2話 一滴
==2話 ==
猫の遠吠え亭を出たあと、大通りに出ようと歩いていると一人の少女が道の真ん中に立っていた。
身なりはかなりボロボロの服、上下一枚の布だ。必要最低限しか隠さないような服に髪はボサボサで肩の近くまで伸びている。色は栗色、だが一番目につくのは服より頭から出ている耳だろう……獣人の特徴の一つだ。
「お、お兄さんは、ふ、不正入国者ですね」
急に!?
「な、何のことかな?」
「わ、私はあ、貴方をと、捕らえるの!」
そう言うと立っている時は後ろにあった手を突き出してくる。咄嗟のことだがイドネスさんからもらった竜眼で見ると少女には似合わない大きさの手だった。ただ大きいだけでなくゴツゴツした表面で道具でも付けているんじゃないかと思うくらいの違和感だ。
「あぶ!」
「う、うう」
声だけ聞いていれば可愛いかもしれないけどやっていることめっちゃ怖い。爪は鋭く振り回す手は速い。避けるだけではその内対処できなくなりそうだ。
「ちょっと待って! は、話聞いて!」
「だ、駄目です。は、早くしないと……早くしないと!」
怯えるような声、心のそこから言っている。
「わわわ」
「うううう」
避けて避けて避けまくるけど……無理だ……刀を出すか? いや……この子の怯え方は誰かに命令されているはず。
「だ、誰に言われてこんなことを?」
「しゅ、しゅひぎむです」
「難しい言葉知ってるね」
「……」
なんか顔赤くなってるけど攻撃の速度変わらないか……
『遅いぞ、早くしろ、またあれを受けたいのか?』
なんか聞こえた!?
「ひ! あ、あああ」
動きが雑になった……けど目が恐怖に染まっている?
「分かった。待って。もう動かないよ」
そう言うとピタッと止まってくれた。
「ほ、ほんと?」
「ああ、誓う。俺が逃げれば君が嫌な目に遭うんだろ?」
「な、何でそれを、あ……」
自分で言ってしまってから口を必死に閉じている。あの腕のまま口閉じてるから怖いけど……
「つ、捕まえます。動かないでください」
「うん」
猫の遠吠え亭のおばさんには悪いけどちょっとこのまま見捨てれなかった。ごめんなさい。
そう思いながら獣人の少女にされるがままに紐でぐるぐる巻きにされ、連れて行かれた。
◇◇◇◇◇
「よくやった、カスの割には早かった、そこは褒めてやるよ」
目の前のクズが言っている。なんか見た目的にウザそう……
捕まった後少女に連れて行かれた所に無駄に豪華に着飾った男がいた。まず俺達が目に入ると獣人の少女を何の躊躇いもなく蹴り飛ばした。その瞬間にでも飛びかかってしまいたかったが奴がこっちを見ると一瞬で周りが、感覚が変わった。俺の身体中に芋虫みたいな見た目の虫が俺の身体に集まっていた。俺の意識があると分かった瞬間に俺を喰いだした。喰われる感覚に発狂しそうになるが発狂することができない。当然痛みによる失神もできない。何もできないのに痛みと喰われているということは分かる状態にさせられた。
「貴様と俺の立場が分かってねぇな」
喰われている状態から戻されてすぐに言われた。竜眼が勝手に発動している、いや、痛みで自分の身体が反応したのか……
「俺は今から俺の所有物なんだよ。逆らったらまたこれだからな」
手をくねくねしながら脅すように言っている。
「巫山戯るな、なんでおま――」
何でお前なんかに と言おうとしたらまたあの状態にさせられた。
「はは、お前自分の状態が分からないのか? 俺様がしゃべっても良いと言うまでしゃべる権利はお前にはないんだよ」
「だま――」
即あの状態にされた。
「がぁぁあ、ああ……」
「頭は飾りかよ。黙ってろ」
「てめぇがだまれ」
あの状態にされたときに叫ぶ声は実際に出ているのだろうもうかすれた声しか出ない。
「そうかそうか。まだ分からねぇなら一日中叫んでろ」
そう言うと景色は変わりさっきとは違うゆっくりとゆっくりと虫が俺を喰らっている状態にされた。
「バァーカ。もうお前に幸せは来ねぇよ。お前の幸せは俺が……〈過裕者〉のスキルを持つ俺様がお前から搾取するからな!」
虫に喰われている時にかすかに聞こえた。
◇◇◇◇◇
虫に食われているときは時間の感覚がないが元に戻って時には周りが大きく変わっている。
「お、お兄さんご、ごめんなさい」
意識が戻るとあの少女が顔の近くで謝ってくる。町中で会ったときよりまた少しボロボロになっているように見える。
「だ、大丈夫ではないけど大丈夫……気にしないで」
強がり一〇〇%ですけど……やっぱり声がガラガラで変な感じだ。しゃべると少し血の味がする。
「な、なんで……なんであの時突然捕まってくれたんですか?」
「……あの時ね、声が聞こえた、その声はあいつだったみたいだけど……その声に君が恐怖を感じていたみたいだから、今俺が逃げれば良くない気がした」
「……お兄さんは私のこと何も知らないじゃないですか……それに私が獣人だって分かっていたでしょ?」
下を向きながら言ってきた。
「俺には人間だ、亜人だ、獣人だ、なんてものは関係ない。今目の前にある事を信じることにしてる。俺の恩人から聞いた話からすれば亜人も獣人も悪い奴はごく少数だしね」
俺がそう言うと周りがざわざわとしゃべる声が聞こえた。
「え! 誰かいるの!?」
「あ……ここの説明してなかった。ここは地下奴隷場……私達はこの国所有の奴隷って事になっているそうです。ここは私達の家というか何というか……」
「ここは俺達をぶち込んでおく檻だよ」
獣人の少女じゃなく獣人の少女と同じくらいボロボロになっている男の獣人が割り込んできた。……竜眼がもう発動しっぱなしでよく見えるな。
「全員同じ檻なんですか?」
「ああ、そうだよ。奴らにとって俺達の結託などご褒美にしかならない」
また違う獣人の男の人、今度は結構おじいちゃんだな
「どういうことですか?」
「ここに何年もいるから分かるが何度か結託をし抜け出した奴がいるが……全員まともにしゃべることもできないような状態になって戻ってきたよ、ここから逃げてもすぐに見つかる、そして見つかったら最後だ、人でもないような状態にされる。ここにひとまとめにするのはこうやって話を伝達させるのも理由なんだろうし結託し逃げても自分たちの憂さ晴らしの相手にできる」
「それだけじゃないだろ。ここにひとまとめにすれば飯だって適当で良いんだよ。適当な量出して。足りなくても知らないって言える状態にできるんだよ」
「……クソだろ」
「はは、同感だ! 俺はカノンっていうんだ。よろしくな」
若い方の男の獣人が言ってきた。
「俺はレノガ、よろしくな」
おじいちゃん獣人も自己紹介してくれた。
「あ、俺はヒロトっていいます」
「「おう、よろしくな」」
「あ、わ、私は二ニナっていいます」
「よろしくね、二ニナちゃん」
「は、はい」
「じゃあ……逃げるか」
「え……」
「「いや、はや!」」
おお、仲いいですね。 周りもさっきよりざわついているな。
「ま、待ってくれ。ここで逃げても捕まるし何より俺達にも被害が来るんだ、なんで止めないとかなとか言いがかりをつけてきて」
「そうなんだよ、だからひそっと暮らしていくしかないのだ」
「そんな事言ってこのままでも良いんですか?」
「俺達は法に触れてここにいる、これはある意味償いもある」
「どんなことしたんですか?」
「……人間を殺した」
「俺もだ、ついでに言えばこの子もそうらしい」
「……へー」
「……あまり興味なさそうだな」
「はい、ないです。俺も人殺しって感じですし」
「「な……」」
「少し前に王都が魔族に襲われています」
「……ああ、だからここ最近は忙しいのか」
「そうなんですか、まぁそのときに関係もない住民が魔獣化するって事がありました。そのときに何人も殺しました」
「「……」」
「なので人を殺したのなんのってあまり怖いことじゃなくなってますね。昔だったら絶対こんなこと思わなかったですけど」
「はははは、良い奴なんだな、お前は」
なんか分からないけどカノンが背中をバンバン叩いてくる。
「はは、何所有物同士で楽しく笑ってんだ?」
すーっと身体が冷えるような感覚。あいつが来たのか?
「カリマス様……」
「こいつが目を覚ましたと思って来てみればすぐにこいつら獣なんかと仲良くなっているとな」
「ああ、カスか」
俺が挑発するとすぐに乗ってきた
「まだお仕置きが足りないか!」
そう言うとまた虫に喰われる幻覚。待ってましたよ……
タイミングを合わせて魔力を無駄に多く放出する。
「――! な……」
奴が驚いているか……
「がぁああああああああああああああああああ!!」
体感一時間、現実一分。意識が戻った。
「ちっ、貴様そんな魔力量だったのか、なぜ俺の鑑定に引っかからなかったんだ? まぁいいか、魔力吸収の鎖でつないだ、もう逃げれない」
そう言われて腕を見ると鎖というかリングがついてた。
「はぁはぁ、なんだこれ……」
「貴様の魔力はこの国の為に採集してやる、感謝してろ。今回はここまでだな、早く帰って寝るか」
そう言うと戻って行った。 俺はとてつもなく脱力状態になっている。
「だ、大丈夫? お兄ちゃん」
「な、なんか……力が入らない……」
「それは魔力吸収……身体の中の魔力を強制的に吸い取る道具だ、今かなり脱力状態だろ」
「ああ、はぁはぁ、やばいな……これ」
「ヒロト、おまえバレていなかったなら隠しとけば良かったのに……」
「しょうがない……合図がなければ……動けないものだろ」
「? どういうことだ?」
「あー……無理だ……眠い……」
そう言うともう限界で寝てしまった。
これで王都潜入から三日経った。
どうも。ロキュです。
これで100話達成! いやー達成感に満ちあふれてます。
物語の話としては第二章はよく視点が変わる予定です、私自身も分からないってならないように頑張ります。
ではでは。