八話 夜見
秋白に着くとそこには、カウンター席に腰掛ける緑色の巫女装束に眼鏡。ショーットカットの黒髪の美人がグラスを傾けていた。
黒髪美人は、店に入って来た小町たちを見るなりムスッとした表情を浮かばせた。
「遅いわ!!!」
「ごめん、ごめん!!夜見!」
「何分遅刻した思っとんねん!!!」
壁際に謝りながら腰掛ける椿と、夜見、その隣に小町、小巻と順番に腰掛けた。
「ごめんね~!!出掛けに、どっかの誰かさんが爆睡かましちゃうから・・・」
「ごめんなさいね、待たせてしまって」
申し訳無さそうな小町の顔を見ると、お酒のせいか頬を赤く染める夜見。
「お腹減りましたね!!何食べましょう!!」
「その前に、お酒!!喉乾いたわ」
「はいはい。順番に頼みましょうね」
両サイドから、小巻と椿がメニューを見てアレが食べたい!コレが呑みたいと!と話していた。
「こ、小町は何呑むの?」
さっきの威勢は何処かへと消えていった様で、夜見はまるで飼われたての子猫のように緊張していた。
「んー・・・夜見は、何を呑んでるの?」
「へっ!?あ、アタシ!?アタシは・・・ぴ、ピーチウーロン」
「美味しい?」
「うん、うまいで」
「じゃあ、私もそれにしようかな」
すみません。と、カウンターの店員に、声を掛ける小町。
「小巻は、甘いストロベリーサワー。椿には、生チュウ。私には、ピーチウーロン下さい」
「さっすが、私の好みわかってるぅ!」
「あ、お姉ちゃん!私、バニラアイス食べたい」
「それは、食事終わってからにしなさい」
「はーい」
仲睦まじい姉妹の会話に、胸が痛み出す夜見。
小巻副隊長は、ええなぁ・・・ずっと小町と一緒やもんな・・・。
小町と、夜見、椿は同世代で昔から仲良しだった。良く、使者になる為の学校に一緒に通っていたものだ。他の同世代の男で隊長格になったのは、三人。如月、朝比奈、そして夜見の隊四番隊隊長の舞風だ。
最初は、憧れだった。
なんでも、出来る友達。成績優秀、眉目秀麗、でもそれをけして鼻にかけている訳でもなく本当にいい子。アタシもいつかそんん子になりたいって思っとった。
でも、段々とその憧れは消えて、新しい感情が芽生えたのはいつからだろう。
アタシに勉強を教えてくれる小町も、隊長格になってからもこうやってアタシの知ってる小町でいてくれる。小町の傍だと落ち着くねん・・・安らぐねん・・・アタシは、小町が好きなんや。
けして、女が好きちゃうくて・・・小町が好き。
でも、この気持は絶対に秘密。小町を困惑させたくないから。今は、こうやって隣で笑っててくれるだけでホンマに嬉しい。
「あ、小巻・・・口にマヨネーズ付いてるよ」
小巻の汚れた口元を優しくおしぼりで拭う小町。
「ありがとう!!お姉ちゃん」
最近、常日頃思うことがある。
小巻、ポジションをアタシに!!!!!!!!!!!!
その想いは募るばかり。
ああ~・・・私も、小町に口元拭かれたいわ~。そうや!!ちょっと、わざとつけてみよう!!
夜見は、小町が小巻と話している間にお皿に余ったマヨネーズを口の端に付けてみた。
『ふふ、夜見ったらマヨネーズ付いてるわよ。しょうがない子ね』
小町にマヨネーズを拭われる妄想で、ご飯三杯いけます!と、うっとりしていると。
「あー。夜見ったら、口にマヨネーズ付いてるよ~」
小町ではなく、椿がおしぼりで夜見の口を拭ってやった。
「お前、ちゃうねん!!!!!!!!!!」
思わず、テーブルの下で椿の足を思い切り踏みつける。
「いった!!!!!!!」
そんな二人のコントみたいなやり取りを見て、小町と小巻はクスクスと笑う。
「もう、二人ってばおかしい」
ああああああああああああっ!!!神や、アタシの神が微笑んでるっっっっっっっっっっっっ!!!!
思わず気絶しそうになった夜見。よろけて、その体は自然と小町の方へ。
「おっと、もう酔ったの?あんまり、飲み過ぎはダメよ」
小町の優しい微笑みと、声にもはや死んでもいいと思ってしまう夜見だ。
そんなガールズトークを楽しんでいると、そこに現れたのは如月と朝比奈だった。
「あらあら、お二人さんどうしたんですか~?」
かなり、酔いが激しい椿の質問に笑顔で如月が答える。
「さっき、ここで呑むって堂々と立ち聞きしてたので、どーしても朝比奈が小巻ちゃん伝えたい事があるとのことと、俺も小町に話が合ってきたんだ」
思わず、顔を見合わせた姉妹である。