近衛前久と都の再建
堺に帰って来て早々、再び朝廷から上洛命令が来ていた。その為、秀高は再び出掛ける準備をしている。
『殿。この度の上洛はどうやらきな臭いのですが』
堺次長の3人(千宗易、今井宗久、津田宗達)が秀高を訪ねていた。
「それは同感です。しかし義父上様からのお呼びでは、行かなければなりませんよね~」
再度の上洛要請は朝廷からでもあるが、義父の鷹司忠冬からの書状も来ていたのである。
『朝廷の権力抗争に巻き込まれるのでは?』
「そうなったら致し方ない。と割りきってはいるのですがね。取り敢えず前回は公家や朝廷の方々に物資とお金を献上しました。なので今回は5万貫を納めて御所を初めとした建物の修理や儀式の費用などに充ててあげましょうかね~」
『なにやら、我が主は悪巧みを思い付いたようだな』
『しかり。都の方々が可哀想だ』
『くわばら、くわばら』
「では、行ってきますね」
『『いってらっしゃいませ』』
「あっ、そうだ。本願寺の証如さんに京都に本願寺を建立するから大坂の土地頂戴って交渉しといて」
『『えっ!』』
「それじゃあ」
秀高は爆弾を置いて京都に向かったのであった。
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秀高は京都の鷹司屋敷に入る。
『おぉぉ。秀高殿。よくぞ来られた』
「右大臣様。御機嫌宜しく感銘の至りで御座います」
『堅苦しい挨拶はよい。それでな秀高殿、此度はお願いがあってな』
「私に公卿の政争に参加してほしいのですか?」
『うっ、、うむ。出来ればだが、双方に外から圧力をかけて欲しいのだ』
「なるほど。仕組みを変えたいのですな」
『そうなのだ。くだらん争いを少しでも早く終らせたいのだ』
「わかりました。では義父上にお願いが御座います」
『なんじゃ。言うてみよ』
「帝に拝謁したく」
『み、御上にか』
「はい」
『それは何故じゃ』
「御上に10万貫を献上するために御座います」
『じゅ、10万貫。ですと』
「いかにも。御所を始め嘗ての平安の都の姿は今や跡形もなく。都の繁栄は全くありません。しかも御上の御所までも御粗末と言っていいくらいです。これでは天下静謐は正に夢のまた夢です。洛中洛外ともに再整備が必要です」
『う、うむ。婿殿の言うことはわかった。ならば是非とも明日、朝廷に参内し他の公卿達とも話し合って貰いたい。明日は宜しく頼むぞ婿殿』
「はい。此方こそ、宜しくお願いします」
『あと、近衛卿のご子息がお主に会いたいと言っているのだが、構わぬか?』
「近衛殿下のご子息と言えば、五歳で元服し従三位、また現在は従二位内大臣にあらせられます近衛晴嗣様であらせられますね」
『その通り。流石、情報を仕入れるのは速いな。して、どうかな』
「お断りする理由がありません。私も一度御挨拶をしたいと思っておりました」
『うむ、では。、、、内府殿。お入りくだされ』
スッ
秀高と忠冬のいる部屋の襖が開けられ、1人の少年が入って来た。秀高は部屋の下側に即座に移動して頭を下げる。そしてその少年も忠冬より少し下座に座る。
『鷹司卿。御機嫌麗しく何よりでございます』
『いえいえ。内府殿。わざわざ足を運んでいただき申し訳ない』
『いえ。私の我儘ですので。それで、彼の御仁が?』
『はい。少将殿。此方が内大臣、近衛晴嗣殿です』
「お初にお目に懸かりまする。堺守護従五位下右近衛権少将鷹司秀高と申します。近衛内大臣様の御尊顔を賜りましたこと恐悦至極に御座います」
秀高は年下の晴嗣に対して、確りと挨拶を行った。
『近衛晴嗣です。貴殿のご活躍は耳にしております。歳が3つ違いとお聞きしておりましたが、誠で』
「はい。天文2年の2月12日に生を受けております」
『そうですか。少将殿。少しお願いがあるのですが』
「何でしょうか?」
『私を晴嗣と呼んでくださいませんか?』
「それは、何故でございますか?」
『私は秀高様より3つ年下です。私と歳が近いのは少将殿だけです。出来れば義兄になって欲しいです』
「そんな。恐れ多い事。この少将だけで済む話では」
『父には既に許可を得ております。私は秀高殿を兄と慕い、生涯の朋になりたく思います』
晴嗣はそう言うと深々と頭を下げた。それを見た忠冬と秀高は更に驚く。
「内府殿。頭を上げてください。斯様な事をしては内府殿に変な噂が流れてしまいますぞ」
『私の事などどうでも良いのです。秀高様。どうか』
「義父上様、私はどうすれば宜しいのでしょうか?」
『ふむ。近衛内府の申し出を受けたらどうだ?お主達は歳が近い。若い力を合わせるのも1つの政治だと思うが』
「成る程。政治ですか」
秀高は暫く顎に手を当てて考える。
「(近衛前久といえば、18で関白になる人だったな。そのあとは各地を巡って勤皇を募り、上杉謙信、今は長尾景虎だったか?それらと力を合わせて動いていた公家としては珍しい人物。ってのが印象的なんだけど。目の前に居る本人がそうなるとはな~)ふむ。わかりました。内府様の言うとおりに致しましょう」
『そ、それでは』
「はい。不束な兄になりますが宜しく頼みます。晴嗣」
『はい。此方こそ。宜しくお願い致します。義兄上』
秀高は晴嗣と正式に義兄弟となった。
そして翌日
秀高は朝廷に参内した。最上段の間は帝が座るため薄い天幕で遮られている。その下段に高位の順で他の公家達が座り始める。関白、左右内大臣、大中少納言等々が揃いその下の公家達も座る。秀高は最下位の位のため一番部屋の隅である。
『さて、それでは始めましょうか』
『そうですな。では、近況報告と致しましょうか』
『つい先日、堺の商人が我々に貢物を持って参りましたな~』
『そうですな』
『うむうむ。中々良いものを納められたな~』
『しかし、その頭が鷹司卿の婿入りとは恐れ入りました』
『何でも、尾張の辺境で助けてもらった武士の息子らしいですぞ』
『鷹司卿。貴方様という御方がこの様な下踐な輩を取り込んで如何なさった』
公家の奴等は話を始めた途端に秀高と忠冬を罵り始めたが
『これこれ。そんな不必要な話は後で良い。本日は何でも、新米少将からも上奏があるとか』
上座の官職の1人がそう言うと
『なんと』
『下踐の輩が上奏とは』
『嘆かわしい』
『どれ。その上奏とやらを申してみよ』
公家達の罵倒が上がったり下がったりしていたが、最初の頃より少し収まったので、秀高は上奏をする。
「先ずは、御挨拶から。改めまして、堺守護並びに従五位下右近衛権少将を拝命致しました。鷹司秀高と申しまする。以後、お見知り置きを」
『ふむ。挨拶は出来るようだな』
『して、その上奏とやらは何じゃ?』
「はい。此度、この都の再整備の為に五万貫を堺より、そして私費で更に五万貫の計十万貫を献上致したく思います」
『『『ピィキーン(な、なんじゃと~)』』』
「御所を初めとして、重要な建造物の修復に使いたいと思っていますが、そこで問題なのは建造物の詳細です。其れが解らないと建て直しが出来ません。それ故、皆様方に記録資料を提供して、頂きたいと思い。この度上奏致しました。また、再度都での戦をさせない為に都の防備を強化する必要があります」
『きょっ、強化とな』
『そ、そんな大規模な』
『し、しかし。これ以上、都での戦を起こさないようにするには』
『うぅぅぅぅむ』
高官達は秀高の発言に頭を悩まされた。秀高の言っている事が事実であり、望みであるだからだ。
『我は、少将殿の提案に賛同する』
すると、秀高が聴いたことのある甲高い声が響く。公家達が見つめる先には近衛晴嗣が居た。
『う、右大臣殿』
『そう早く賛同されては』
『左様。しかも十万貫でも足らないと思いまするぞ』
『そこはどう致すつもりだ、少将』
「十万貫で足らないのであれば更に二十万貫は捻出可能です」
『あと、二十万貫だ、と』
『そ、そんな巨額な金をどうやって』
「おや、皆様方は何も知らないと仰せになりますか?確か、各々方の蔵に大層溜め込んでいると知らせがありますが」
『な、何を』
『そ、その様な勝手な』
『証拠はあるのか、証拠は』
「勿論でございます。では、皆様方の財産を御教え致しましょう」
秀高は公家達の前で所持している財産を高位の順に発表する。
一位 近衛家 三万貫
二位 一条家 一万五千貫
三位 二条家 一万四千貫
四位 九条家 一万貫二千貫
五位 鷹司家 一万貫
六位 三条家 九千五百貫
七位 西園寺家 八千貫
八位 徳大寺家 七千五百貫
九位 久我家 七千貫
十位 花山院家・大炊御門家・今出川家 五千貫
その他の公家の総額 五万貫
秀高により公家達の財産が露になると公家達は黙り混んでしまった。
「何も、全額出資しろとは言っておりませぬ。皆様方から半分を出して頂き、不足分は私が出します。都の為の献上なれば御上も喜びましょう」
秀高の発言が終わると高官達はヒソヒソと話をしていた。
『確かに、ここで貢献すれば御上への信頼を勝ち取ることが出来るな』
『しかし、財産の半分は』
『だが他の公家達は全財産を出資するかもしれん』
公家達がヒソヒソと話をし始めて数分が経過する。
『少将の上奏。あいわかった』
ここで一番最高位の関白、近衛稙家が初めて声を出した。
『か、関白様』
『ま、まさか、本気で御座いますか?』
『私は少将の言うとおりだと思うが。しかも都の再建も帝が望んでおる。今しかあるまいて』
『で、では関白様はいかほど献金なさるので?』
『二万貫』
『『え?』』
『我が近衛家は二万貫出します。関白様。宜しいですか?』
『うむ。右府の言うとおりだ。全ては國のためよ。少将殿』
「はい」
『再建計画は任せるぞ。あと室町殿(将軍)にも言っておいてくれ。宜しく頼みます』
「はい」
『では、私はこの事を御上に伝えに行くのでこれで終いということで』
これで、初めての朝廷での会議を終えた秀高であった。
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