第79話 ルナティック
原作 上海アリス幻樂団
改変、独自設定その他諸々 小湊拓也
八雲紫が、血を吐いた。
たおやかな肢体が、前屈みにへし曲がっている。
細い腹部に、陰陽玉の直撃を喰らっていた。
色とりどりの陰陽玉が無数、不規則に宙域を飛び交っている。
……否、不規則ではない。
でたらめに飛び回っているように見えて、その陰陽玉たちは間違いなく、この場に集う弾幕使い一人一人に狙いを定めている。
「紫様……!」
動きかけた八雲藍が、同じく陰陽玉の直撃を喰らった。
鮮血の飛沫を宇宙空間に垂れ流しながら、紫も藍も吹っ飛んで行く。
「紫様! 藍さまぁあああっ!」
なりふり構わず追いかけようとする橙を、カナ・アナベラルは無理矢理に抱き寄せて止めた。
「危ない……駄目だよ、迂闊に動いたら」
化け猫の少女を背後から抱く、騒霊の少女。
その周囲を、道路標識が旋回し、襲い来る陰陽玉を1つ2つと打ち返す。
猫の耳に、カナは囁きかけた。
「……あの2人なら大丈夫。今は、自分で自分の身を守らなきゃ」
「くっ、くそっ! 博麗の巫女あいつ!」
カナに抱かれたまま、橙は牙を剥いた。
「とち狂って、敵味方の区別ついてない! 許せないね!」
「んー……とち狂っている、わけじゃなくて」
カラフルに吹き荒れる、陰陽玉の嵐。
その向こうにあるものを、カナは見つめた。
博麗靈夢と霧雨魔理沙が、対峙している。
靈夢は亀に騎乗し、魔理沙は箒にまたがっている。
「また、私の邪魔しようって言うのね魔理沙」
靈夢の右手では、お祓い棒が紙垂を揺らめかせている。
左手では、何枚もの呪符が扇状に開いている。
「何度目かしらね? それって」
「……さあな。これから先も、何度だってあるだろうよ」
魔理沙の周囲には、いくつもの水晶球と無数のスターダストミサイルが浮かんでいた。
「お前と私は……仲良く協力して異変解決なんて絶対、出来やしないんだ。どっちかが動けば、どっちかが必ず邪魔をする。そういうふうに出来ちまっているんだよ」
「出来ている? ふん。誰かが作っているとでも言うわけ!?」
「そんな奴が、いるとしたら……」
魔理沙の表情は、暗い。
悲しみのようであり、憤りのようでもあり、どちらでもない何かを今、魔理沙は噛み締めている。
「……そいつの思い通りに、なりたくない。私はそう思ってるぜ、靈夢」
「わけの、わからない事を……ッ!」
靈夢は、呪符の束を投げ撒いた。
「私は、あんたを自分の意思でぶちのめす! ここにいる全員、私の意思で撃滅する! 元々、誰の思い通りにもなっていなぁあああい!」
「靈夢……」
「視界にあるもの全部が、特に理由もなく破壊対象! それが弾幕戦ってぇもんでしょうがッ!」
「……それも、わかる。ったく、どうしようもないよな……私ら、弾幕使いって生き物は」
無数の呪符が、戦場全域を飛び交った。
陰陽玉の嵐と合流し、魔理沙のみならず、カナを襲う。橙を襲う。
「……とち狂っている、わけじゃないわ。あれが元々の、博麗靈夢」
呪符を、陰陽玉を、辛うじて回避しながらカナは言った。
「敵味方の区別、って言うより……全部、敵。靈夢の味方なんて、あの亀さんくらいね」
橙は、とうの昔にカナの抱擁を脱出し、靈夢の弾幕を自力でかわしている。
靈夢への罵詈雑言を叫びながら回転し、毛玉のようになりながら宇宙空間を飛び回り、呪符や陰陽玉を回避し続けている。
少なくとも回避の技量だけは八雲紫・藍より上かも知れない、とカナは思った。
「元気そうだな、鳥屋」
声を、かけられた。
襲い来る呪符の嵐を、月牙杖で切り裂きながら、いつの間にか魅魔が背後にいた。カナと、背中を合わせている。
「魅魔……」
「もう会う事もない……と思っていた奴ほど、うっかり再会してしまう。今度は敵同士じゃなくて、まあ何よりだ」
「魔理沙は……ほら。貴女という鳥籠を出て、元気にやってるよ」
スターダストミサイルの嵐を、魔理沙は靈夢に叩きつけていた。
そうしながら、いくつもの水晶球からレーザーを迸らせる。
靈夢は、大量の呪符を自身の周囲で渦巻かせていた。
その渦に、魔理沙の弾幕が激突する。
スターダストミサイルが、レーザー光が、呪符たちを粉砕してゆく。
細かな紙片を蹴散らして、陰陽玉が飛んだ。
魔法の箒の上で、魔理沙は身体を傾けた。
その傍らを、陰陽玉が高速で通過する。
靈夢の周囲には、いくつもの陰陽玉が浮かんでいた。
その1つが、
「抹殺!」
靈夢の、お祓い棒の一撃で打ち出され、魔理沙を襲う。
「くっ……!」
魔理沙はかわせず、眼前に魔法陣を出現させていた。
魔力の、防壁。
それが、陰陽玉の直撃で砕け散る。
いくらか勢いの弱まった陰陽玉を、魔理沙はどうにか回避した。
その間、靈夢は容赦なくお祓い棒を振るい、周囲の陰陽玉を全て叩き飛ばしていた。魔理沙1人に向かってだ。
魔法陣の形をした防壁が複数、出現と同時に砕け散った。
いくつもの防壁を発生させながら魔理沙は、回避と言うより逃走に追い込まれていた。
魔法陣の破片を蹴散らして飛来する陰陽玉たちを、辛うじてかわしながら、魔法の箒の速度を上げる。高速で、靈夢から遠ざかって行く。
魔理沙への加勢に動きかけた魅魔を、呪符の嵐が猛襲した。
綺麗な歯を食いしばりながら魅魔は、縦横無尽に月牙杖を振るい、全ての呪符を切り刻んだ。
カナは、両手に霊力を集中し、一気に放った。
放たれた大型光弾が、正面から飛来した陰陽玉を粉砕する。
色とりどりの陰陽玉が、しかしまだ無数、様々な方向から流星の如く襲いかかって来る。
全て、魔法陣に激突した。
魅魔とカナを取り巻く形に、無数の魔法陣が出現し、無数の陰陽玉を跳ね返していた。
「魔理沙の友達か、助かった!」
魅魔が、声を上げる。
「確かパチュリー・ノーレッジ、だったな」
「…………まあ、友達に見えてしまうのかしらね。貴女たちには」
魔理沙の半分程度しか生命力の無さそうな少女が、宇宙空間にふわりと佇んでいる。
「とりあえず魔理沙には……自力で、身を守ってもらうしかないわねっ」
か弱い肉体に鞭打って、パチュリー・ノーレッジは魔力を振り絞ったようである。
周囲の魔法陣全てに、その魔力が注入される。
強化された魔法陣が、呪符を、陰陽玉を、跳ね返し続ける。
「さあ、私の役に立ちなさい! 醜悪なるものたち」
パチュリーの周囲に、まさしく醜悪なるもの、としか言いようのない肉塊の群れが浮かび、片っ端から破裂してゆく。
その肉塊たちから、パチュリーは力を搾り取っているようであった。
「ふむ」
魔法陣を迂回して飛来する呪符を、月牙杖で切り砕きながら、魅魔が言った。
「なかなかやるな、パチュリー・ノーレッジ。お前ほど邪悪な魔法使い……地獄にだって、そうはいない」
「私……死んだら、地獄へ行けるかしら」
パチュリーの口調が、静かな熱を持った。
「……あの御方に、お目通り……叶うかしら……」
強化された魔法陣が、しかし全て砕け散った。
光の破片を蹴散らして、いくつもの陰陽玉が押し寄せて来る。
「……ここで、あっさり死ぬようじゃ駄目だな」
言葉と共に、魅魔は力を解放した。
光の刃が無数、生じて飛散し、陰陽玉たちに激突する。
激しい相殺が起こった。光の刃も陰陽玉も、砕け散っていた。
「あがいて生き延びろ、パチュリー・ノーレッジ。見苦しくとも命の限り、戦い抜いてから死んで地獄へ堕ちろ。あの人はな、そういう魂が大好きなんだよ」
「お前……」
戦いの最中であると言うのに、藤原妹紅がいささか間抜けな声を発している。
「…………輝夜……なのか……?」
「寝ぼけていないで! この状況を何とかするため死力を尽くしなさい!」
きらきらと美しい弾幕を振り撒きながら、しかし蓬莱山輝夜は逃げ回っていた。
小さな幼い身体が、長い黒髪を振り乱しつつ懸命に飛翔している。まるで、妖精のように。
まさしく博麗霊夢が弾幕で妖精を殺戮する、幻想郷の日常的風景、に見えなくもなかった。
無数の呪符と陰陽玉から成る、霊夢の弾幕。
暴風雨の如く吹き荒れ、輝夜を強襲している。
輝夜の弾幕ですら、この破壊の暴風雨の中にあっては、弱々しい花火のようなものであった。
色とりどりの煌びやかな光弾が、輝夜の幼い身体から溢れ出しては、呪符と陰陽玉に粉砕され蹴散らされる。
蓬莱人は、不死身であるという。
現に輝夜も、肉体を切り刻まれ、魂の状態から、ここまで再生を遂げたのだ。
そんな再生も不死身も、今の博麗霊夢の前には無意味、無力。
魂魄妖夢は本気で、そんな事を思った。
蓬莱人であろうと、殺される。そう思えた。
思いつつ、楼観・白楼の二刀を左右に一閃させる。
斬撃の弧が生じ、襲い来る陰陽玉とぶつかり、砕け散る。
陰陽玉は無傷であるが、勢いを弱めながら軌道を変え、あらぬ方向へと飛んで行く。
別の陰陽玉が複数、様々な方向から妖夢を襲う。
全て、かわすしかなかった。
回避に追い込まれる一方である。輝夜の救助に向かう事が出来ない。
「撃滅する! 私の目に映るもの、全て何もかも!」
宇宙を飛ぶ海亀の甲羅に立ったまま、霊夢は吼えた。
「目の前にあるもの、全てを破壊して! 私たちは前に進む、先へ進む! さあ、行くわよ玄爺」
「どこへ……」
海亀が、言葉を発している。
「全てを破壊しながら……どこへ、向かおうと言うのですか。ご主人様……」
「どこまでも! 私と玄爺なら、どこまでだって行けるわ!」
悦び叫びながら霊夢は今、この宙域にいる弾幕使い全員を相手に、戦っている。
否。このままでは戦いにすらならない。
博麗霊夢ただ1人による、一方的な大量虐殺に今、すでになりかけている。
「これが……」
飛来する呪符を、白楼剣で切り払いながら、妖夢は呻いた。
「屍と化し、あるいは自我を失う事で……博麗霊夢、貴様が垣間見せてきたもの……」
何かを今、妖夢は受け入れつつあった。
「……わかる。確かに、貴様の言う通り……かも知れん。目の前にある全てを撃滅し、ただひたすら前へと進む。それが、それこそが……我ら弾幕使いの、本質……」
襲い来る呪符が、陰陽玉が、ことごとく砕け散った。
斬撃の嵐が、吹き荒れていた。
1人の剣士が、宇宙空間を激しく蹴って踏み込みながら、光の刃を振るったところである。
妖夢では軌道を変えるのが精一杯であった陰陽玉を、一閃でことごとく斬り砕きながら、星幽剣士コンガラは霊夢に迫る。雄叫びを轟かせ、斬りかかる。
「……やめろ! 無茶が過ぎる!」
妖夢の声は、届かない。
霊夢は避けず逃げず、不敵に微笑みながら、両手を合わせた。
合掌。いや、違う。
形良い左右の五指が、目まぐるしく印を結んでゆく。
九字、であった。
臨、兵、闘、者。
光の文字が、コンガラを直撃する。
星幽剣士の肢体が、宇宙空間に血飛沫をぶちまけて歪み捻れた。その手に握られていた光の剣は、粉々に折れ砕けていた。
何かを考える前に、妖夢は踏み込んだ。
光の文字が、立て続けにコンガラを襲撃する。
皆、陣、列、在、前。
うち「皆」を、「陣」を、妖夢は双剣で迎え撃った。
渾身の斬撃。
血まみれのコンガラを背後に庇い、楼観剣を叩き込む。白楼剣を閃かせる。
跳ね返された。
2本の剣は無傷だが、妖夢の両腕は衝撃に痺れ、感覚を失っていた。
皆、陣。2つの文字が、斬撃を受け、ひび割れている。ひび割れながら、襲いかかって来る。
妖夢とコンガラを取り巻いて浮遊する半霊が、光弾を速射した。
ひび割れていた皆・陣が撃ち砕かれている間、残る列・在・前が容赦なく迫って来る。
妖夢を、コンガラを、直撃する寸前で、それらはしかし止まった。
光で書かれた列、在、前の3文字に、ひらひらとした何かが群がり、まとわりついている。
蝶々、であった。
列が、在が、前が、蝶の群れに吸収され、薄れ消えてゆく。
呆然と、妖夢は呟いた。
「…………幽々子……さま……?」
西行寺幽々子の姿は、どこにも見えない。
蝶たちは、しかし妖夢を守る形に、ひらひらと宇宙を舞っている。
「…………すまぬ……」
コンガラが、弱々しく微笑んだ。
「……お前は、私よりもずっと強くなる……が、まだまだ未熟。そんな剣士に、無理をさせてしまったな……」
「貴様こそ……無理を、し過ぎだ」
妖夢の両腕に、じわじわと感覚が戻りつつある。
霊夢はお祓い棒を振るい、魔理沙のスターダストミサイルを打ち砕いていた。
魔理沙以外の弾幕使いは全員、無数の呪符と陰陽玉の嵐に襲われ、回避あるいは防御に追い込まれている。
「今の霊夢は……紛れもない、化け物だ」
楼観・白楼の二刀が無傷である事を、妖夢は確認した。
得物が無事であったところで、しかし出来る事があるのか。
「あんなものに単身、挑みかかるなど……お前が無双の剣士である事は認めるが」
「化け物……なればこそ、滅ぼさねばならぬ……」
牙を剥くように、コンガラは歯を食いしばった。
「わからぬか魂魄妖夢…………あれは、あの博麗靈夢は……この宇宙に、存在してはならないもの……地獄も、魔界も、お前たちの幻想郷も……制圧では済まぬ、滅ぼされるぞ」
「霊夢が、幻想郷を……」
妖夢は、思う。
博麗の巫女は、幻想郷を守る存在。
それを決めたのは一体、何者であるのか。
コンガラの言う『この宇宙に存在してはならないもの』が、『博麗の巫女』という形と『幻想郷を守る』という方向性を与えられた結果、誕生したもの。
それが、博麗霊夢ではないのか。
突然、炎が燃え上がった。
「ぼさっとするな! しっかりしろ、魂魄妖夢!」
声を張り上げながら、炎の翼を広げた者がいる。
「お前にも、助けなきゃならない相手がいるんだろう!」
「藤原妹紅……」
紅蓮の羽ばたきが、呪符の嵐を焼き払い、いくつもの陰陽玉を粉砕する。
灰を、破片を、熱流に漂わせながら藤原妹紅は、輝夜の小さな身体を両腕に抱いていた。
「待たせたなあ輝夜、助けに来てやったぞ? さぞかし恐かったろう、よしよし。もう安心だからなあ」
「ね、寝言ほざいてんじゃないわよ。私が貴女を助けてあげたんでしょうがっ!」
「うっふふふふふ、小っちゃい小っちゃい。小っちゃいなあ。ずっとこのままなら、いいのに」
じたばたと暴れる輝夜を、強靱な細腕で愛おしげに捕獲したまま、妹紅は見上げた。
月を背景に弾幕を操り、この宇宙そのものを蹂躙する、博麗霊夢の姿を。
「……月、だな」
妹紅は言った。
「月は、妖怪に活力を与えるものだが……今の博麗霊夢は、妖怪よりも厄介な何かだ。ただでさえ化け物じみた強さが、月の光を浴びて尚更、手に負えなくなっていると。そういう事だな?」
「……間違いない。月が、霊夢に力を与えている」
妺紅の言葉を肯定したのは、綿月依姫である。
姉・豊姫に肩を貸しながら、自身の生まれ故郷である天体を見据えている。
「月の、地中深くに封じられたるもの……最古の、穢れ……それが今、霊夢と……共鳴、してしまった……」
「やめて……」
豊姫が、声を震わせた。
「お願い、やめて……貴女が、力を解放したら……月の民が、死に絶えてしまう! だからやめて……どうか、死の天使よ……」
『……私は、生きる者たちが大好きだ』
月が、言葉を発した。
月の地中に封じられたるもの……ではなく、月という存在そのものではないのか、と妖夢は思った。
『死へと向かって命を燃やし、戦い抜く者を、祝福せずにはいられない……だから蓬莱人よ、死を拒絶してしまった君たちを本来ならば許せぬところだ』
「ふん、許せないなら殺してみるか?」
『藤原妹紅、それに蓬莱山輝夜、君たちを見て少しだけ考えが変わった。苛烈な生と死を永遠に繰り返す、それもまた良し……蓬莱人とは、不死の存在ではない。死を、無限に繰り返す生命体なのだな』
「月の都の民は、生も死も拒絶してしまった」
妹紅の腕の中で、輝夜が言った。
「だから許せない、と?」
『許せないと言うより、興味が湧かない。顧みよう、という気持ちになれない』
月が、輝きを増した。
太陽光の反射ではなく、自身が発光しているように見えた。
その光が、霊夢を照らし、霊夢に注がれてゆく。
『……この博麗靈夢は、素晴らしい。死に向かって苛烈に生き続け、滅びに向かって激烈に突き進む……その在りようを何故、祝福せずにいられようか! 生死を拒絶して安穏と眠り続ける者どもなど、滅びてしまうならば滅ぶが良い。さあ戦え、博麗靈夢! 大いに死をもたらすのだ』
「死を…………」
妖夢は、感覚の戻った両腕で楼観・白楼の二刀を構え直した。
「……違う。それは違うぞ、死の天使よ。この世で、この宇宙で……大いに、死をもたらす存在。それは博麗霊夢でもなければ、貴様でもない」
蝶の群れが、妖夢の周囲で、ぼんやりと輝いた。
「そう……ですよね、幽々子様。死を司る存在、それは貴女……」
「……幽々子が、近くにいる。それは間違いないわね」
声がした。
八雲紫が、九尾の妖獣にすがりつくようにして、そこにいた。
八雲藍も、無傷ではない。
妖夢は、まずは確認した。
「……八雲の者ども、まだ戦えるのか? 動けないなら下がれ」
「今は……動けなくとも、力を尽くす時よ」
紫は言った。
「霊夢を元に戻す。力を貸しなさい、魂魄妖夢」
「……手立てが、あるのか?」
「輪郭を」
紫は、吐血を呑み込んだようだ。
「霊夢の輪郭を、しっかりと定める……霊夢自身に、定めさせる。私たちの知る、博麗の巫女としての……輪郭を、ね」