七話 夢の中で
午後八時。戦闘隊の定時時刻になった。
コンコン。と、食事に行く支度ができた小巻と椿が小町を迎えに来た。
「こーま・・・ありゃ、寝てるね」
「え?あ、本当ですね・・・きっと疲れてるのでしょう」
「ま、いっか。夜見少し遅れるって言ってたから、一時間ぐらい寝かせてあげましょう」
「そうですね」
ここからは、少し小町の夢の中を見てみよう。
暑い暑い夏の終わりを告げる金木犀の香り、リンリン。と優しい鈴の音。小町は、ひたすらに柳の下で誰かを待っていた。
「小町っ」
その聞き覚えのある声は、優しくてとても安心する声だった。
「紅月さんっ!」
いつもの小町からは、想像が付かない無邪気な笑顔で紅月の胸に飛び込んだ。
ふんわりと、彼女を包み込むとても優しい暖かな腕、それと同時に金木犀の香りが鼻をくすぐる。
「甘えん坊さんやな・・・困ったさんや」
全然そんなこと思ってもいなくて、ただ二人の時間を素直に楽しんでいた。
「紅月さん、私ね!!誰よりもアナタを愛しているのよ!!ずっとこのまま・・・時が止まってくれればいいのに」
「俺も愛してる・・・」
そうして、二人の唇は重なり笑顔でおでこをくっつけた。
嗚呼、こんなにも素直になれたらどんなに楽だろうか。素直になりたい。こんなにもそう願ったことはなかった。もっと自分が愛想の良い娘だったら、浮気なんてされなかったかもしれない。もっと自分が無邪気に笑えたらこんなことにならなかったのに。
小町は、夢の中でも現実でも自分を責めて、本当の自分を殺して、隠して生きてきた。それは、今もこれからも変わらない事を何より自分自身が分かっていた。
それが悔しくても悲しくても仕方ない。彼女には、他の使者たちが持っていない宝物を持っているのだから、それは・・・。
「ん・・・」
目が覚めるとそこには、愛おしい紅月はじゃなく妹の小巻だ。
「あ、ごめんね。起こしちゃった?風邪、引かないように・・・毛布掛けようとしたの・・・」
「ううん、大丈夫。、最近、スッカリ寝不足よ」
ふぁ~っと、欠伸を一つ零す小町。
「ふふ。ひぃくんにはお仕事ちゃんとしてって、私から言っておくから」
「あの人は、本当に小巻の言うことしか聞かないんだから困ったものね」
「そうかな~?」
ふふっ。と、笑う可愛い妹。
大切にしなくては、守らなければ、この優しい大切な妹・・・宝物を。
「あ、小町!やっと起きた~早く、お腹ペコペコ・・・今なら牛一頭でも入りそうなんだけどっ!!」
「椿さんがいうと本当にそうなりそうで怖いです」
「怖いのは椿じゃなくてその後のお会計よ」
「確かに」
隊長羽織を置いてはいけない規則になっているので、羽織を着直してもう鈴がついていない刀を差して、小町は隊長室の外へ出て行く。
外に出ると、じ~んとした暑さと一緒に涼しい風が靡いた。
ふんわりと香る金木犀の匂い。
「ん~!!いい風!!今年ももう夏は終わりね」
「夏の終わりって・・・なんか寂しいわよね」
「ん?小町、なんか言った?」
「なんでもないわ。さぁ、行きましょう」
あの夢の続きをいつか見れる日を彼女は待っていた。