訪問者は続々と
堺城築城という巨大事業により商売に拍車が掛かる堺。
その堺の政庁にて秀高は仕事に封殺されると思いきや、普通に過ごしている。これも各省の長達と三役がある程度の裁量で回しているお陰である。秀高は最後に入ってきた決済や、秀高が最終決定権を有する事項を確認するという仕事だけである。
その為、基本的に時間が空いている秀高は築城の確認、作業員に混り築城の手伝いをしたり。兵士達と訓練したり、兵法書などを読み知識を深めていたり等々。ある意味、悠々自適な生活を送っていた。
そんな秀高はこの日、堺の巡視をしていた。勿論、古着の平服を纏って。
「(四年前に堺に来たときより格段に大きくなってきたな。この堺の長が俺とは不思議なものだ)やぁ、儲かってるかい?」
『おっ、旦那。どうだい?1つ団子でも持っていってくれ』
「ありがとう。1つ貰おう」
『堺様。いつもありがとうございます』
「元気でなによりだ」
『堺様。こちらの刀等如何でございましょう?』
「うむ、いい出来だ。今後も頼むぞ」
『堺様』
『堺様』
秀高が視察を行うといつもこの調子だ。秀高の周りには堺の人達が寄ってくるのだ。秀高も自分が押し倒されないように足腰を踏ん張っていたりする。
「皆が笑っている姿を見ると心が落ち着くな~。ん!(なんか、あの集団から視線を感じるな。しかもあの初老の方は)」
秀高はある程度視察した後に、中々雰囲気のある中年から初老位の男とその共であろう人達が秀高を見ていたのである。秀高は、民達の囲いを抜けてその集団の前で足を止めた。
「失礼いたします。私に何かご用でありますか?先程からずっと見られていましたが」
秀高は丁寧に挨拶をする。
『おぉぉ。これはこれは、申し訳ない。噂の堺殿に間近で御目にかかれようとは思わず凝視してしまいましたわい』
「あははは。これはお見苦しい所を御見せしてしまったそうで、それより、彼処の茶屋でお話ししませんか?」
秀高は指を指す方向には立派な茶店があった。その茶屋は千宗易の経営する茶店である。
『ほほほ。では、お邪魔しましょうかの』
秀高と老人達は茶店に入る。秀高が来たことに番頭は驚かず直ぐに奥部屋に案内する。番頭は案内を終えると茶と茶菓子を出し直ぐに退室する。千宗易にこの事を報告するためである。
「では、改めまして。お初にお目にかかります。鷹司秀高に御座います」
『これは御丁寧な挨拶を。私は毛利元就と申しまする』
「(やっぱり元就だった~。なんか纏っているオーラが違うと思ったんだよな~)安芸領主の毛利様と御会い出来るとは誠に光栄に御座います。聞くところによると毛利様は戦の達人とか」
『はっははは。この老いぼれが戦の達人に見えますかな堺殿』
「はい。数々の戦を経験している毛利様は戦の達人ですよ。私はまだ、初陣を終えたばかりでしたので」
『そう言えば、南蛮から伝来した武器を使用したとか。どの様な武器なのですか?』
「鉄砲という物でして、これがまた難儀でして」
『ほうほう』
「射程は弓矢よりはあるのですが、一発撃って次の弾を撃つのに時間が掛かるのです。これならばまだ弓矢で攻撃した方がましというくらいで。あとは、雨だと使えないのです(鉄砲の有効性を伝えたらダメだな。ここは鉄砲の欠点ばかり伝えた方がいい)」
『なるほど、その様な武器を南蛮が使っているとは驚きですな。堺殿、その鉄砲を10ほど買いたいのですが』
「鉄砲は今、南蛮から買い付けていまして。一挺、500両なのですが」
『5、、500両ですと。そんなに高いのですか?』
「今、試作を作っているのですが、なかなか上手く作れなくて。どうしても買い付けになってしまうのです」
『なるほど。そうなれば仕方ありませんな。では、5挺買いましょう』
「いえ、そう言うわけにはいきません。安芸から来ていただいたのです。堺の長として面目がたちません。ここは400両で10挺の取引とさせていただきたいと」
『その様な破格の値段で宜しいのか?堺殿としては大損だろう』
「大丈夫です。今後の毛利様との取引を考えれば損にはなりません」
『儂はまだ何も言っておらぬが』
「再度、尼子攻めをなさると噂がありましたが」
『それで堺に何が解るのだ』
「武器、兵糧、資金、情報、そして市場。全て必要な物です」
『成る程。どうやら儂は貴殿に勝てそうにないな』
「そんな事は御座いません。ただ情報を速く掴んだに過ぎません」
秀高の発言で元就は顔には出さなかったものの、心の中は動揺をしていた。
『(この男、11の若造と言っていたが中々の大器だな。成長次第で倅達と孫達では、敵わぬやもしれんな)では、堺殿。取引の方は安芸から商人を交えて行いましょう』
「承知しました。堺土産として安芸に船を出しますので、その時はお受け取りください」
『感謝致します。では、この辺で』
元就と別れた秀高は直ぐに安芸に向けて船を出す準備をさせた。
「さて、次は」
秀高が屋敷に戻ろうとすると
『秀高様~』
と少年の声が聞こえた。
「ん?あっ、吉法師殿」
『秀高様。堺はいつもこんなに賑やかなのですか?』
「ええ。堺はいつもこんなですよ」
『凄い。こんなに凄いところを秀高様は治めて居るのですね』
「私一人ではここまで出来ません。部下達の助けがあるからです。吉法師殿も自分だけではなく、周りも見ないといけませんよ」
『はい。心に刻みます』
『兄上~』『若~』
吉法師の後ろから幼い声と中年男性の声が聞こえた。
『おぉぉ。勘十郎、爺。遅いぞ。だが秀高殿を見つけられたぞ』
『これは堺様。御無沙汰しております』
「平手殿。こちらこそ御無沙汰しております。お元気そうで何よりです」
『ははは。若を何時も追いかけていますから』
「無理は禁物ですよ。吉法師殿も、平手殿に迷惑をかけないようにしないと」
『はい』
「それでそちらの方は吉法師殿の弟君ですか?」
『はい。勘十郎と言います。勘十郎。秀高殿にご挨拶を』
『織田勘十郎と申します。宜しくお願いします』
「鷹司秀高と言います。此方こそ宜しくお願いしますね。勘十郎殿」
『はっ、はい』
「勘十郎殿。良いですか、今の貴方には難しいと思いますが、この戦国の世では兄弟が争う事が多いです。しかし、兄弟が協力し助け合えば、無駄な争いをする必要が無くなります。それを覚えておいてくださいね」
『わかりました。私は兄上を支えれば宜しいのですね』
「その通りです。吉法師殿。よき弟君がおりますな」
『はい。自慢の弟です』
「それで、本日は何用で?」
『尾張の商人達と堺を見学せよと父上から言われまして』
「平手殿。それはまことか?」
『はい。大殿からはその様に』
「わかりました。ではお三方にこれを渡します」
秀高は懐から三枚の手形を取り出し三人に渡した。
「これは私の客人専用の札です。身に付けておけば色々と役に立ちます」
『これは、何から何まで感謝致します』
『ありがとうございます。秀高殿』
『ありがとうございます。秀高様』
秀高は三人と別れて屋敷に戻る。
「帰ったぞ~」
秀高の声にいつも騒がしい屋敷が更に騒がしくなる。
『お帰りなさいませ。殿』
「今帰った。何時もより騒がしいが何かあったか?」
『その、今しがた客人が来ておりまして』
「客人?その様な予定は無かったが」
『突然の来訪だったので』
「客人はどなたかな?」
この後も、秀高は全国から来訪してくる客人達と会談をして新たな取引等を結ぶ。これにより堺の経済力が更に上がるのであった。
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