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異説・東方永夜抄  作者: 小湊拓也
81/90

第81話 幻想の結界(中編)

原作 上海アリス幻樂団


改変、独自設定その他諸々 小湊拓也

 無数の呪符と陰陽玉が、宇宙空間を飛び交っている。

 博麗霊夢の、弾幕。

 その真っ只中へと、八雲藍が突っ込んで行く。

「紫様……紫様! 紫さまぁああああああああっ!」

 襲い来る呪符も陰陽玉も、今の藍には見えていない。

 見えているのは、博麗霊夢もろとも爆炎の閃光に飲み込まれつつある、八雲紫の姿だけだ。

 そこへ、藍は向かって行く。豊かな九尾を引きずり、高速で宇宙空間を飛翔する。

 さらなる高速で陰陽玉が複数、藍を強襲した。

「藍様!」

 橙は飛翔、そして回転した。

 二又の尻尾を生やした毛玉と化し、藍の周囲を旋回する。

 襲い来る陰陽玉たちを、ことごとく体当たりで粉砕する。

 橙の体内でも、様々なものが粉砕されていた。

「橙……!」

 藍の叫び声が、遠い。

 いや、遠のいているのは橙の意識だ。

 血を吐きながら橙は、己の懐から小瓶を取り出した。

 中身を、呷る。

「ぐっ……ぐぶえっ、げぼッ!」

 薄れかけていた意識が、激痛と共に覚醒した。

 ズタズタに裂けた体内を、麻酔もなく無理矢理に修理されてゆく。そんな激痛。

「まっ、不味い、痛い苦しい、ぐぇえええっぶ! ぎゃびぃいいいいいい!」

 悲鳴と血反吐を、橙は宇宙空間に吐き散らした。

 のたうち回る身体を、藍が抱き締めてくる。

「橙、橙! ああ、私のせいで……」

「そ、そう思うんなら、ぐっぶ! 全部終わったら藍様、美味しいお料理作って振る舞うね。この不味さが消えて無くなるくらいのヤツ」

 橙は言った。

「あー、くっそ不味いお薬……最後の1本、使っちゃったね。藍様、落ち着かないとダメ」

「ゆ、紫様が……」

 八雲紫は、亀に騎乗した博麗霊夢の身体を、背後から抱き捕えている。

 そこへ霧雨魔理沙がマスタースパークをぶっ放しているのだが、直撃しているわけではなかった。

 虹色の巨大な光弾が、複数。霊夢の前方で螺旋状に高速旋回し、マスタースパークを削り続けている。削られた爆炎の飛沫が、霊夢と紫の周囲に飛散する。

 夢想封印だった。

「思い出せ、霊夢……これが幻想郷の、私たちの、弾幕戦だぜ」

 爆炎の閃光を噴射し続ける小型八卦炉に、ひたすら己の魔力を流し込みながら、魔理沙は吼えた。

「お前は、わけのわからん弾幕戦の化身なんかじゃあない! 幻想郷の弾幕使いなんだぜ、ほら! こうやって、私とも散々! 弾幕戦をやっただろぉーッ!」

 爆炎の閃光が、さらに激しく燃え上がり、宇宙を白く照らす。

 旋回する夢想封印も、輝きを強め、押し寄せるマスタースパークを削り防ぐ。

「お前の本質が弾幕戦そのもの? なら、そんなもの飼い馴らせ! 使いこなして見せろ! じゃないとなぁ、私のマスタースパークは止められないぜええええええええっっ!」

 魔理沙の叫びに、霊夢は何事かを叫び返した。

 言葉を成さぬ、それは絶叫あるいは咆哮だった。

 猛回転する夢想封印と、それに削り散らされるマスタースパーク。

 その輝きの中、霊夢の姿が急激に薄れてゆく。

 博麗霊夢という形が、崩壊しつつある。

 それに合わせて、無数の呪符と陰陽玉が宇宙空間を乱舞し、藍と橙のみならず、宙域にいる弾幕使い全員を猛襲し続けた。

 その猛襲も、激しさを増す一方だ。

 弾幕戦、そのものが発現しつつある。橙は、そう感じた。

「……魔理沙の声……聞こえたのでしょう? 霊夢……」

 亀の甲羅の上、薄れ消えつつある霊夢の身体を後ろから抱き締めたまま、紫が囁く。

「貴女はね、弾幕使いであって弾幕そのものではないのよ……弾幕戦の荒ぶる本質、しっかり制御してごらんなさい」

 完全に消滅しかけた霊夢が、うっすらと辛うじて輪郭を取り戻す。

 輪郭だけは、八雲紫の力で、今のところは維持されている。

「幻想郷で……貴女は、他の誰よりも強い輪郭を、作り上げてきたはずよ。博麗霊夢を、博麗霊夢ではないもの全てから隔てる境界線……貴女が育て上げてきた、かけがえのないものが、ね……このままでは、失われてしまうのよ」

『それは違うな、八雲紫よ』

 声がした。

 月が喋った、と橙は思った。

『かけがえのないもの。それは今、博麗の巫女という殻を破って現れつつある、弾幕戦の精髄だ。それを窮屈な輪郭の中に押し込めてしまったのが君であろう? 解放してあげたまえよ、もう』

 霊夢の周囲にあった陰陽玉が2つ、紫の後方へ回り込み、光弾を速射した。

「紫さま……ぁ……!」

 悲鳴を漏らす藍に、呪符の嵐が襲いかかった。

 藍は光弾をばら撒き、それらを粉砕したが、間髪入れずに陰陽玉が複数、流星の如くぶつかって来る。

 今度は辛うじて自力で回避した藍であったが、紫に近付く事は出来ない。

 その間。背後からの弾幕を、紫は、まともに喰らっていた。

 藍の絶叫が、響き渡った。

「ゆかりさまぁあああああああああ!」

「お黙り……何という様を、晒しているの……!」

 血を吐きながら、紫は言った。

「……しっかりなさい。私が……死んだら、貴女が……幻想郷の賢者なのよ、藍……」

「死ぬ……などと……紫様が……」

 呆然と呻く藍の腕を、橙は掴んで思いきり引いた。

 引っ張られた藍の身体を、陰陽玉がかすめて飛んだ。

『博麗霊夢を、解放したまえ』

 霊夢と紫の背景を成す月が、またしても言葉を発した。

『彼女は今、己の真のありようを取り戻さんとしている……全宇宙、生きとし生けるもの全てに弾幕戦を強制し、戦いの果ての死へと導く存在……それが今、博麗の巫女などという矮小な容れ物の中から飛び立とうとしているのだ。素晴らしい事だと何故、君たちは思えないのか?』

 辛うじて輪郭のみを保っている霊夢に、月が力を注ぎ込んでいる。それが橙にはわかった。

 博麗霊夢という輪郭を、粉砕するための力。

 これまで博麗の巫女と呼ばれていたものを、輪郭の外へと解放する力。

 呪符と陰陽玉から成る弾幕の嵐は、なおも激しさを増して宇宙空間に吹き荒れ続ける。

「…………月……」

 藍の腕を掴んだまま、橙は呟いた。

「月……何とか、しないと……」

『全員、退け!』

 別の声が、宇宙空間に響き渡った。

『博麗靈夢を除く全員を夢幻遺跡に収容し、この宙域を離脱する。乗り込め!』

 岡崎夢美の声。

 中破状態の可能性空間移動船が、弾幕に晒されていた。

 呪符の豪雨を、陰陽玉の嵐を、星幽剣士コンガラと綿月依姫が斬り砕いている

 綿月豊姫が、襲い来る無数の呪符をフェムトファイバーで切り刻む。

 藤原妹紅が陰陽玉を蹴り砕き、パチュリー・ノーレッジが、夢幻遺跡の周囲に、無数の魔法陣を発生させる。それらが一斉に光弾やレーザーを吐き出し、霊夢の弾幕を迎撃・粉砕し続けた。

 蓬萊山輝夜が、色とりどりの光弾を無数、様々な形に撒き散らし、煌びやかな弾幕を宇宙に咲かせる。

 カナ・アナベラルが、小鳥の群れを飛ばす。

 豊かな色彩の嵐に、白い小鳥たちが混ざり込み、この上なく幻想的な弾幕が形成されていた。

 それが呪符や陰陽玉とぶつかり合い、もろともにキラキラと砕け散る。

 北白河ちゆりが、縦横無尽にレーザー光を召喚し、呪符の嵐を切り刻む。

 ちゆりに襲いかかった大量の陰陽玉を、魅魔が月牙杖で粉砕する。

 鈴仙・優曇華院・イナバが、狙撃・速射で全員を援護している。

 可能性空間移動船の、防衛。

 それには加わらず、レミリア・スカーレットが言った。

「霊夢を……見捨てて逃げろ、と?」

『他に、この場で実行可能な手段があるのか。全員……靈夢1人に殺されるぞ、このままでは』

 夢美の言葉に、レミリアは会話では応えない。

 ただ、小さな片手を軽くかざした。

 愛らしい掌の上に、真紅の光が生じ、それが急激に巨大化して、宝珠の如き大型光弾と化す。

「それを、どうするつもりだ。レミリア・スカーレット」

 魂魄妖夢が、楼観剣・白楼剣を一閃させながら問う。

 別々の方向へと迸った2つの斬撃が、無数の呪符を跡形もなく切り砕き、幾つもの陰陽玉を滑らかに両断していた。

 この少女剣士は今、明らかに力を増している。

「博麗霊夢と八雲紫に……ぶつける、のか? 2人とも消えて無くなるぞ、下手をすると」

「スキマ妖怪の方は、どうでもいいわ」

 輪郭のみの姿で、声にならぬ叫びを発している霊夢を、レミリアは見据えた。

「霊夢を……見殺しにして逃げる、くらいなら私の手で殺す。消滅させる。お前たちも、そのつもりでしょう?」

「私たち……か」

 妖夢の周囲を、蝶の群れがひらひらと舞う。

 この宙域のどこかにいる何者かが、蝶々を通じ、妖夢に力を与えているのだ。

「そう……幽々子様の思いも、また同じ。助けるにせよ滅するにせよ、霊夢は……私たちの、手で」

『やめろ!』

 夢幻遺跡の船内で、夢美が叫ぶ。

『博麗靈夢を、これ以上、刺激するな! 恐ろしい事が起こりかけている、それがわからないのか!』

「お黙りなさい。レミリア様の御意向に、異を唱える事は許しません」

 十六夜咲夜だった。

 レミリアの傍らで、何本ものナイフを扇状に広げている。

「霊夢、貴女の血をレミリアお嬢様に捧げて肉と臓物は美鈴のおやつにでもしてあげましょう……と言いたいところだけど。見たところ枠線しか残っていないわね? 血液の採れる肉体を取り戻しなさい」

『貴様たちは!』

「岡崎夢美……ありがとうよ。私たちを助けてくれようって気持ちは、普通に嬉しい」

 ひたすらマスタースパークをぶっ放しながら、魔理沙が言った。

「……逃げたって同じなんだよ。みんな、滅びる……霊夢は、ここで私が止めないと」

「迷惑でも付き合うわよ、魔理沙」

 アリス・マーガトロイドが、魔理沙の傍らで、何体もの人形たちに弾幕の陣形を組ませている。

「霊夢の……命を、奪う事になるのなら。私も背負うわ」

「……お前なあ、霊夢だけじゃないんだぞ。スキマ妖怪もいる。少しくらい心配してやれって」

 苦笑する魔理沙の表情が、すぐに引き締まった。

「見ての通りだぜ、霊夢! 今から私たち全員、寄ってたかってお前を殺す。死にたくないなら……自分を、取り戻せ。幻想郷の博麗霊夢に、自力で戻って見せろ。紫……逃げるなら、最後のチャンスだぜ」

「……やりなさい……魔理沙……」

 血を吐きながら、紫は即答する。

「……私は、ここで……霊夢の輪郭を、維持し続ける。貴女たち全員で……輪郭の中身を、霊夢に……思い出させて……貴女たちの、弾幕で」

『ふ……ふっふふふ、やはり面白いな。君たちは実に』

 月が、悦んでいる。

『弾幕使い! 苛烈に峻烈に激烈に生きながら、死へと向かい続ける者たちよ。祝福しよう、私は永遠に君たちを!』

 輪郭すら失いつつある霊夢に、月光が注ぎ込まれてゆく。

 呪符と陰陽玉の弾幕が、激しさを増す。

 それに抗うように、レミリアは真紅の宝珠を投射した。それに、無数のナイフが追随する。

 妖夢が、楼観・白楼の二刀で、縦横の斬撃を繰り出した。光の十文字が、蝶の群れをまといながら宇宙を切り裂いて行く。

 魔理沙のマスタースパークが、轟音を発し、輝きを強めた。

 宇宙を明るくする爆炎の閃光を取り巻く形に、無数の光弾とレーザー光が走る。アリスの人形たちが、放ったものだ。

 全ての弾幕が、霊夢に、紫に、ぶつかって行った。



 かつて、月は戦乱の時代にあった。

 それは、月の民が愚かであったから、ではない。

 知的生命体は、穢れとは無縁でいられないのだ。

 自分が生きる事、自分を守る事。それは時として、他者を滅ぼす事となる。

 個体数が増えれば増えるほど、そのようになってしまう。

 生きる事は、死へと向かう事。

 生きる事、そのものが死の穢れ。

 それを拒絶し続けた結果が、ここにある。

「賢者・八意永琳よ……貴女には、この結果が……この有り様が……見えていたと言うの……?」

 この場にいない、かつての盟友に、嫦娥は語りかけていた。

 眼下に広がるは、静寂の都。眠りの都。

 死の都、と言っても良いのではないか。

 整然と並ぶ、無数の建造物。それらの中では、月の民が細々と生命維持をしている。

 機械の棺とも言える生命維持装置の中で、最低限の栄養分だけを供給され続けている。

 生存。

 それ以外の活動が一切、不可能となった生命体。それが月人だ。

 死へと繋がりうるもの全てを、ことごとく穢れと断じ、拒絶し切り捨ててきた結果である。

 広大な墓場、にも見えてしまう月の都の上空に今、嫦娥は、優美な肢体を佇ませている。

 見渡す限りの、静寂の都。どの区画にも、平穏が満ちている。

 月の都では、誰も揉め事を起こさない。

 永遠の平和、そのものの光景ではある。

 平和の都に、しかし今、滅びが迫っているのだ。

「やめて……」

 懸命に護りを念じながら、嫦娥は哀願した。

「貴女が、これ以上……力を振るったら……月の都は……月の民は、滅びてしまう……お願い、やめて……死の天使よ……」

『滅びを、死を、この機会に学びたまえ』

 死の天使サリエルの力が、音もなく荒れ狂っている。

 月の都全域に嫦娥は今、護りの結界を張り巡らせていた。

 そこに、荒れ狂う死の天使の力が容赦なく際限なく、ぶつかって来る。

『私は今、博麗靈夢に力を注ぎ込んでいる……月の女王よ。君の結界に今ぶつかっているのは、その力の流れの余波に過ぎないのだぞ? 月の都の民は、そんなもので滅びてしまうのかね』

「貴女の力の余波が、私の結界に激突する……その衝撃と振動だけで、月の民は死に絶えてしまいかねない……」

 静かに、音もなく、空に亀裂が走った。

 結界が、ひび割れたのだ。

「……嘲笑うがいい。全ては、私の愚かさが招いた事態……」

 そちらに嫦娥は、護りの念を向けた。

 亀裂は、消え失せた。

「私は、月人という種族を……宇宙で最も脆弱な生命体に、してしまった……」

 天空の、別の一角に亀裂が生じた。

 護りの念で、嫦娥は、その亀裂を塞いだ。

「……だから……滅びても良い、と言うのか……?」

 空の3箇所、4箇所で、亀裂が生じた。

 護りの念を強めながら、嫦娥は血を吐いた。

「お前たち……穢れに満ちた者どもが、荒れ狂い相争う……その余波で滅びてしまうような生き物は……この宇宙に、必要ないとでも……?」

 亀裂が、増えて行く。広がってゆく。

 嫦娥は、血の涙を流していた。

「死の穢れに満ちた、この宇宙で……穢れなく生きる事は、許されないとでも……」

『君が、死の穢れと呼ぶものを……嫦娥よ、君は間違いなく持っている』

 サリエルが言った。

 いや。月そのものが、言葉を発している。

『月の民を守るために、君は今、私と戦い、死に向かいつつある。原初の蓬莱人よ……君もまた、そうなのだよ』

 月という天体に秘められた、死の穢れ。

 それが、死の天使サリエルという存在なのだ。

『死へと向かって生き続ける。不死の蓬莱人とて、その宿命からは逃れられない。君も、蓬萊山輝夜と藤原妹紅も……八意永琳も。死へと向かい続ける生を、永遠に繰り返す存在なのだ。素晴らしいではないか』

 蓬莱人と成れば、死の穢れを払い落とす事が出来る。死の穢れと、永遠に無縁でいられる。

 穢れなき絶対者となって、月の民を永遠に守り導く。

 あの頃。自分は、本気でそんな事を思っていたのだ。

 護りの念を、嫦娥は魂の底から振り絞った。

 亀裂が、1つ消えている間に、4つ5つと増えてゆく。

 護りの結界が、崩壊しつつある。

 結界の外で吹き荒れる、死の穢れ。その少量が月の都に流れ込んだだけで、月人は死に絶えるだろう。

「……私が……間違っていた……の……?」

 1つ、大きな分岐点があった。

 友がいた。彼女は、穢れの塊だった。

「貴女がいたら、月の民は……死の穢れに、まみれる。生死を受け入れ、生きるため守るために他者を滅ぼす、強靭な生命体となって……またしても、戦乱を引き起こしていた……だから私は、貴女を排除した……」

 結果、永遠とも思える静寂の平和が保たれた。

 だが。それをこうして脅かすものに抗する力を、月人は根元から失ってしまったのだ。

「…………純狐……」

「護りてえか、こいつらを」

 声がした。

「私に言わせりゃ、生きてるかどうかもわからねえ……そんな連中でも、そうか。護りてえんだな」

 穢れを、嫦娥は感じ取った。

 月の上空。暗黒の宇宙の一部分に、とてつもない穢れが集結してゆく。

 かつての戦乱の時代を思い起こさせる、禍々しく懐かしい穢れ。

 それが全宇宙から、月の空の一点へと、凄まじい勢いで萃まってゆく。

「貴女は…………!」

「……苦労……したぜぇ。ここまで萃まるのぁよ……微粒子の、そのまた破片くらいまでバラけちまったからなあ……」

 集結・融合したものが、1つの形を成した。

 小さな少女、に見える。

 島宇宙ひとつ分の穢れが、小さな少女の形に圧縮され収められ、そのまま隕石の如く降下する。

 月の都からは遠く離れた、月面のどこかへと。

 死の天使が、息を呑んでいる。

『何者……!』

「へっへへへ、通りすがりの酔っ払いだぁなあ!」

 ブラックホール並みに超圧縮された穢れの塊、である小さな拳が、月面の大地を穿つ。

 その衝撃と震動で、護りの結界が砕け散った。

 死の穢れは、しかし月の都には流れ込んで来ない。

 その少女は、まさしく小さな人型のブラックホールであった。吹き荒れる死の穢れを全て、一身に吸い寄せ萃めてくれている。

 そんな状態で、月に、死の天使に、一撃を喰らわせたのだ。

 咆哮を、轟かせながら。

「霊夢よぉ、いつまでもトチ狂ってんじゃねえぞぉおおおおおおおおッ!」

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