 魔理沙の、愚かしい先走りが招いた事態である。

「知らぬはずが、あるまい」

 月人の軍勢による包囲。その後方からこちらに銃を向けたまま、レイセンが言った。

「両名とも罪人ではあるが、月の皇族、皇姫でもある。卑小なる者どもしかいない地上で、その輝ける存在を埋没させるなど不可能! まあ良い。隠し立てをするならば、貴様らを捕えて脳髄の中身を調べるまで」

 言葉と共に、引き金が引かれた。

「……脳があれば良い。首から下は要らん」

 銃口から、光が迸った。

 とっさに魔理沙は眼前に魔力を展開し、防壁を成した。魔法陣の形の防壁。

 それが、レイセンの射撃によって粉砕されていた。

 息を呑む魔理沙の周囲で、土偶たちが片手を掲げる。太く不格好な指が、発光する。

 光弾が放たれていた。魔理沙に、アリスに向かって、全方向から。

 小さな人影が、地上の方から飛び込んで来た。

「ふぉおおおおおお、まっ魔理沙、まりさあああああ」

 そんな叫びに合わせ、光弾が全て跳ね返った。

 1人の小さな少女が、魔理沙の傍らで日傘を開き、振り回している。

 その日傘が、月人たちの光弾を全て防ぎ弾いたのだ。

「おっ重い、重たい、私はもう駄目、魔理沙はやく逃げろー」

「ルーミア……」

 日傘に引きずられるようにして、ルーミアが目を回し、へろへろと墜落して行く。

 その小さな身体が、月人の兵士に捕獲された。

 ずんぐりと太い土偶の手が、ルーミアの可憐な細腕を引きちぎった。鮮血の代わりに、暗黒の飛沫が飛び散った。

「まりさ……」

 悲しげな表情を浮かべたルーミアの愛らしい顔面が、土偶の手で剥ぎ取られた。

 ルーミアの小さな片足が、ねじ切られ放り捨てられた。臓物らしきものが引きずり出され、宙を舞った。

 呆然と固まる魔理沙とアリスを、月人の軍勢が取り囲んでいる。

 自分たちも今から、ルーミアと同じ目に遭う。魔理沙に理解出来るのは、それだけだった。

「……アリス……ごめん……」

 弱々しい呟きが漏れた。

「私、お前に偉そうな事言った……何にも、わかってなかった……お前の、絶望……これか。お前が味わったもの……これ、だったんだな……」

「……違うわ、魔理沙。こんなものは全然、違う」

 アリスは、少なくとも魔理沙よりは冷静である。

「私が味わった絶望は、あれよ……絶望っていうのはね、あれの事を言うの」

 ルーミアのちぎれた片手をこびり付かせた日傘が、魔法の森へと落下して行く。

 それを、何者かが掴み止めた。

 一応、人の五指の形はしている。五指の形をした、植物でもあった。

 怪物が、そこにいた。

 植物の根が、荊が、蔓草が幾重にも絡まり合って四肢を、人型を、形成している。

 そんな全身あちこちで、様々な花が咲いていた。大輪の向日葵や、真紅の薔薇。野菊に紫陽花。

 土壌を離れて枯れる事なく空中に佇む、人型の植物。魔法の森のどこかから、飛翔上昇して来たのであろうか。

 その怪物が、花咲く顔面を月の兵士に向ける。

 土偶が、ルーミアを引きちぎる作業を中断し、発光する片手を怪物に向けた。

 その光が光弾となって放たれる、よりも早く。

 怪物が、無造作に右手を振るった。左手で、広げた日傘を優雅に保持しながらだ。

 月の兵士の不格好な巨体が、歪んだ。土偶そのものの甲冑が、メキメキと凹まされてゆく。

 幾重にも巻き付いた、蔓草か根か判然としないものによって。

 それは怪物の右手から、鞭の如く伸びていた。

 マスタースパークを受けても無傷であった装甲が、植物の圧迫で凹み、ひしゃげて破裂する様を、魔理沙はただ眺めているしかなかった。

 土偶の破裂した各部分から、芽が伸びた。

 それらが開き、花になりかけ、だが完全に咲く事なく枯れて崩れた。

「…………弱い……」

 怪物が言った。

 土偶の形の甲冑は砕け散り、弱々しい光に変わってキラキラと消滅してゆく。甲冑の中身もろとも、である。それがどのようなものであったのかは、わからない。

「花も咲かせられない、あまりにも脆弱な生命……」

 蔓草か根か判然としないものが、ほぼ原形を無くしたルーミアの肉体を絡め取った。

 それを右腕で抱き寄せながら、怪物は言った。

「こんなに弱い生命力で貴方たち、今までどこで生きていたの? よほど綺麗な無菌室で、味気ない栄養を注入されて……可愛がられるでもなく虐められるでもなく、ただ飼われていたのね」

「…………し…………植物…………」

 レイセンが震えている。

「自然…………生命…………地上の穢れ、そのもの…………おぞましい……汚い、穢らわしい! おぞましいよぉおおおおっ!」

 震え、怯え、怒りながら、レイセンは銃をぶっ放していた。乱射、に見えて狙いは正確である。銃口から迸った光弾の嵐が、怪物に集中してゆく。

 その嵐を、怪物は全て日傘で防いだ。

 魔理沙の魔法障壁を粉砕する射撃。それを小雨でもしのぐかの如く傘で受けながら怪物は、全身の花々から花粉を噴射した。

 煌めく花粉は、全て光弾だった。

 全方向に放射された弾幕が、月の兵士たちを直撃する。

 発光する片手を怪物に向けた土偶の群れが、片っ端から砕け散っていった。甲冑の破片が、飛散しながら消え失せる。

 弾幕を放出しきった花々が、怪物の全身で力尽き、枯れ崩れてゆく。

 蔓草が、荊が、根が、ボロボロと萎びて崩れ落ちる。

 緑色の髪が、チェック柄のロングスカートが、ふわりと揺れる。

 つい今まで植物をまとっていた優美な姿が、そこに現れていた。

 再生を終えた、風見幽香であった。

 左手で日傘を広げ、右腕でルーミアを抱いている。

 原形を失いかけたルーミアの肉体は、蔓草と根に包まれたままだ。

「…………ゆう…………か…………」

「自分自身をしっかりと認識しなさい。妖怪の再生復活はね、それが出来るかどうかよ」

 緑色の産衣に包まれた赤ん坊、のようでもあるルーミアを、幽香は優しく抱いている。

「貴女は宵闇のルーミア、それを忘れては駄目」

「ま……りさ……は……」

「貴女が、守ったのよ」

 ルーミアに語りかける口調は、優しい。

 だが。まだ大量に生き残っている月の軍勢を見据える眼差しは。

「……よく頑張ったわね、宵闇の」

 不穏な笑顔の下に隠されていたものが、露わになりつつある。魔理沙は、そう感じた。

「何だ……なんだ……一体なんなのだ貴様ぁああ……」

 レイセンが、起きながら悪夢を見ているような顔をしている。

 月の兵士たちも同じなのか、と魔理沙はふと思った。土偶そのものの甲冑の中で、怯えているのか。

 そうは見えなかった。皆、片手をかざして淡々と光弾を射出している。

 弾幕が、あらゆる方向から押し寄せて来る。

 かわすしかなかった。いや、逃げるしかなかった。魔理沙の攻撃は一切、通用しないのだ。

 後ろにアリスを乗せたまま、魔法の箒を駆る。押し寄せる弾幕の中から離脱する。

「そう、今はそれでいいわ。逃げなさい魔理沙、アリス」

 幽香が、右腕でルーミアを抱いたまま身を翻し、左手で日傘を振るう。開いたままの日傘が、全方位を薙ぎ払う。

 そして、月人たちの弾幕を防いで弾く。降り注ぐ光弾の雨が、日傘の表面でことごとく砕け散る。

「貴女たちにはね、少しばかり時間が必要よ」

「……私たちを、逃がしてくれるのね。逃がさない、なんて言っていたくせに」

 魔理沙の背中で、アリスが呻く。

「……貴女に……借りを作る、なんてね……」

「返せるものなら、いつか返してもらうわ。期待はしていないけど」

 言葉と共に、幽香の眼光がギラリと燃える。

 燃え盛る眼光が、その美貌から溢れ出した、ように魔理沙には見えた。

「…………成子は……」

「死んではいないわ。魔法の森の植物たちが、そう言っている」

 溢れ出した眼光が、一直線に集束し、夜空を切り裂く。

 凄まじい密度で凝縮した、それは妖力の線条であった。

「……あのお地蔵さんは、私が必ず助ける。貴女たちは、お互いを助けて支え合いなさい。それが出来れば」

 細い光の直線が、本来の太さを取り戻してゆく。偽りの夜空を、白く染めながら。

「こんな連中……物の数じゃないわよ。本来の貴女たちなら、ね」

 本来の太さを取り戻しつつある妖力の光線に、さらなる妖力が注ぎ込まれる。

 逃げ場なく夜空を灼き払う極太の光の中で、月の兵士たちが消滅してゆく。いくつもの土偶に似た甲冑が中身もろとも、粉末状に崩壊して飛散し、跡形もなくなった。マスタースパークで傷一つ負わなかった、土偶の群れがだ。

 自分に出来る事など、何もない。

 その現実を受け止めながら魔理沙は、幽香の言葉に従うしかなかった。

 彼女の前方の空間は、光に灼き払われスッキリと綺麗である。左右に、後方に、上方に、しかし月人の兵士は大量にいて淡々と光弾を放っている。

 かわし、あるいは傘で防ぎ続ける幽香から、魔法の箒は一気に遠ざかった。魔理沙とアリスを乗せたままだ。

 自分は、逃げた。

 まずは、それを受け入れなければならない、と魔理沙は思った。

「…………月の、軍勢……」

 激戦の気配が後方に遠ざかって行くのを感じながら、呟く。

「あんな連中が……あれで全部、じゃないとしたら……これからも幻想郷に押し寄せて来る……としたら……」

「……今の私たちでは、どうしようないわね」

 アリスの口調は、しっかりとしている。今は自分の方が心折れている、と魔理沙は気付いた。

「月よ、魔理沙」

 夜空に描き込まれた、精巧なる偽物の月。背後から魔理沙の身体に細腕を回したまま、アリスは見上げているようであった。

「月から、あんな侵略者が来ている……夜が明けない、この状況と無関係ではないと思うわ」

「……月から来て、月に帰れなくなった。あのレイセンとかいう奴、そんな事言ってたな」

 魔理沙の、後ろにはアリスがいる。

 前方には上海人形がいて、魔理沙の太股の近く、箒の長柄にちょこんと座っている。

 半ば人形を抱くようにして魔法の箒を操縦しつつ、魔理沙も偽物の月を見上げた。

「……月か、今回の異変は」

 月から、侵略者が降りて来た。魔理沙の攻撃が一切、通用しない相手だ。

 あの者たちが、これからも大量に現れて、幻想郷で破壊と殺戮を行い始めたら。

 その時、風見幽香が都合良く居て戦ってくれるとは限らないのだ。

「異変解決……私たちが、か」

 魔理沙は唇を噛んだ。

「だけど、私の力じゃ……」

「ねえ魔理沙。今の私たち、きっと2人で1人前よ」

 背後から、アリスが魔理沙の肩を抱いた。

「……出来る事を、しましょう」

「月からの侵略者、明けない夜、偽物の月……今は、とにかく調べるしかない。か」

 無理矢理、魔理沙は微笑んで見せた。

「あの連中の弱点、みたいなもの……ついでに、わかるかも知れないしな」



 風見幽香は、舌打ちをした。

「あの月が……本物で、ありさえすれば……っ」

 月人の兵士の、最後の1体が、足元でのたのたと動いている。

 この場にいる最後の1体、である。この場から逃がしてしまったものたちが大勢いる。

 今、夜空に浮かんでいる満月が、本物であれば。妖怪に力を与えてくれる、本物の満月でありさえすれば。

 1匹たりとも、逃がす事はなかっただろう。逃げる暇も与えず、皆殺しに出来た。

 実際は、皆殺しとは程遠い状態である。かなりの数の土偶が、幽香の弾幕から逃げおおせて幻想郷の各地に散った。

「……ふん、まあいいわ。戦える者が私しかいない、わけでもなし」

 魔法の森の地面に墜落し倒れ伏した、月人の兵士。

 土偶の形の甲冑を、幽香のたおやかな片足が踏みにじる。

 死の怯えが伝わって来ない、と幽香は感じた。

 この甲冑の中にいる兵士は、今から殺される事を全く恐れていない。

 勇気であるはずはなかった。臆病さすら、この兵士は持っていない。

 死を恐れる心そのものが、月の兵士にはない。そもそも生命があるのか、とさえ思えてしまう。

「……つまんない連中」

 幽香は踏み潰した。

 すらりと綺麗な片足が、巨大な甲冑を幾度も踏み付け、凹ませ、破裂させ、中身もろとも粉砕し混ぜこねる。

 どのような中身であるのか、幽香はもはやどうでも良かった。月人の兵士に対する興味が一切、消え失せていた。

 それよりは幾分、興味深い生き物が、すぐ近くにいる。

「……ひっ……グゥ……っ! きき、貴様ぁああ……!」

 兎の耳を生やした、1人の少女。泣きじゃくりながら倒れ、起き上がる事が出来ずにいる。

 先程までのルーミアと同じく、畳んだ日傘の下敷きになっていた。

 そのルーミアは今、幽香の右腕に抱かれ、植物に包まれている。

 再生した眼球が、植物の中からにょろりと視神経を引きずって現れた。

「……魔理沙たち……ちゃんと、逃げてくれたかなー……」

「貴女は逃げ損ねたわね宵闇の。まったく、無茶をして」

 右腕でルーミアを抱いたまま幽香は左手で、奪い取った銃を握り折った。

「で……貴女、確かレイセンとか言ったわね。ルーミアと同じ目に遭ってみる? とりあえず腕からいってみましょうか」

「ち、近寄るな! おぞましい、穢れの塊がぁ……」

「雑菌だらけの大地から、栄養を吸収する……そうやって綺麗に咲いたり醜く咲いたりするのが生命というもの。まあ穢らしいのは間違いないわね」

 幽香は微笑んだ。

「……穢らしいのは、お嫌いかしら?」

「く、来るな……やめろぉ……」

 レイセンが、細腕で日傘を押しのけようとしながら涙と鼻水を流す。

「……やめて……やめて下さい……許してぇ……」

「いいわよ貴女。ちゃんと泣いてくれる、命乞いをしてくれる」

 愛おしさに似たものを、幽香は感じていた。

「私が今、叩き潰した連中とは大違い……素敵よ」

「許して……許して下さぁい……」

 鼻水まみれの泣き顔が、本当に可愛らしい。

「…………助けて……依姫さまぁ……」

「もっと大きな声で泣かないと。その依姫様とかいう人、聞こえないわよ?」

 さらに1歩、レイセンに近付こうとする幽香の足が、止まった。

「……そこまでよ、外道破廉恥妖怪」

 木陰から、よろりと人影が現れたのだ。

 血まみれの、屍のような人影。辛うじて屍ではない。

「もう勝敗は決したと言うのに、何をしようと言うの……」

「……せっかく、ねえ? 命乞いを、してくれているのよ」

 幽香は答えた。

「ゆっくり時間をかけて、丁寧に殺してあげるのが礼儀だと思わない?」

「……思わないわ。地蔵の目の前で、殺生はさせない」

 矢田寺成美だった。

 右胸の辺りに、どうやら大穴が空いている。大量の血が噴出し、滴り落ちて、魔法の森の養分となっている。右腕は血まみれのまま垂れ下がって、今や合掌も出来ない。

「……どうやら……魔理沙とアリスさんを、助けてくれたみたいね……」

 血色の失せた顔で精一杯、成美は幽香を睨んだ。

「ありがとう……それはそれとして、破廉恥妖怪の外道な行動を許すわけにはいかない……やめなさい、風見幽香」

 言葉と共に、鮮血が溢れ出す。

 血を吐きながら、成美は膝を折った。

「……弾幕戦は……終わったのよ……」

「……そう、ね」

 幽香は、ひとつ息をついた。

「勝敗が決した時点で、攻撃は終わり。それが弾幕使いの仁義……という事に、しておきましょうか」

 成美は、もはや聞いていない。うつ伏せに倒れ、意識を失っている。このまま放置すれば、命も失う事になる。

 幽香は、左手の指を鳴らした。

 植物の根が、大量の蚯蚓の如く地中から伸び現れ、成美の身体を絡め取り包み込む。

「太陽の畑……私の家に、運びなさい」

 幽香の命令を受けて、根の塊が成美を地中に引きずり込む。

 その様をちらりと確認しつつ幽香は、左手でひょいと日傘を拾い上げた。

 レイセンが、起き上がると同時に逃げ去った。まさに脱兎の勢いである。

 眼球だけで見送りながら、ルーミアが言った。

「……あいつ、大丈夫かなー」

「心配なの? お優しい事」

「あいつ1人きりじゃ、たぶん幻想郷で生きていけない。どこかで野垂れ死んで獣か妖怪の餌……それなら、私が食べたかったなー」

「……そうね。幻想郷は、生命の穢れに満ちている」

 その筆頭は自分だ、と幽香は思う。

「無菌室で栽培されていたような連中が……さあ、どれだけ頑張って生きていけるかしらね」

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