尾張の虎と幼少のうつけ
上洛を終え無事に堺に戻ってきた秀高達。
通用門が開くと久々に商いの声が耳に響く。そして民衆や商人達が秀高を見つけると直ぐに道が開けた。
「皆さん。只今戻りました」
秀高は大きな声で叫ぶ。そして
『『お帰りなさい』』他多数
堺の人達から返事が返ってくる。
ただいま、お帰りのこの返しが秀高はとても好きである。
そのまま開けた道を進もうとした秀高だが、何かを思い付いたのか輿の方に向かう。
「小梅」
『はっ、はい』
輿の戸を開けて小梅が秀高を見る。
秀高はその小梅に手をさしのべる。
「一緒に行きましょう」
『はっ、はい』
小梅は秀高の手を取り、秀高は小梅を自身の馬に乗せる。前に小梅、その後ろから秀高が小梅を抱えながら手綱を握り道を進み始める。
堺の人々は、小梅の美しさに惚れる者、小梅と秀高の二人の仲の良さに喜ぶ者。等々様々な眼差しを二人に送る。その中を二人は人々に応えながら先ずは政庁へと向かう。その時、秀高は小梅を先に屋敷(秀高の屋敷は政庁の隣に建てられている)に行って貰うように伝えたが。
『いえ、秀高様の御仕事姿を観てみたいです』
と言われた為、仕方なく小梅を連れて政庁に向かう。
政庁に入り、大広間兼執務室に秀高が入るとそこには既に各担当長一同が集まっていた。
『『お帰りなさいませ』』
「只今、戻りました。私が居ない間ご苦労様でした。何か変わったことはありませんでしたか?」
『湾口担当からは尾張の津島と熱田の商人が来る頻度が増えているという位かと』
「そうか。他はないか?」
『防衛担当からです。最近、志願者が増えています。それに伴い、学舎、長屋の増設を進行中です』
「わかった。後で確認しておく。他は?、、、、無いようであれば俺から。この度、公家の鷹司家の養子として此から鷹司秀高と名乗るようになる。そしてここにいる小梅と婚姻することとなった。皆、今まで以上に励んでほしい。以上」
『『おめでとうございます』』
各担当長が退席すると秀高は執務席に座る。そして届いている書状や上奏などを一つ一つ捌いていく。その日の夕方には粗方片付け終わり執務を終わる事となった。そして小梅は執務席の側の椅子で秀高の仕事をずっと見ていた。
『秀高様』
「小梅。長々とすまなかったね」
『いえ、そんな事ありません。でも秀高様は凄いですね。まだ10歳ですのに、文字の読み書きや計算までこなしてしまうなんて』
「まぁ。尾張に居たときに教えてもらったからな」
『私も、秀高様の故郷。、、、尾張の国に行ってみたいです』
「そうか。なら行くか?」
『え?』
「思い立ったら吉日。誰か」
秀高は外に声をかける。
『堺様。何様でございますか?』
「堺次長の今井宗久、千宗易、津田宗達(津田宗久の父)に連絡を入れてくれ。1ヶ月後、尾張に一時帰郷する。とな」
『はっ』
「後、この書状を尾張、中々村の木下なかという御方に渡してほしい。至急頼むぞ」
『はい。確かに』
秀高は手紙を外にいた従者に渡して再度、小梅をみる。
「小梅。今度は私の家族に合わせてあげよう」
『本当ですか?わかりました。楽しみに待っております』
それから1ヶ月後
堺の港から一隻の南蛮船が出航する。この船は南蛮人が要らなくなったといった船を回収し、船大工達に改修させた船である。色は真っ黒に染め上げ、両舷には多数の砲門がある。その船に秀高と小梅は乗船していた。
「さて、尾張に到着するのは10日もかからないと言っていたが楽しい船旅になりそうだ。なぁ、小梅」
『はい。秀高様と旅が出来るのはとても嬉しいです』
秀高と小梅は尾張までの短い船旅を満喫していた。
その頃。尾張国 中々村では
『ちょっとあんた達。日高が帰って来るって聞いただけで何騒いでんのさ』
『だって。なかさん。日高が3年ぶりに戻ってくるんだぞ。驚かないのが可笑しいわい』
『んだんだ。日高のお陰で、此村は豊かなんだ~』
『まったく。どうしようもない連中だね』
中々村では秀高が帰って来るという情報に村中が大騒ぎしていた。
『ゆっくり帰っておいで日高。まったく、もっとまめに手紙を寄越せってんだ』
なかの手には秀高から届いた書状が握られていた。
拝啓
母上様。木下家一同。そして中々村の皆様。御元気で御過ごしでしょうか?日高は元気にやっております。
突然のお手紙。申し訳ありません。この度筆を執ったのは母上に報告することがあるためでございます。
堺にて三年という月日が経ってしまいその間、手紙でのやり取りとなってしまったこと誠に申し訳ありません。堺にて様々な事を学び自分の糧としております。また、堺周辺にて戦があったため戦に参加致しまして見事、初陣を終えました。天にいる父上もこの様な気持ちで戦に行っていたのかと思いますと改めて父上の偉大さを痛感致しました。その後、京の都にて様々な方々とお逢いしましたところ、父上が尾張にて助けた尊い御方とも再会出来ました。その際、尊い御方のご助力で元服致しまして名を秀高と改めました。更に、許嫁も出来ました。名は小梅といいます。その為、この事をいち早く母上に直接、御伝えしたいと思いまして、1ヶ月後に御挨拶の為、村に戻ります。その際は母上の美味しいご飯を楽しみにしております。長くなりましたがこれで筆を置かせていただきます。
敬具
堺守護従五位下右近衛権少将、鷹司秀高
という内容の手紙であった。
そして数日後、尾張の熱田の港に到着した。途中、海賊等が通行料を払えと襲撃してきたが、鉄砲で応戦し撃退等していたのはまた、別の話。
そして港では黒船を人目見ようと見物人で港は溢れていた。
そんな中、秀高は商人達と商談をしていた。
「では、織田様のご要望で我らとの取引を大きくしたいと」
『はい。手前共もそれにより堺様との繋がりを増やしたいとも思います』
「了解いたしました。此方も取引先が増えるのは嬉しい限りです。今後とも善き取引を」
『『宜しくお願い致します』』
津島、熱田の商人達が俺に向けて頭などを下げているのを目にした者達(ごく数人)はいつもとは違う彼らの姿に驚いていたがその相手が、若い男というのにも更に驚いていた。
『おい。あの若い男は何者だ?津田や熱田の奴らが頭を下げておったが』
『いえ、見たこともありませんな。もしや堺の大商人では?』
『あの若さでか?』
『商人の世界も我らと同じ弱肉強食ですからな』
『うむ。暫し様子を見ておくか。頼むぞ』
『承知致しました』
と、一部の集団に目を付けられる。
そして秀高は商談が終わった後に一同黒船に戻る。そして、平服に着替える。この時小梅も同様に平服に着替えている。
「さぁ、行こう。小梅」
『はい』
秀高と小梅は荷物の中に身を潜め黒船から出る。そしてある程度黒船から離れた所で荷物から出る。その際、護衛も20人程一緒である。
「では、中々村に向かう」
『『はっ』』
秀高達は監視の目を完全に巻いて、中々村へと向かった。その頃、黒船の周囲を監視していた集団は秀高達が黒船に居ないのを知らずに、ずっと監視を続けていた。
小梅を案内しながら熱田から中々村に向かっている秀高達。歩いて約一刻(二時間)で漸く村の入口に到着した。
「三年振りだな。何も変わってなさそうだ」
『ここが秀高様が育った地なのですね。とても落ち着いていて気持ち良さそうです』
秀高達は村に入り、秀高が実家に誘導する。その間も秀高は周りを見渡し、村人達に手を振ったりして挨拶をする。
『日高にぃだ』
一人の子どもが秀高を見て叫んだ。その後から続々と子供達が出て来て叫ぶ。
『本当だ。日高兄だ』
『帰って来た』
『お帰り』
秀高の周りにはいつの間にか村の子供達が集まっていた。
「久し振りだなお前達。元気にしてたか?」
『『は~い』』
「そうかそうか。それじゃ、一緒に家に行こうか」
『は~い』
子供達も連れて実家に向かう秀高達。そして実家が見えてきた。その瞬間、子供達が実家の方に走り出す。しかも
『日高兄が帰って来た』
と叫びながら。その叫び声で村中の人達が家から出て来てまた騒ぎ出す。その騒ぎでか実家の戸が勢い良く開けられる。
「あぁ。皆、変わってないな」
目の前になか、智、日吉、小竹が居たからである。
『日高』
「母上。只今帰りました」
秀高はなかに頭を下げようとする。
しかしそれをなかは抱き付いて止めた。
『お帰り日高いや、秀高だったね』
「はい」
そして小梅と共に家にあがる。
『帰ってきたら婚姻の挨拶だなんて。弥右衛門さんが生きてたら何て言うかね~』
「まぁ。一発は殴られそうだけど」
『あら。わかってるじゃない。それで、小梅様』
『はっ、はい』
『公家の方がこんな田舎者と本当にいいのかい?』
『わ、私は。秀高様をお慕いしておりますので。迷いはありません』
『かっ~かっかっかっ。秀高。あんたは良い人を貰ったね』
「あぁぁ。それは俺も思っている」
『めでたいね~。我が子が婚姻するなんて』
なかに小梅との婚姻の話をしていると背後から兄妹達がやってくる。
『にぃちゃん。婚姻ってなに?』
智が自然と秀高の膝の上に座り顔を上げて聞いてくる。
「婚姻っていうのはね。兄弟以外で好きな人と結ばれることだよ」
『そうなんだ~。それじゃあ。私とにぃにとは婚姻できないんだね』
「そ、そうだね」
『ふふふ。秀高様。私がいるのに浮気ですか?』
「ちょっと。それは無いぞ小梅」
その後は日が暮れるまで家族と色々な話をし、いつの間にか皆で固まって眠ってしまった。
翌日
秀高は起きると外に出て体操を始める。それに釣られるかのように続々と村人達や小梅達も起き出し朝の体操を始める。いつの間にか至るところで体操をしている不思議な光景を見ることとなった。
朝御飯を食べて、畑仕事を手伝っていた秀高達の元に、早馬が来た。
「何事だ?」
『はっ。総統に御挨拶したいと尾張の織田信秀様の使いが来ました』
「して内容は」
『明日の昼に古渡城にてと』
「うむ。承知したと御使者に伝えてくれ」
『はっ』
「母上。また戻らねばなりませぬ。申し訳ありません」
『何言ってんだい。お前さんの仕事だろ。はよう行き』
「はい。馬を出せ」
秀高達は港に戻り会見の準備を行うその頃、古渡城でも少し騒いでいた。
『何?今、港に来ている船の主は堺権少将なのか』
『ど、どうやらそのようです』
『なんと。、、、政秀。畏れ多くも少将殿を呼びつけてしまうとは。今すぐ謝りに行かねば』
『殿。時既に遅しでございます。ここは万全の出迎えをするしかありませぬ』
『ぐぬぬぬ。では後は任せる。儂は茶室に少し籠る』
翌日
秀高は、供回り10人程連れて古渡城に登城する。
「堺守護。右権少将鷹司秀高です。織田信秀様にお取り次願いますか?」
『しょ、少々お待ちくだされ』
門番の兵士は急いで城内に知らせる。少し経つと門が開かれ門の奥には信秀をはじめとした織田の家臣達も出迎えていた。
「織田殿で宜しいですか?」
『(若いな。年は10くらいか)はっ。織田信秀でございます。お待ちしておりました。どうぞ此方に』
信秀の案内で大広間に通される。
『では、改めまして御挨拶を。織田三河守信秀と申します』
「右近衛権少将。鷹司秀高と申します。この度はお招き感謝致します」
『何の。堺様がいらしているとは知らずに呼び出してしまう形になり大変申し訳なく思っております』
「まぁ。今回は実家の方に用があって戻ってきただけですので」
『さら堺様は尾張の出身で?』
「はい。中々村の木下弥右衛門の子であります」
『き、木下』
『弥右衛門だと』
『あの木下の』
『これ、煩いぞ。申し訳ありません。ですがまさか弥右衛門の御子息とは。弥右衛門は気が利く男でして、兵としても頼りになる男でした』
「ありがたき御言葉で御座います。天の父もよろんでいましょう」
『そうですな。、、、堺様。それで少し相談がありまして』
「物資の援助ですな」
『流石、お耳が早いですな。その通りです。また、今後も取引をお願い致したく』
「此方の条件は尾張に我らの支店を作りたいと思います。また、借入等も我ら堺衆で買取ましょう。返済は10文に対して2文の利息で如何ですかな?」
『店を尾張に作るのでしたら是非ともお願い致します。ですが、利息の2文は相場より安いですが良いのですか?』
「構いません。これからの織田家飛躍の為と思えばこれで問題ありません」
『では』
「交渉成立です」
秀高は信秀と証文を交わす。
『さて、堺様。少しですが食事の準備が出来ております。どうぞ此方に』
「では、御言葉に甘えて」
『皆の者、宴じゃ~』
『『おぉう』』
この後、織田家臣団の面々と話をしながら食事をする。一人一人挨拶と言葉を交わし、最後の挨拶者が秀高の前に来る。
『堺様。平手政秀と申します。宜しくお願い致します』
「平手様。此方こそ、宜しくお願い致します。鷹司秀高でございます」
『堺様は中々村の出身とか』
「はい。そうですが」
『で、では中々村の日高という人物を御存じですか?』
「私の幼名ですが」
『やはり、そうでありましたか。いや失礼しました。中々村の年貢の量が3年前より多く納められているのです。村長に尋ねると木下日高が教えてくれたと仰りましてな。それと山から来る獣等も村一同で退治しその獣肉を食しているお陰か体も大きくなり、毎朝、体操をすると体が目覚めやすいと。これも日高から教わったと』
「あぁぁ。それで」
『秀高様。ぜひこの平手に御指南いただけませんか?』
『これ、政秀』
「構いませんよ信秀殿。むしろ、他の村でも既に広まってきてますので。大々的に尾張全体で流行られては如何ですか?」
『成る程。では後日、中々村に赴き、技法を学んで参ります。宜しいですか?殿』
『うむ。頼むぞ政秀。、、、政秀、そう言えば吉法師はどうした?』
『き、吉法師様ですか。そ、それが呼んでいるのですが』
ドンドンドンドンドン サッ
『失礼致します。吉法師。参上致しました』
『入れ』
『失礼致します』
襖が開けられ、そこから入ってきたのは織田信秀の嫡男である吉法師である。うつけと言われている風体ではなくしっかりとした正装で入室する。それを見ていた家臣達も『おぉぉ』と唸っていた。
『父上。吉法師参りました』
『うむ。堺殿。某の後を継ぐ嫡男、吉法師でございます。堺殿と同い年です』
『お初にお目にかかります。信秀が嫡男。吉法師でございます。宜しくお願い致します』
「堺守護従五位下右近衛権少将鷹司秀高と申します。此方こそ宜しくお願い致します」
将来の魔王、織田信長。今は吉法師を交えて宴は再開される。
『堺様』
吉法師は秀高に質問をする。それに対して秀高は丁寧に返答する。
『では』
と、次々と質問を重ねる吉法師に家臣達は少しは動揺していたが秀高が真面目に返答をしているため直ぐに落ち着く。
『殿。若は』
『うむ。我々が思っていた以上に成長しておる。これは計画が少し早まりそうだな』
『では、準備に』
『任せる』
『はっ』
そして宴もたけなわとなった頃合いで
「信秀殿。そろそろお暇しようかと思います」
『そ、そうですか。では、ゴホン。皆聞け』
家臣達は直ぐに静かになり信秀を見る。
『少将様がお帰りになられる。一同。見送りぞ』
『『はっ』』
信秀、吉法師、家臣達に見送られ秀高は港に帰っていく。
『父上。あの方は凄い方ですね』
『何故そう思う』
『私がうつけの振りをしているのを見抜きました』
『そうか。それだけか?』
『いえ。私と同じ年なのに私の質問に真面目に答えてくれました。あと、先の事も見据えて動いているかと』
『成る程な。そうでなければあの年で大名にはなれまい。吉法師。お前は今後何を目指す』
『私は天下を統一し海外と交易を伸ばし、日の本を豊かにしたいです』
『そうか。がんばれよ』
信秀は吉法師の頭を撫でる。
『(天下とは中々大きな事を。だがそれでいい。大志を抱いてこそ叶うものもある)』
秀高は港の宿に入る。部屋の中で秀高は今後の予定を書き連ねる。それを纏めると従者に渡して次の用紙にまた書き始める。
「よし。ではこれらの書状をしっかりと渡してくれ」
『了解致しました』
一仕事終えた秀高は風呂に入り直ぐに就寝した。
その夜中。
『ん?誰かな。そこに居るのは』
秀高は枕元の刀を握る。すると天井から影が降りてきた。
『何故、わかったのですか?』
「微かに血の臭いがしたのと気配を感じましてね」
『中々の感性をお持ちのようだ』
「それで、どちら様かな?」
『某は百地丹波と申します』
「伊賀の長か」
『はい』
「それで、何かようですか?」
『以前、我々に送られた書状の件で』
秀高は三好陣営で、戦っていた際に情報が欲しかった為に伊賀の忍衆に協力をお願いしていた。伊賀衆も噂の堺の主を見てみたいという事で承諾。その情報により日高達堺衆は活躍出来たのだ。その為、改めて秀高は伊賀に正式に家臣として登用したいという旨の書状を送っていたのだ。
「では、今日はその返事というわけですか」
『はい』
『改めまして。我が伊賀は堺様の末席に加わりたいと思います』
「あ、ありがとうございます。では、堺に戻り次第。伊賀に贈り物が有りますので持っていって頂いて宜しいですか?」
『承知しました。また。少しですが、護衛のために数人忍ばせておきます。では』シュッ
丹波は直ぐに秀高の前から消える。丹波の気配が無くなったのを確認した秀高はまた横になり眠り始める。
翌日
秀高は余り目立たない格好で宿を出て小梅と合流する。
『秀高様。お仕事お疲れ様です』
「ありがとう小梅。ゆっくり休めたみたいだな」
『はい』
「それじゃ、今日も出掛けようか」
秀高は小梅を連れて那古屋城や古渡城の城下町を探索する。すると背後から
『鷹司様』
「ん?おぉぉ。吉法師殿。、、小梅。紹介する織田家の嫡男、吉法師殿だ。吉法師殿。此方は私の伴侶の小梅と申す」
『こ、小梅です。宜しくお願い致します』
『こ、これは。吉法師と申します。宜しくお願い致します』
秀高達は他愛のない話をしながら城下を歩く。
『おい。ありゃ織田の若様だよな』
『今日は変な格好でね~な』
『んだんだ』
町の人々は吉法師の普段とは違う一面を見て驚くと共に、吉法師の礼儀作法もしっかりしていた為、鳩が豆鉄砲を喰らったような表情をしていた。
「吉法師殿。うつけの振りはいつまで続けるおつもりで?」
『うむ。父上がもう暫く振りをせよと言っていたので』
「成る程。流石は信秀様だな」ボソッ
『何か?』
「いえ。何でも。吉法師殿は何か野望はあるか?」
『野望ですか?』
「えぇ」
『私は。この日ノ本を統一し南蛮にも負けない国を造りたいですね』
「それは武での支配ですか?」
『いえ、銭の力、または法の力による支配ですかね』
「成る程。天下布武ですか?」
『天下布武とは?』
「父上殿に聞いた方が解りやすいと思いますが、その前にご自身で調べるのもいいと思いますよ」
『わかりました』
この後、吉法師と3時間程談笑し別れた秀高達は再び、中々村を訪れていた。
「母上」
『おりゃ。秀高。どうしたんだい?』
「堺に戻るので挨拶をと」
『そうかい。わかったよ。気い付けてな。小梅様もあんな息子だけどよろしくね』
『はい。お義母様』
秀高と小梅は村の人々に挨拶をして港に戻る。そして港では見送りの為に信秀殿達がお忍びで来ていたのは秘密としておこう。
「さらば、尾張。また帰ってくるぞ」
秀高はそう叫び再び船上の人となった。
港で見送りをした織田家の面々は
『行ってしまいましたな』
『うむ。まぁあの年でも一大名だ。そんなに留守にも出来んだろう』
『吉法師様は寂しそうでしたな殿』
『友と離れるのはな。だが恐らく将来あの二人は天下を争い合うかもしれんな』
『それほどでございますか?近衛権少将様は』
『かの御仁を侮るといかんぞ。むしろあの御仁。昇るところまで昇るかもしれんな』
信秀達はそんな他愛のない話をしながら城に戻るのであった。
その頃、吉法師は
『俺は必ず天下を取る。そして秀高殿と頂の風景を見るのだ』
と宣言していたそうな。
そして熱田を出航して約10日後
「堺よ。私は帰って来たぞ」
秀高達は堺に到着していたが
『殿。申し訳ありませんが京から早馬が来まして直ぐに上洛するようにとのことです』
『な、なんだって~』
秀高はまた振り回されるようである。
今後とも、宜しくお願い致します。