大坂(おおざか)会談と知らせ
御待たせ致しました。
よろしくお願い致します。
秀高が京から帰って来たその日の夕刻
大広間に各省の長達と三次長、秀高と小梅の姿があった。
「皆、毎日苦労を掛けるな」
『なんのなんの。殿に比べたら我々の苦労は小さいものでしょう』
『堺ももっと大きくなりまする。また拡張を考えなければなりません』
『それもこれも、殿様の御人徳ですな』
堺次長の津田宗達、今井宗久、千宗易の三人が最前列でニコニコとしていた。
「全てが俺だけじゃない。皆の働きでそうなっているのだ。俺はただそれを視ているだけだ。、、、それで。三人には俺が出掛けている間の注文を残していたがどうなった?」
『『『!!!』』』
秀高が上洛している間に三人は石山本願寺に城を建てる為、土地を明け渡して欲しいと頼んでいた。その際は城内の一角に本願寺を建立するという事も付け加えていた。
『そ、その件ですが本願寺法主の証如上人は』
『殿と直接話をしたいゆえ、来れるときに来て欲しいと』
『色々と話をしたいとの事でした』
「そうか。解った。明日にでも上人と話してこよう。朝一で本願寺に伝えておいてくれ」
『承知いたしました』
「では、次は各省からの報告書だが、昨年に町の拡張をした訳だが人口が増えているのは確かなのか?」
『はい。年明けの際の人口は4万人程でしたが、今では10万人に迫る勢いです。このままでは』
「ふむ。本願寺が彼処を譲ってくれれば彼処に新たな拠点を造ろうかと思っているのだが」
『中々、難しいのでは』
「まぁそれも明日話してみよう。では、次。交易省の方だな」
『はい。交易省からは南蛮との貿易でポルトガル以外にオランダ、イギリス等、交易先が次々に増えています。この為改めまして港の拡張をお願い致します』
「確かに、交易先が増えその為に港を拡張するのも仕方ないな。わかった。拡張案を大蔵省、民部省あと外交省と連携して提出してくれ」
『はい』
「次、兵部省だな」
『はっ。兵部省からは学舎を修了した者や各地から集まる浪人達が新規で軍に加わりました。これにより、堺の兵数は大台の一万を超える予定です。付きましては宿舎等の増築を許可願います』
「うむ。3万石からつい先日、石高が10万石に増え、交易により潤沢に資金があるとはいえ、その兵数は養えるのか?大蔵省、土建省に相談するように」
『承知しました』
さて。突然だが、ここで堺の組織図を説明しよう。
堺領主 鷹司秀高 領主補佐 鷹司小梅
|
堺次長『三役』三役 千宗易 今井宗久 津田宗達
|
大蔵省ー堺の資金、財産、農作物の蔵の管理を担当している。
民部省ー税金、戸籍、所有地等を管理している。
兵部省ー領内の治安維持、戦時での軍事全般を管理している。
交易省ー日本全国、世界各国との貿易を担当している。
土建省ー領内の土木、建築、町割り、整備等を担当している。
法務省ー堺独自の法を制定、施行。また、罪人等の処罰等を担当している。
文部省ー学舎で文官、武官、商人、技術者等々の育成、新たな開発関係を担当している。
農工省ー領内の農業、商売、工業、漁業等の発展、維持担当。
環境衛生省ー領内の環境衛生の担当。
外交省ー日本国内、外国との交渉を担当。
情報省ー日本並びに世界各国の情報収集を担当。
現在の堺はこの様な組織となっている。何故この様な組織図に成っているかは、秀高の記憶によるものである。
それから一刻程、各省からの報告に指示を出した秀高は会議を終了させる。
「では、明日。俺は本願寺に赴く。それ以外は三役を含めて進めてくれ」
『『『承知致しました』』』
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
翌日
秀高は供回りを連れて石山本願寺を訪れていた。
本殿の広間で秀高は証如が来るのを待っていた。待っている間に秀高は本尊に向かい、黙祷を捧げていた。供回り達も秀高を真似て黙祷を捧げる。そして暫くすると、スッスッスッという足音が秀高達の前を通り、座り込んだ。
『お待たせ致しました』
その一言で、秀高達はゆっくりと目を開けて、声の方向に体を向ける。
『お初に御目にかかります。本願寺が法主、証如で御座います。先程の御姿、見事で御座いました』
「ありがとうございます。私は堺領主の木下秀高で御座います」
『おや?鷹司様の御息女と御婚礼となり鷹司姓をいただいたのでは?』
「はい。ですが、正式な婚礼は5年後でして」
『成る程、成る程。そういう事でしたか。失礼しました』
「いえいえ。とんでも御座いません」
『巷での堺様の御活躍はこの証如の耳にも届いております。齢10にて堺を統治し、今では近衛少将として朝廷の一員になろうとしている。まるで天に昇る龍ですな』
証如が秀高をそう評価しているが当の秀高は少し笑みが引きつっていた
「証如様。実はですね。もう私は近衛少将の地位は返上致しました」
『なんと。それはどういう事ですか?』
「朝廷で都の再建を上奏しましたが、帝が都を離れる等、到底認可できないと言われ、挙げ句の果てに私の罷免の上奏が出されまして。それで私が癇癪を起こしてしまい、帝の御前で返上しますと言って昨日帰って来たのです」
『ふふふ、はっははははは。なんと愉快な。これ程、面白い話は聞いたことありません。しかも、それを癇癪と言う木下殿もそうだが、面食らった公家達の顔を思うだけでも笑い物ですな』
「まぁ、私も返事を待たずに退出してしまったので、今頃、私の名前は消えてますよ」
『いやいや、そこまで言い放ったのであれば違う意味で名を残しますよ。朝廷で癇癪を起こした人物としてね』
「そうですね。あははは。で、では、本題に移りますか?」
『ふふ。そうですな』
「では、改めまして、この大坂の地を御譲り願います」
『ふむ。木下殿の言うことは解ります。この大坂の地は立地が良い。それを考えればここに城を造ると言うのもうなずけます。ですが、我々はこの地に流れ付き、建立して漸く10年が経過し根付く事ができたのです。ですので御要望にはお受けすることはできませぬ』
「そうですか。それならば仕方ありません。ですがお願いがあります」
『何でしょうか?』
「今後、武家のような真似事を辞めてくださいませんか?」
『武家の真似事ですか?』
「はい。元々、寺社が武装するようになったのは全て応仁の大乱の影響です。寺社を護るために武器を取った事は致し方ありません。しかし、それが今はどうでしょうか?武家の政治に介入し、民を極楽浄土に行けると唆して争いをさせる。民から徴収したお金は弓、槍、刀、寺自体の要塞化に使用したり、私利私欲に使っているところもある。しかし、それが本来の仏の教えなのですか?違うはずです。信仰とは心の拠り所でそれ以上でもそれ以下でもないのではありませんか?そのところはどうでしょうか?証如様」
秀高が証如を含む本願寺の僧侶達にそう言い放つと証如達は黙り込み下を向いていた。あるものは口を開けて唖然としている。
暫くして証如がゆっくりと話し始める。
『我ら本願寺にその様な邪な者は居らん。いれば即刻破門している。確かに我々は武器を持っている。それは全て自存自衛の為だ。それは解ってもらいたい』
「では、各地で本願寺の名の元に活動している者達はどうするので?」
『その様な輩は本願寺の僧侶ではない。我々本願寺は争いを好まぬ』
「解りました。では、証如様。全国に散らばる門下達に直ちに争いをやめるよう伝達願います」
『そ、それは』
「本願寺には邪な輩は居ないのでしょう。ならば大丈夫のはずです」
『うむ。承知した』
「では、次に我々も大坂に城が造れないとなった為、堺に城を築きます」
『ほう。堺に』
「規模が大きい城になりますゆえ御迷惑をお掛けするかもしれません。ですが完成した際には城に招待致します。また、城の一角に寺町を造りますゆえその際は本願寺の分社でもいかがですか?」
『その際は。ぜひぜひ。宜しくお願い致します』
その後、一刻程秀高と証如は会談を続け以下の取り決めを結ぶ。
一つ、本願寺は武家の政治に口を挟まない。
一つ、本願寺は自存自衛の為の際は防衛をする。
一つ、堺との連携を密にし、互いに助け合うこと
一つ、堺は本願寺に防衛援助の為の駐屯所を造る。
一つ、堺の学舎にて学師として教鞭をすること。
等々
「では、この辺で」
『はい。本日は有意義な話が出来まして感謝致します。堺の城を楽しみにしております』
「此方こそ。ありがとうございました」
秀高は証如と本尊に頭を下げて本願寺を後にする。
『総統。よろしかったので?』
「何がだ?」
供回りをの一人が秀高に話しかける。
『いえ、本願寺の防衛援助の事ですか』
「問題ない。丁度、領内の兵数が増えていただろう。その内の二千を本願寺に駐屯させる。監視の意味も含めてな」
『そうですか。わかりました』
「よし。では、堺に戻るとしよう」
秀高が本願寺から堺に進路をとり、暫く帰路を通行していると。堺方面から集団が迫ってきた。
そして近付いて来た集団をよく見ると、堺三役が供回りを50人程連れていたのである。そしてその集団は秀高の前で止まった。
『殿~』
「宗易。何かあったか」
『今、堺に朝廷の御使者が来ております』
「ふむ。それで」
『大至急。堺に御戻りを。戻り次第伝えると使者様が言っております』
「わかった。急いで戻ろう」
秀高達は歩かせていた馬の腹を蹴り走らせ堺に戻る。
戻った秀高は衣服を着替え使者の待つ部屋に入る。
「大変お待たせ致しました。堺領主の木下秀高で御座います」
『入られよ』
「失礼致します」
秀高は部屋に入り、深々と頭を下げた。
「木下秀高で御座います。この度は御待たせしてしまいましたこと。誠に申し訳ありません」
『いえいえ。とんでもない。突然押し掛けてきたのは我々の方であるゆえ。少将殿の気にする事ではない』
『作用ですね。少将殿がお忙しいのはこの堺の国を見れば解ります。そうでしょう義兄さん』
「ん?まさか」
ずっと頭を下げていた秀高はゆっくりと頭をあげる。
「晴嗣。か、関白殿下」
なんと目の前にいたのは関白の近衛稙家と晴嗣であったからだ。
『秀高殿。先日は申し訳なかった』
稙家が真っ先に頭を下げた。
「殿下いきなり何を」
『義兄上。私が説明します』
隣の晴嗣が話を始めた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
秀高が去った後の朝廷にて
『お、おい。少将が出ていってしまったぞ』
『どうするのだ。都の再建は』
『いや、あのような下箋な輩からの施しなど到底受けられん』
『では、他にどこの誰が再建するというのだ』
暫く公家達が論争をしているなか、帝が声を発する。
『関白。少将はもう来ないと思うか?』
『我々や御上の御前であれほどの啖呵をきったのです。しかも他の公家達から少将罷免の上奏が来ております。恐らく少将は言った通り戻ってこないかと』
『そうか。、、、朕は優秀な人材を失ったのだな』
『御上』
『関白。少将に使いを頼めるか』
『何なりと』
『では、ーーーーーをーーーーーとしてーーーーーと伝える様に』
『承知致しました。この稙家が直接伝えに参ります』
『頼んだぞ』
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『義兄上が退出した後の状況は以上です』
「そうでしたか」
『少将。御上の御言葉を伝える』
「はい」
稙家は懐から一枚の書状を取り出し読み始める。
『堺少将。この度の都を思った上奏誠に感謝する。そして、現状を理解せぬ公家達を許してほしい。世が衰退するのを防ぐために協力を頼む。少将が天下を制すのを楽しみにしている。また右近衛権少将の位は取り消さぬ。これからも国の安寧に尽力するように。最後に、必ず都に凱旋するように。以上だ』
「関白様」
『御上の御言葉を確りと受け止めよ』
「はい」
『義兄上。上洛の時を心待にしております』
「晴嗣。その間お前は公家の頂点に君臨しろよ」
『わかりました』
本願寺との会談を無事に済ませ、朝廷との蟠りを少し解消する事が出来た秀高はこの後、自室のベッドで気持ちよく熟睡する事が出来たのであった。その際、小梅も添い寝をしていたのだが秀高は気付く事が出来なかったそうな。
誤字、脱字がありましたら、ご報告の程よろしくお願い致します。