第五話 波乱
小町は、走った。何故か、急に紅月に会いたくなったのだ。
肩で息をしながら、辿り着いた総隊長の隊舎。他の隊舎よりも大分大きく厳つい紅月本人も、この隊舎にいると緊張して嫌だ。と言っていた様だ。
「いきなり来てしまって、驚きはしないかしら・・・」
自分の鼓動が早いのは、果たして走ってきたせいなのか、それとも緊張しているからなのかわからなかった。総隊長部屋に入ろうとすると後ろから、いきなり誰かに肩を掴まれた。
気配を消していたので、思わず敵だと感じた小町は刀を抜こうとする。
「ちょっ、小町隊長・・・俺です。冬夜です」
「冬夜副隊長・・・気配を消して近付いてくるのは、お辞めなさい」
刀に手をおいていた手を離した。
「すみません。でも、今総隊長室行くのやめておいたほうが良いですよ?」
「どうして?」
「いや、多分修羅場ですよ」
「え?」
ガタガタッと、何かが落ちる音が総隊長室からした。慌てて、総隊長室の襖を開けると小町の目に飛び込んできのは、総隊長室のデスクに裸の女性が紅月の上に乗っかっていたのだ。
紅月の頬には、口紅の赤いキスマークがついていた。
紅月は、小町の姿を見るなり目を見開き慌てて女性を自分の体から退かせた。
「小町っ!!ちゃうねんっ!!コレはっ!」
「そういうことですか・・・」
浮気してたの?あんなに私に愛してるって・・・言ってたくせに・・・。あれ、こういう時なんて言えば良いのかしら・・・殴ればいいの?それとも、それとも・・・ダメだわ、頭がもう真っ白。
小町の瞳から流れた一筋の涙と、蚊がなく声で呟く。
「・・・酷い、最低です」
コレが、彼女の精一杯の言葉だった。
これ以上この場所にいると、頭がおかしくなりそうになった小町は、持っていた書類を冬夜に乱暴に渡してそのまま三番隊隊舎へと帰った。
「小町っ!!待てや!!!」
紅月は、走っていく小町の後を追う。
「あーあ。まぁた、逃げられちゃった・・・今度こそやり直そうと思ったのに・・・」
「金魚さんも諦めたらいいものを・・・嗚呼・・・書類が落ちてしまいました」
書類の残骸を拾おうとしゃがみ込むと、総隊長室から乱れた巫女装束で部屋から出てくる「金魚」と、呼ばれた女性。
「冬夜副隊長・・・お聞きなさい?私の辞書に『諦める』なんて言葉は、存在しなの」
書類を全て拾い上げてから、冬夜は金魚を睨みつけながら冷たくこう呟く。
「二番隊の恥晒しが・・・良い身分だな。あんまり調子にのるなよ・・・この女狐」
「あら、アナタもこちらの者だと思っておりましたわ」
「何が言いたい」
「小巻副隊長のことがお好きなのでしょう?」
「だからなんだ・・・お前に関係のないことだ」
冬夜に絡みつきながら、彼の唇に指を優しく置き厭らしく口を開く。
「私が女性の口説き方をお教え致しましょうか?」
「結構だ」
「あら、それは残念ですこと」
そのまま、装束をきちんと着てから隊舎をあとにした。
「はぁ・・・めんどくせー」
そう呟いて、溜息をつく冬夜だった。