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秀吉の兄に転生したけど、そんなの居ないよな   作者: 牧場のオヤジ
1章ー堺の大名編ー

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13/50

第13話ー秀高と小梅の秘密と大雨災害ー

お待たせいたしました。どうぞ~


摂津堺城の築城が始まってから、さらに月日が流れていた。


城の普請は着実に進み、堺の町もまた、それに合わせるように姿を変えている。

城下には新しい商人町が生まれ、職人達の工房が増え、武家屋敷の建設も進んでいる。

港には日ノ本各地から船が入り、遠く海の向こうからも南蛮船が姿を見せるようになった。

そして堺が大きくなればなるほど、そこへ集まってくる人間も増えていった。


商人、職人、武士、僧侶、学者、医師、浪人、船乗り、南蛮人。

そして、各地の大名や領主から遣わされた使者。

堺はいつしか、単に商売をするための町ではなくなりつつあった。

様々な人間が情報を持ち込み、商品を持ち込み、技術を持ち込み、そして新たな人間関係を築いていく。

そんな堺の中心にいる人物こそ、若き領主である鷹司秀高だった。

もっとも当の本人は、その状況を少々持て余していた。


「……またか」


屋敷へ戻ってきた秀高の前には、何枚もの書状が積み上げられていた。


『殿。こちらは越後から参った商人達からの申し入れでございます』


「越後?」


『はい』


「次」


『四国の商人です』


「次」


『九州からの使者です』


「……次」


『南蛮商人からの取引申し込みです』


秀高は書状を一枚ずつ確認していく。


「……」


「多いな」


側にいた小梅が微笑む。


『それだけ堺が繁栄しているということでしょう』


「嬉しいことなんだけどね」


「これだけ一気に増えると、別の問題が出てくる」


『別の問題ですか?』


「生産量だよ」


秀高は書状を机の上に並べる。


「注文が増える」


「商人が増える」


「売れるから作る」


「さらに注文が増える」


「また作る」


「……ってやってたら、いつか必ず供給過多になる」


『なるほど』


「商品って、作れば作るほど儲かるわけじゃないからね」


「売れる量を見ながら作らないと、在庫になってしまう」


『確かに』


「いっそのこと注文生産制にするか」


「いや、それだと急な注文に対応できない」


「なら予約制……」


「でもそれも問題がある」


「……」


秀高は頭を抱えた。


「経済って難しいな」


小梅が笑う。


『今さらですか?』


「今さらだよ」


『ふふふ』


秀高は苦笑しながら紙を一枚取り出した。


「なら、今の取引先を全部書いてみるか」


秀高は筆を持つ。


そして、紙の上に日ノ本の地図を書き始めた。


北から順番に書き込んでいく。


蝦夷のアイヌ民族。

奥州の南部、津軽、伊達。

羽州の最上。

越後の長尾。

関東の北条。

東海の今川。

尾張の織田。

美濃の斎藤。

近江の六角。

越前の朝倉。

山城の足利。

阿波、伊予、畿内の細川・三好。

出雲の尼子。

安芸の毛利。

土佐の長宗我部。

豊後の大友。

薩摩の島津。

さらに海の向こう。

琉球王国。

高山国。

ルソン。

そして南蛮。


秀高は筆を止めた。


「……」


そして、地図全体を眺める。


「いつの間にか、ここまで広がったか」


小梅はその背後から地図を覗き込む。


しかし、秀高はまだ気付かない。


「国内だけじゃない」


「琉球、台湾、フィリピン、南蛮……後は明か」


「明との交易が安定すれば、堺の経済圏はさらに広がる」


「朝鮮は……」


秀高は少し考える。


「いや、今はいいか。無理に広げる必要はない」


「明の余剰市場に流せればいい」


「それから北方とも……」


秀高は地図のさらに北を見る。


「ヌルハチ……その後、清になる」


「……まあ、その頃まで俺が生きてるかどうか分からないけど」


「……ふう」


秀高は筆を置いた。


その時だった。


『秀高様』


「……」


『秀高様?』


「……」


返事がない。


『秀高様』


「……」


小梅は首を傾げる。


『……聞こえていない?』


もう一度。


『秀高様!』


「うわぁぁぁぁ!」


秀高が飛び上がった。


「な、なんだ!?」


小梅が笑う。


『やっと気付きましたね』


「小梅!?」


『先ほどから何度もお呼びしております』


「いつからいたんだ?」


『かなり前からです』


「……」


秀高は地図を見る。


そして。


小梅がその地図を見ていることに気付いた。


「……」


『凄い集中力ですね』


「いや、その……」


『何度呼んでも返事をされないので、何をしているのかと思ってずっと見てたんです』


「そうだったのか」


『はい』


小梅は地図へ視線を戻す。


『それにしても……』


「ん?」


『これは随分と広い地図ですね』


「まあな」


『日ノ本だけではありませんね』


「……」


『明国に琉球王国、高山国、ルソンに南蛮』


小梅は地図をじっと見つめる。


そして。


『……それに、先ほど、何と仰いました?』


「何が?」


『ヌルハチと』


「……」


『清と』


「……」


秀高の顔から笑みが消えた。

小梅は地図から顔を上げる。


『秀高様』


「……何?」


『私は以前から不思議に思っていたのです』


「……」


『なぜ秀高様は、これほど多くのことをご存じなのか』


「……」


『鉄砲のこともそうですが、南蛮や外国のこと。行政の仕組み、経済の仕組み、町の衛生管理、医学、城の構造、戦のこと、そして……』


小梅は地図を見る。


『ヌルハチや清など、まだ起きていないことを、まるで知っているかのように話されること』


「……」


『ずっと不思議でした。でも、今少しだけ分かった気がします』


秀高は黙ったまま、小梅を見る。


小梅も秀高を見る。


『秀高様。貴方は……一体、何者なのですか?』


「……」


長い沈黙が流れた。

秀高は机の上の地図を見る。

そして。


「……小梅」


『はい』


「今から話すこと、誰にも言わないでくれるか?」


『もちろんです』


「絶対に?」


『はい』


「私の言っていることは信じてもらえなくてもいい。ただ……私が今まで何を知っていたのか。どうしてこんなことをしているのか。それを話してもいいか?」


小梅は静かに頷く。


『はい』


秀高はゆっくり息を吐いた。


「まず初めに、俺は……この時代の人間じゃない」


『……』


「俺には、この時代より遥か未来の記憶がある」


小梅の目が僅かに開く。


「ただ、自分がどこで生まれたのかは覚えてない。未来で何という名前だったのかも分からない。どうしてこの時代に来たのかも分からない」


「気が付いた時には、この時代にいた」


「それも本当は存在しない、弟の日吉の兄としてだ」


小梅は何も言わない。

秀高は続けた。


「私が持っているのは、未来の世界で得た知識だけなんだ」


「だから、俺が凄いわけじゃない。知っているだけなんだ」


「この時代の人間なら知らないことを、俺はたまたま知っている」


「それだけなんだ」


小梅は秀高を見つめる。


『……そうでしたか』


「……信じてくれるの?」


『はい』


「どうして?」


小梅は静かに微笑んだ。


『なぜなら.....私も同じだからです』


「……」


秀高の目が見開かれる。


「……え?」


『私も。貴方と一緒で、時を越えた旅人です』


「……」


「小梅も?」


『はい』


「俺と同じ?」


『はい』


「未来から?」


『はい』


秀高はしばらく言葉を失った。


「……嘘だろ」


『本当です』


「……」


『私にも、前世の記憶があります』


『ですが』


『私も前世の名前は分かりません』


「……」


「俺もだ」


『そうでしょうね』


「……」


『だから』


『私はずっと、自分だけなのだと思っていました』


「俺も」


『誰にも言えませんでした』


「俺も」


『未来の話をしても、誰も理解してくれません』


「俺もだよ」


『だから……』


小梅の声が少しだけ震える。


『少し安心しました』


秀高は小梅を見る。


「……俺も」


二人はしばらく黙っていた。


やがて。小梅が口を開く。


『秀高様が時々、未来のことを知っているような話をされる理由』


『ようやく分かりました』


「小梅もそうだったのか」


『はい』


「だから妙に俺の話を理解していたのか」


『そういうことです』


「……」


秀高は笑った。


「なんだよ。もっと早く言ってくれよ」


小梅も笑う。


『それはこちらの台詞です』


「俺だって言えなかったんだよ」


『私もです』


「……」


二人の間に笑いが生まれた。

それは今までとは違う笑いだった。

互いに抱えていた孤独が、一つ消えた瞬間だった。


「……小梅」


『はい』


「俺達。なにかと変な縁で繋がっているな」


『本当に』


「未来から来た二人が戦国の世で夫婦になって、しかも、同じ秘密を抱えていた」


『不思議ですね』


「……」


秀高は少し考える。


「でも。俺は悪くないと思う」


『何がですか?』


「この時代に来たこと、小梅と会えたから」


小梅は少しだけ顔を赤くする。


『……私も』


「……」


『この時代に来たことを、今は後悔しておりません』


「うん」


『秀高様』


「ん?」


『これからは、私にも未来の知識を話してください』


「もちろん」


『私も、覚えていることを話します』


「助かる」


『ただし』


「ん?」


『無茶はしないでください』


「……」


「善処します」


『それはしない人の言葉です』


「ばれた?」


『はい』


二人はまた笑った。

この日、秀高と小梅は。

互いが「時を越えた旅人」であることを知った。

それは二人だけの秘密となった。

誰にも話さない。誰にも知られてはいけない。

秀高はこれまで通り領主として振る舞う。

小梅もこれまで通り、その妻として、そして補佐役として動く。

ただ。二人きりになった時だけ。

未来の話をする。

未来の世界の話。

知らない人物。

知らない町。

知らない技術。

知らない食べ物。

知らない暮らし。

二人だけの会話は、少しずつ増えていった。

そして。その秘密を共有したことで。

二人の距離は以前よりも近くなった。


『秀高様』


「ん?」


『未来の世界では、堺はどうなっているのですか?』


「大きな都市になってる」


『そうですか』


「でも、この時代の堺とは全然違う」


『どのような町なのです?』


「それは……」


秀高は少し笑う。


「今はまだ秘密」


『意地悪ですね』


「そのうち話すよ」


『約束ですよ』


「約束する」


こうして二人は。未来を知る者同士として。

そして。この時代を生きる夫婦として。

新しい関係を築いていくことになった。

だが。二人が秘密を共有してからも。

堺の発展は止まらなかった。

秀高はすぐに三役と各省へ指示を出した。


「新たな取引先については、まず交易省で整理」


「生産量は農工省と連携」


「輸送については交易省と普請省」


「財政面は大蔵省」


「海外については外交省」


『承知しました』


「それから」


「取引相手が増えているから、信用調査も強化する」


情報省が頷く。


『お任せください』


「堺に来る人間が全員、商売だけを目的としているとは限らない」


『……』


「そこは忘れないように」


『承知しました』


堺は繁栄していた。

しかし繁栄すればするほど。

それを利用しようとする者も現れる。

秀高はそのことを理解していた。





そして。半年ほどの月日が流れた。


天文十三年 七月。


季節は梅雨。だが、今年の梅雨は異常なほど長かった。


「……今日も雨か」


秀高は屋敷の窓から外を見ていた。

雨が降っている。

昨日も。一昨日も。その前の日も。ずっと雨だった。


『秀高様』


「ん?」


『今年の雨は、昨年より長くありませんか?』


「うん。かなり長い」


『市場への影響は?』


「今のところ大きな問題はない」


「雨で人通りは減ってる」


「でも、堺全体の経済が止まってるわけじゃない」


『それは備蓄のおかげですか?』


「それもある。それに、大量生産を抑えている。売れない時に作りすぎない」


「これが大事」


『なるほど』


「それに、税収の一部は常に残している」


『有事の際の特別補助金ですね』


「そう。税として納められた金の三割は、いざという時のために積み立てている」


『災害のためですか?』


「災害だけじゃない、戦、飢饉、疫病、何が起こるか分からないからな」


『本当に先のことまで考えているのですね』


「領主なんて、そうでもしないとやってられないよ」


小梅は苦笑した。


『ですが、今年の雨は少し心配です』


「……俺もそう思ってる」


秀高は外を見る。


「河川の水位を確認させろ」


『はい』


「堤防も」


『承知しました』


「山間部の状況も」


『分かりました』


しかし、その後も雨は止まなかった。

むしろ、さらに強くなった。

ザァァァァァァァァァ。

風が吹くき雨が横殴りになる。川の水位が上がる。山では地盤が緩む。道は泥に覆われる。

そして。畿内各地から、少しずつ不穏な報告が届き始めた。


『山城で増水』


『大和で山崩れ』


『摂津の一部で浸水』


『河内で堤防が危険な状態』


秀高は報告を一つずつ確認していた。


「……」


「まだ堺は大丈夫か?」


『はい』


「城は?」


『問題ありません』


「よし」


しかし、秀高は安心していなかった。


「他の地域が大丈夫じゃない、堺だけ守ればいいわけじゃない」


小梅が静かに頷く。


『そうですね』


そしてその夜。雨はさらに激しくなった。

屋根を叩く音が響く。

風が唸る。遠くで何かが崩れたような音がする。

秀高は眠っていた。

その時。

ドゴォォォォォォォォン!


「何事だ!」


秀高は飛び起きた。

すぐに部屋から出る。

屋敷の者達も慌てて廊下へ飛び出してくる。


『殿!』


「何があった!」


『分かりません!』


その瞬間。襖の外に人影が現れた。


『殿』


「……!」


伊賀衆だった。


「状況を」


『はっ』


『大雨による被害が畿内各地で一斉に発生しております』


「……!」


『山城、大和、摂津、和泉、河内』


『地崩れ、氾濫、家屋倒壊が確認されています』


「堺は?」


『現在のところ大きな被害はありません』


「城は?」


『問題ありません』


秀高は一瞬だけ目を閉じる。


しかしすぐに開く。


「……分かった。急ぎ、三役と各省の長達を集めろ」


『はっ!』


忍は消えた。

秀高は小梅を見る。


『秀高様』


「うん。これは……大きくなる」


『はい』


「なら」


「俺達も動く」


『はい』


しばらくして。堺総統座敷に三役と各省の長達が集まった。

皆、寝間着に近い姿だったが、誰も文句を言わない。

秀高が口を開く。


「皆」


『はっ』


「情報省から報告を受けているな」


『はい』


「畿内各地で大雨による被害が発生している」


「地崩れ、氾濫、家屋倒壊、道路の寸断、このまま放置すれば被害はさらに広がる」


大広間に緊張が走る。

秀高は立ち上がった。


「堺から救援を出す」


『……!』


「山城、大和、摂津、和泉、河内、この五地域に救難部隊を派遣する」


兵部省の長が尋ねる。


『兵を出されますか?』


「兵だけじゃない」


「築城作業員も出す」


『築城作業員を?』


「そうだ」


「土木の技術を持つ者が必要だ」


「倒れた家を片付ける者。道を直す者。橋を補修する者。堤防を直す者。必要なら仮設の避難所も作る必要がある」


『なるほど』


「一地域につき四千人づつ」


「兵二千、作業員二千の混成部隊とする」


『合計二万人……』


「そうだ」


『かなりの規模になります』


「それくらい必要だ」


大蔵省が口を開く。


『物資はどうされますか?』


「米、水、薪、薬、布、工具、建材、必要なものは全部出す」


『財源は問題ありません』


「よし」


農工省。


『食料については備蓄を開放します』


「頼む」


普請省。


『築城用の工具、木材も転用可能です』


「必要な分は使ってくれ。城は後からでも造れる。人命は後から戻せない」


『承知しました』


兵部省。


『救難部隊の編成を急ぎます』


「頼む」


情報省。


『各地の被害状況を逐次報告します』


「頼む」


交易省。


『不足する物資は他地域から買い付けます』


「必要なら買ってくれ」


「金は惜しまなくていい」


「今は人を救う方が大事だ」


『承知しました』


そして。


秀高は伊賀衆を見る。


「各地へ書状を送れ」


『どのような内容で?』


「堺から救難部隊を派遣する。部隊と支援物資を運ぶため、関所の通行を許可してほしい」


「そして救援隊を妨害しないこと、物資を奪わないこと、救援活動を邪魔しないことを記せ」


『承知しました』


「そして」


秀高の声が少し低くなる。


「救援隊に対して略奪や暴行を行う者がいた場合、身分に関係なく処罰する」


『はっ』


「これは戦ではない、領地を奪うためでもない。人を救うために行く。そのことを全員に徹底させろ」


『『『承知致しました!』』』


「よし」


秀高は皆を見る。


「物資が整い次第、各隊は出発せよ」


『はっ!』


その瞬間。堺が動き始めた。倉庫が開かれる。米が運ばれる。水が集められる。薬がまとめられる。木材が運び出される。鍛冶師達が工具を作る。医師達が救援隊へ加わる。職人達が仮設施設の準備を始める。


そして築城現場からも人が集められた。


『普請を止めるのですか?』


「一時的にな」


『しかし城の完成が遅れます』


「構わない」


「城造りは逃げない」


「だが被害にあった人は逃げられない」


『……』


「今は人を優先する」


『承知しました!』


こうして堺城築城の現場からも、多くの作業員が救援に加わった。

やがて。最初の部隊が整う。

兵二千、作業員二千。

医師、薬師、物資輸送隊。合計四千人。

山城方面へ向かう隊。

続いて大和、摂津、和泉、河内、それぞれの部隊が出発準備を整える。

秀高は門前に立っていた。


『殿!』


「気を付けて行け」


『はっ!』


「困っている人を見つけたら、まず助けろ」


『承知しました!』


「物資は必要な場所へ届けろ」


『はい!』


「そして」


秀高は一人一人を見る。


「必ず帰ってこい」


『……!』


『はっ!』


兵達は力強く答えた。

こうして救難部隊が堺を出発した。

長い列が続く。

兵士、作業員、医師、荷車、馬、米、薬、木材、工具、水。堺の民達も、その姿を見送る。


『お気を付けて!』


『頑張ってください!』


『皆を助けてください!』


『無事に帰ってきてください!』


救難部隊はその声を背に受けながら、畿内へ向かっていった。

秀高はその背中を見つめていた。

小梅が隣に立つ。


『秀高様』


「ん?」


『これほど大規模な救援をするとは思いませんでした』


「……」


「俺もだよ」


『え?』


「昔の俺なら出来なかった」


「兵もいない。金もない。人もいない。組織もない」


秀高は堺を振り返る。


「だが今は違う、兵がいる、人がいる、金がある、技術がある」


「そして、堺そのものが力を持っている」


小梅は微笑む。


『だから、その力を使うのですね』


「そうだ」


「堺を強くしたのも、城を造ったのも、商売を広げたのも、全部、こういう時のためでもある」


『……』


「力ってのは、自分のためだけに使うものじゃないからな」


小梅は静かに頷く。


『秀高様らしいですね』


「そうかな」


『はい』


「……」


秀高は空を見る。


まだ雨は降っている。


「だが、まだ終わってない」


『はい』


「雨が続けば、さらに被害が増える。追加の救援も考えておこう」


『承知しました』


「それと」


「被災した地域から人が堺へ避難してくる可能性もある」


『その場合は?』


「受け入れる」


『堺へ?』


「もちろんだ」


「食料と寝る場所を用意する。病人がいれば医師に診せる。家を失った者には仕事を与える」


小梅は少し驚いた。


『そこまで?』


「……困ってる人を追い返す領主にはなりたくない」


『分かりました』


「堺はまだ大きくなれる。人が増えることを恐れる必要はない」


「むしろ、助けられる人を助ける」


『はい』


秀高は再び畿内へ向かった救援部隊を見る。


その先には。大雨に苦しむ多くの人々がいる。

戦国の世。争いが絶えない日ノ本。

しかしその日。堺から向かった者達は。

刀を抜くためではなく。

人を救うために歩いていた。

それはこれまでの戦国大名達とは違う形の力だった。

そしてこの救援活動は。やがて畿内各地で大きな話題となる。


「堺から大軍が来た」


「いや、戦ではない」


「米を持ってきた」


「薬を持ってきた」


「家を建て直してくれた」


「堤防まで直している」


「堺の兵が村人を助けている」


「堺の領主は、何を考えているのだ」


様々な噂が広がっていく。

やがてこの一連の出来事は、後世まで語り継がれることになる。


『堺少将の畿内救済』


それは堺が単なる商業都市から。

日ノ本の人々にとって「頼れる町」へと変わっていく最初の大きな出来事となった。

そしてその救済の指揮を執った秀高自身も。

この出来事を通して。一つのことを改めて理解することになる。


「……堺を大きくしてよかったな」


雨の向こうに広がる堺を見ながら。

秀高は静かに呟いた。

その隣には。彼と同じ秘密を抱える小梅がいる。


『はい』


「これからも、もっと強くしよう」


『はい』


「もっと豊かにしよう」


『はい』


「そして、誰かが困った時に、手を差し伸べられる町にしよう」


小梅は静かに微笑んだ。


『それが、私達の堺ですね』


「……そうだな」


二人は並んで雨を見つめた。

未来を知る者。過去に生きる者。

本来なら交わるはずのなかった二つの時間。

その二人が戦国の世で出会い。夫婦となり。

そして。日ノ本の未来を変えようとしていた。

しかしその未来がどこへ向かうのか。

この時の二人には、まだ分からない。


ただ一つだけ確かなことがあった。


秀高と小梅は。もう一人ではない。

互いが互いの秘密を知っている。

互いが互いの未来を支える。

そして二人の前には。まだ長い道のりが続いている。

雨はその道の上に降り続けていた。


天文十三年七月。

こうして堺による大規模な畿内救難活動が始まった。

後に人々から、【堺少将の畿内救済】と呼ばれることになる出来事の始まりである。



誤字、脱字がありましたらご報告お願い致します。


宜しくお願い致します。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「災害救難部隊を山城、大和、摂津、和泉、河内に八千人ずつ派遣する」 この時点で四万人で、さらに残りの兵や作業員が物資輸送… 築城で全国から作業員二万五千を集めていたとしても多すぎないで…
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