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異説・東方永夜抄  作者: 小湊拓也
67/90

第67話 虚空を舞う不死鳥

原作 上海アリス幻樂団


改変、独自設定その他諸々 小湊拓也

「しゃああああああああッ!」

 橙の元気な叫び声が、宇宙空間に響き渡る。

 愛らしい指先から、赤い爪が刃物の如く伸びて閃いた。

 幾度も、幾度も。

 立て続けの斬撃が、植物の塊を切り裂いてゆく。

 花や草葉が少量ずつ刈り取られ飛び散るが、それらは即座に再生し、生い茂って伸びながら、化け猫の少女を絡め取る。

 人型の、植物の塊の中に、橙の小さな身体はやがて完全に呑み込まれてしまった。

 そう見えた直後。

 その人型植物は、破裂していた。

 無数の花々が、根と草葉が、ちぎれ飛びながら枯れ崩れる。

 それらを蹴散らして、無数の光弾が全方向に飛ぶ。

 二又の尻尾が跳ねる。

 無傷の橙が、そこにいた。

 人型植物の体内で、弾幕をぶちまけたのだ。

「ふふふん。弾幕使いを丸呑みする、それ即ちこういう事ね!」

 得意げに楽しげに、橙は回転をして次なる敵へとぶつかって行く。

 植物の塊。死の天使。敵は、まだまだ多い。

 思いのほか、橙は腕を上げた。本当に頑張っている。

 それは認めなければならない、と八雲藍は思うが、それでも、この戦いは橙にとってはあまりにも危険だ。

 早急に、終わらせなければならない。

 多方向から襲い来る光弾やレーザーを、かわし、あるいは九尾で打ち払いながら、藍は妖力をばら撒いた。

 美しい両手から拡散した妖力が、いくつもの光球に変わった。

 それらが、一列に並んだ。まるで巨大な脊柱のように。

 並んだ光球たちが、一斉にレーザーを放つ。光の脊柱が肋骨を伸ばした、ように見えなくもない。

 レーザー化した妖力の線条が複数、宇宙空間を切り裂いて走りながら、人型植物たちを直撃する。

 無数の植物を人型に繋ぎ止める根が、ことごとく灼き切られた。

 植物の塊たちが、ちぎれて舞い散りながら萎びて崩壊し、やがて消滅する。

「……やるねえ。大したもんよ、本当に」

 声。

 光の嵐が、藍を襲った。光弾の連射だった。

「自力で弾幕撃てる連中、羨ましいわ本当に!」

 北白河ちゆりが、白い水兵服を着た細身の、どこかから光弾を放っている。

 何かしら、武器を隠し持っているようだ。

 魔力でも妖力でも、霊力でもない光弾。

 その連射を、藍は己の弾幕で迎え撃った。妖力を、無数の光弾に変えて放散する。

 弾幕と弾幕が、ぶつかり合った。

 ちゆりと藍、両者の光弾が、触れ合うと同時に激しい相殺を起こし、爆発する。

 爆発に圧され、後退する藍を、

「うちの教授が、欲しがるわけだ……」

 後方から、光が襲った。

 閃光の、線条。魔力妖力霊力いずれとも違う謎めいた力が、レーザー化したもの。

 一体どこから発射されたものか見当もつかぬそれらを、藍は危うく回避した。

 ちゆりが、何か言っている。

「お前らの魔力やら妖力とか霊力ってさ、無くなってもある程度は気合いと根性で補えるんだろ? 私らは駄目。エネルギーの供給が途絶えたら、いくらやる気があってもそこでゲームオーバーなわけよ。何つう不公平」

 言いながら、どこからかレーザー光を召喚している。

 九尾をなびかせて藍は宇宙空間を高速で泳ぎ、かわし続けた。

 かわした先で、無数の光弾が密集し渦巻いている。

 死の天使たちの弾幕。

 その真っただ中へと藍は今、突入しつつある。

「しまった……!?」

 などと藍が呻いている間に、密集する光弾の渦が、容赦なくぶつかって来る。

 醜悪なものたちが、砕け散った。

 罪悪の袋たち。飛び込んで来て藍の盾となり、密集弾幕の直撃を喰らって破裂する。

 汚らしい肉片や体液が、飛び散りながらキラキラと、美しい光に変わってゆく。

 光弾だった。

 無数のそれらが、死の天使の軍勢に襲いかかる。

 金属製の女人像、のような全身甲冑の群れが、その弾幕を跳ね返し、無傷のまま迫って来る。

 藍は、ちらりと見渡した。一瞥で確認した。

 植物の塊は、もはや1体も視界の中に存在しない。殲滅したのか。

 残された死の天使たちが翼を広げ、光弾の嵐を吹かせ、レーザーの豪雨を降らせてくる。

「ら、藍様。こいつら、こいつら」

 橙が、かわすと言うより逃げ回っていた。

 逃げ回る化け猫少女を庇って、罪悪の袋たちが撃ち砕かれてゆく。

 その間。光の脊柱から放たれる妖力レーザーが、死の天使たちを直撃した。

 無傷だった。

 美しい有翼の甲冑が、妖力レーザーをことごとく弾き返しながら羽ばたき、弾幕を放つ。

 放たれ押し寄せる光弾とレーザーの嵐を、辛うじて回避しながら、藍は息を呑んだ。

 死の天使が、明らかに強さを増している。

「……はん、そういう事か」

 ちゆりが、にやりと笑う。

 この少女が何を言っているのかは、すぐ明らかになった。

 月、それに城郭の如き可能性空間移動船。

 そんな背景の戦場全域を睥睨するが如く、天使が出現していた。

 6枚の翼は、戦う者たち全てを包み込むが如し、である。

 青い、優美にして荘厳なる姿。

 その笑顔は、見る者を呆然とさせる。陶然とさせる。

 このまま、命を奪われても良い。

 藍は一瞬、そんな思いに囚われた。

 見ただけで、わかる。

 これが、これこそが、死の天使。

 翼ある金属製の女人像たちは、その分身でしかない。

 分身の群れが今、本体によって力を与えられたのだ。

「弾幕戦……ああ、弾幕戦……」

 死の天使が、嬉しそうにしている。

「いても立ってもいられない……つい、出て来てしまった。どうか私も混ぜておくれよ」



『来たわね……』

 満月のような円盤に浮き彫りされた女が、呟く。

『封印の守護者・嫦娥は……月の都を守る結界にのみ、力を注ぎ込んでいる』

「封印の維持よりも、月の民を守る事を優先させたか」

 シンギョクが言った。

「あのような民を、そこまでして守るのか……いや、それは言うまい。ともかく嫦娥は、封印に力を注ぐ事を放棄した。その結果」

 何かの封印が、解かれてしまった。

 両名の会話から、パチュリー・ノーレッジは、それだけを聞き取った。

「死の天使……サリエル……」

 6枚翼の優美・荘厳な姿を見上げ、アリス・マーガトロイドが呻く。

「あれに与して、神綺様に背いた者たちがいる。今更、咎めはしないけれど……わけを聞きたいわね」

『……甘いのです、神綺様は』

 災いの眼ユウゲンマガンが、応える。

『あの方では、我ら魔族の未来は閉ざされたものにしかならぬ。私も、エリスも、幻月・夢月も、そう思った……いや、あの姉妹はわかりませんが』

「あの姉妹を、神綺様は……完全に抑え込む事が出来なかった。そこは確かに、甘いと言えるかも知れない。それよりも」

 言いつつ、アリスは繊手を振るった。見えない糸で、人形たちを操った。

 盾を掲げた人形たちが、弾幕を防御しながら揺らぐ。

 死の天使たちが放つ、光弾とレーザーの豪雨。

 人形たちの盾が、砕け散っていた。

「火力を、増している……」

 アリスが、綺麗な歯を食いしばった。

「死の天使の、封印が……完全に解けてしまったから……?」

「狼狽えては駄目よ、アリス」

 パチュリーは言った。

 言葉に合わせて、いくつもの魔法陣が宇宙空間に描き出される。

「死の天使サリエル……なるほど、確かに恐るべき存在。けれど認識しなさいアリス、私たち魔法使いの力の源泉。全宇宙の、魔法の司」

 それら魔法陣が、弾幕を放出していた。

 色とりどりの、光弾の雨。レーザー化した魔力の奔流。小さな太陽にも似た、爆炎の塊。

「……それは、もっと偉大にして強大なる御方よ」

 その全てが、死の天使たちを直撃する。

 光や爆炎の飛沫が、きらきらと舞い散った。

 まとわり付くそれらを振り払うように、天使たちが羽ばたく。

 女人像のような全身甲冑は、全くの無傷である。

「……そんな!?」

 息を呑むパチュリーに、死の天使サリエルが微笑みかける。

「子供じみた対抗意識など持ちたくはないが……地獄の女神とは、いずれ決着を付けたい」

 宇宙を包むが如く、6枚の翼を広げた姿。

 その翼から、力が降り注ぐ。

 降り注ぐ力が、無数いる分身たちに際限なく注入される。

 金属製の女人像、のような有翼甲冑の群れが、際限なく強化されてゆく。

 強化された力が、弾幕となって放たれた。

 光弾とレーザーの嵐が、吹き荒れる。

 パチュリーも、アリスも、掘っ立て小屋のような住吉ロケットも、もろともに粉砕する勢いで。

 粉砕されたのは、汚らしいものたちであった。

 パチュリーの作品、と呼べなくないものたちが飛来し、天使の弾幕に撃ち砕かれてゆく。

「おい、紅魔館の腐れ外道……!」

「何だ、その様は! くそ外道らしく、もっと図太くなってみろ……」

「そして紫の役に立て! この役立たずが」

 八雲紫が『罪悪の袋』と呼ぶ、醜悪な生命体の群れ。

 それがパチュリーの盾となり、アリスの盾となり、ロケットの盾となって、砕け破裂し、潰れ散ってゆく。

「君が……作り出したのか、その者たちは……」

 サリエルの美貌に、怒りに近いものが露わになった。

「……命は、安らかに眠らせるもの。弄ぶものではない……死を司る者として、君の行いは許せぬ」

「そう。それなら私も、お前を許さない事にするわ」

 高圧的な声。

 天使が開いた6枚の翼と比べ、いくらか頼りない皮膜の翼を広げて、その少女は宇宙空間に佇んでいた。

「私の行く手を阻んだ罪……軽くは、ないわよ」

 愛らしい片手で、巨大な光の槍を掲げている。

 掲げられた槍が、強化された死の天使を何体か、串刺しにしていた。

「悪魔族……?」

 サリエルが、興味を示している。

「……いや、吸血鬼か。それにしては、大悪魔と見紛うばかりの力……これほどの個体が、この宇宙にまだ存在していたとは」

「今しばらく持ちこたえなさい、パチェ」

 絶大な魔力の塊である可憐な細腕で、レミリア・スカーレットは槍を振るった。

 串刺しになっていた何体かが、裂けてちぎれて飛散し、跡形も無くなった。

「目障りに翅を広げて、道を塞ぐ障害物……今、取り除いてあげるわ」



 植物の塊は、あらかた殺し尽くしたようである。

 その分、と言うべきであろうか。死の天使たちが謎の強化を遂げ、獰猛に飛行速度を上げながら宇宙空間を飛び交っている。

 そして光の弾を、光の線条を、暴風雨の如く吹きすさばせる。

 藤原妺紅は、炎の翼を広げた。

 暴風雨の如き光の弾幕を、紅蓮の羽ばたきで打ち払った。

 炎の翼が、砕け散った。

 大量の火の粉を、血飛沫のように漂わせながら、妹紅は歯を食いしばる。

「ぐっ……こいつら……ッ!」

 漂う火の粉が一粒一粒、膨張し燃え上がり、炎の弾に変わった。

 紅蓮の弾幕。

 燃え盛る流星雨のように、死の天使たちを襲う。

 全て直撃した。

 女人像の如く優美なフェムトファイバー甲冑の群れは、炎の飛沫を蹴散らしながら全くの無傷である。

 無傷の天使たちに、妹紅は飛び蹴りで突っ込んでいた。

 炎まとう蹴りが、フェムトファイバー甲冑の1体を激しくへし曲げる。

 へし曲がった甲冑は、しかしやはり無傷だ。すぐさま翼を開いて体勢を立て直し、至近距離から妹紅に弾幕を撃ち込まんとする。

 天使の、金属製の細首を、妹紅は右手で掴み捕らえていた。

 鋭利な五指が、炎を発する。

 燃え盛る火焔の鉤爪が、死の天使の頸部を拘束・圧迫する。

 こんな事をしても、絞め殺せるわけではない。首を捻じ切る事も出来ない。

 構わず妹紅は、さらなる炎を右手から流し込んでいった。フェムトファイバー甲冑の、首の部分へと。

 死の天使が、炎に包まれた。炎の中で無論、無傷のままである。

 だが、動きは止まっていた。

「そう……このクソ頑丈な鎧をなぁ、何も馬鹿正直に叩き割る必要ないんだよ」

 妹紅は、にやりと微笑んだ。

「中身を、蒸し焼きにすればいい……穢れを燃料に燃える、この炎でなあっ!」

 無傷の甲冑の中で、中身が、穢れの炎熱で煮立ってゆく。泡立ち、破裂し、蒸発する。

 中身が消滅すれば、この謎めいた強化も無効となる。

 空になった甲冑が、ぼろぼろと焦げて崩れた。

 その時には、妹紅はすでに、そこにはいない。

 炎の翼をはためかせ、飛翔している。

 死の天使たちが放射する弾幕の嵐、その真っただ中を。

 降り注ぐ光弾を、レーザーを、泳ぎ抜けるように回避する。

 確かに、防御も火力も強化されている。だが。

「……狙いが、今ひとつだなっ」

 死の天使の1体を、妹紅は右手で捕らえた。

 もう1体を、左手で掴んだ。

 炎の鉤爪が燃え上がり、2体のフェムトファイバー甲冑を激しく加熱してゆく。

 両手にそれぞれ1体ずつ捕獲した天使を、妹紅は炎熱で煮沸しながら振り回した。

 襲い来る光弾とレーザーの嵐を、打ち払っていた。

「輝夜……」

 呼びかけ、見回す。

 盾に用いた天使2体が、やがて砕け散って消滅する。

 すぐさま別の2体を、炎の鉤爪で捕獲しながら、

「どこだ、輝夜……おい、どこにいる……!」

 妹紅はなおも呼びかけるが当然、返事はない。

 炎の翼をはためかせ、炎の尾羽を引きずり、炎の盾と化した天使2体を振り回し、妹紅は飛翔した。

 そして叫んだ。

「ごめんな輝夜! 私、お前に謝らなきゃいけない!」

 炎の盾が、2つとも焦げ砕ける。別の2体をまた捕獲する。

 ひたすら妹紅は、それを繰り返した。

「私が大人げなく、ちょっと本気出したせいで! お前も本気出さなきゃいけなくなって、私以外が見えなくなって! つまらん不意打ち食らって、無様に切り刻まれた。わかるか!? 全部、私のせいなんだ。お前の弱っちさを見抜けず、うっかり本気を出しちまった私が悪い! ごめんなぁああああああッ!」

 月の関係者たちに『穢れ』と呼ばれ続けたものが、妹紅の中で激しく燃え上がる。

「弱っちい輝夜、謝るから出て来ぉーい! クソザコ輝夜、どこへ消えた! いい子だから出てこぉおおおおおおおい!」

 燃え盛るものが、妹紅の全身から溢れ出した。

 炎の轟音が、無音のはずの宇宙空間に響き渡る。

 紅蓮の翼が巨大に燃え盛り、戦場を焼き払う。

 紅蓮の尾羽がプロミネンスの如く燃え伸びて荒れ狂い、戦場を薙ぎ払う。

 巨大な不死鳥の、羽ばたきであった。

 死の天使たちが、吹っ飛びながら灰に変わった。

 炎の翼が、炎の尾羽が、全ての甲冑の中身を一瞬にして蒸発させたのだ。

 宇宙空間が、綺麗に掃除されていた。

 死の天使は、妹紅の視界内には1体も存在しない。微量の灰が、漂うのみだ。

 その灰が、微かに揺れた。

 妹紅は、虚空に向かって炎の鉤爪を一閃させていた。

 細い光が、灼き切られて弱々しく漂った。

 そして、声。

「八雲紫だけではないわ。貴女たち全員、1人1人の位置座標を……もう少しで、特定出来るところだったのよ」

 揺らめく光をまとう、優美な人影がひとつ。静寂の宇宙に佇んでいる。

「そうなれば、貴女たちを遠隔攻撃で片っ端から切り刻む事が出来たのに……よくぞ、たった1人で私の所まで来たものね。他の子たちと連携して歩調を合わせよう、とは思わなかったの?」

「甚だ残念な事だけどな。他人に合わせられる奴が幻想郷には、そんなにいないんだよ」

 連携や集団戦闘を重視して、例えば住吉ロケットを中心に全員ひとかたまりに布陣していたとしたら。

 その全員が、光の糸の遠隔斬撃で切り刻まれていた、かも知れない。

「私も、レミリア・スカーレットや魂魄妖夢も、スキマ妖怪も他の連中も、てんでバラバラ好き勝手に戦ってる。その方がいいって場合もある」

「美しくないわね。貴女たちの、その戦いぶり……まさしく、穢れ」

 たおやかな右手で、揺らめく光を操作しながら、綿月豊姫は左腕に赤ん坊を抱いている。

 美少女に育つ、と明らかにわかる、可愛らしい女の赤児。

 泣かせたい、と妺紅は心から思った。

「そのような穢れを、近付けるわけにはいかない。月の都にも……輝夜にも」

 赤ん坊が、光の糸に包まれてゆく。

 繭、ではない。光の、揺り籠である。

「藤原妺紅。最初に貴女を見た時、私は侮っていたわ。虫ケラの如き地上人を材料に八意先生がお作りになられた、戯れの失敗作であると」

 赤児を内包した揺り籠が、豊姫の手を離れて浮かび上がり、こちらを見下ろす高度で静止した。

「甘かったようね。今の貴女は、賢者・八意永琳が時をかけて丹念に仕上げた生体兵器……」

 豊姫の美しい五指から、キラキラと光が伸びて揺らめいた。

 フェムトファイバー。

 不意打ちとは言え、蓬莱山輝夜を一閃で行動不能に陥らせた、死の光。

「月に滅びをもたらすもの……戦闘用蓬莱人形・藤原妺紅。その存在、月の都の丞相として認可は出来ない」

「認可されようって気はない。とにかく、輝夜はもらって行くぞ」

「穢れで動く、おぞましい自動人形が……!」

 豊姫の美貌が、険しく歪む。

「その穢れ濁った瞳で輝夜を見るな! 穢れを喰らう口で、輝夜の名を呼ぶな! 穢れの滲む身体で、輝夜から6億光年の範囲内に立ち入るなあああッ!」

「それでいい。それでいいんだよ、丞相殿」

 妹紅は牙を剥いて笑い、炎の翼を、炎の尾羽を、燃え上がらせた。

「まずは私情ありき……それが、弾幕戦だ」

 フェムトファイバー製の揺り籠の中から、赤ん坊は戦いを見下ろしている。くりくりとした瞳で、興味深そうに。

 にやり、と笑ったように見えた。

 本当に泣かせてやりたい、と妹紅は思った。

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