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愛してるが故に  作者: あま菊
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六話 複雑な想い


「小町っ!!待てやっ」


 総隊長室から抜け出してきた小町の腕を掴む紅月。振り向いた時の小町の頬は、涙で濡れていた。いつもは、そう簡単に泣いたことのある女ではない。彼女は、何も言わずに濡れた頬を拭い刀につけていた鈴を取り、紅月に返す。


「これ、お返しいたします」


 いつも、刀につけていた鈴。これは、紅月が小町に渡したプレゼント物だ。彼女の宝物だった。それを返したのだ。


「もう、二人きりで会いません」


「小町・・・ホンマにアレは違っ・・・」


「違う?そんなことよく言えますね・・・自分の首筋見てください・・・」


 彼の首筋には綺麗な華が咲いている。


「真っ赤なおキスマークが良くお似合いだこと」


 そのまま彼女は、何も言えなくなった紅月を置いて帰った。



 自分の隊舎に帰るなり、突然隊長室から出てきたのは小巻だ。


「どうしたの?小巻」


「あ!!帰ってきたっ!!今ね、迎えに行こうとしていたのよ・・・修羅場だって聞いたから」


 修羅場・・・。確かにその通りだと小町は思うのだ。彼氏が、他の女と寝ている現場を見てしまうのという経験は、この先真っ平御免だ。


「ねえ・・・椿」


「んぁ?」


「今日の合コン、私も行くわ」


「え?!本当?!」


「ええええ?!!!お姉ちゃんっ!?」


 これには、まだ傍に居た如月と朝比奈も驚きを隠せないようだ。


 あの冷静沈着な小町の口から合コンに行くなど、もしかしたら明日は槍でも振ってきそうな勢いだ。


「こ、小町・・・あんたなんかあったの?」


「別に・・・ただ、ちょっとお酒でも呑みたい気分なだけ」


「じゃあ、普通に!!普通に飲みいこうよ!!それがいい!!」


 何かを察した小巻が提案した。


「そ、それもそうね!!うっし!!じゃあ、今日は夜見よみでも誘って四人で飲みいこうか!!」


 女三人で、肩を組んで話している姿を遠目から見つめる如月、朝比奈は顔を見合わせた。ちなみにホタルと凛は残りの仕事があると言って帰っていったらしい。


「あ、そうだ。ホタルくんがこれお姉ちゃんに渡しておいてって」


 小巻から受け取ったのは、一通の手紙。


 手紙を開けると『明日、十一時に資料室で待つ』とだけ、書かれていた。


 それを盗み見していた椿は、小町から手紙を取り上げるなり首を傾げる。


「なにこれ?果たし状?それとも告白?」


「ええ!!ホタルくんとお姉ちゃんが!!?」


「どっちの可能性もないです。ほら、手紙を返しなさい」


 その言葉とほぼ同時に、休み時間を終えるチャイムが鳴り響く。


「んじゃ、四番隊の夜見には私が連絡しておくわ。んじゃ、今日は定時であがるぞーい!」


「場所はいつもの秋白あきしろで大丈夫ですか?私、予約しておきます。明日、戦闘隊は休みだからきっと混んじゃうと思いますから」


 ニコッと微笑む小巻を見て、思わずその優しさに抱きしめる椿と何故か朝比奈。


「本当に、小巻は気が利くねぇ~」


「ありがとうございます・・・でも、なんで朝比奈隊長まで?」


「俺のことはいつも通り、ひぃくんって呼んで良いんだぜ?」


「いいえ!!今は、勤務時間内ですので!!」


 朝比奈のお願いをあっさりと断り、仕事に戻る小巻。


「しっかりしてるな・・・どっかの誰かさんとは大違いだ」


 ポンポンッと、朝比奈の頭を優しく撫でる如月である。


「んのぉ~・・・お前も、オレの身長が148センチしかないの馬鹿にしてるな・・・」


「バカになんてしてませんよ?・・・ただ、186センチの俺から言わせていいただくと・・・なんか小学生がチャラくなっったようにしか見えないだけです」


 万円の笑みで嫌味を言う如月に、この野郎!!と殴りかかろうとするが手の長さも、体つきもやはり如月の方が上の為、手が届かない。


「あの・・・他所でやって下さい」


 とうとう小町の怒りも頂点に上り、二人を三番隊の隊舎から追い出す。


 疲れがどっとまし、先程まで人で賑わっていた隊長室がウソのように静まり返る。椅子に腰掛けるといつも鳴る刀が鳴らない。鈴だ。もう、あの温もりを感じられないと思うと急に寂しくなってくる。


 でも、それと同時にあの女、金魚への怒りそして紅月の怒りが込み上げてきた。


「これから、どうしたものかな・・・」


 椅子の背もたれにより掛かる、すると目の端に先程ホタルが置いて帰った手紙が移った。


 きっと、例の件だろう・・・また今年も、小巻を傷つけることになるのね・・・。内心、そう思いながら。


「私がしっかりしないと・・・」


 呟き、仕事を定時で乗り切った小町であった。

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