三話 姉想い
会議室で、そんなことが起きているとも知らない小巻はというと。
「お姉ちゃん、遅いなぁ・・・」
「そんなに心配か?」
帰り道、何度も何度も後ろを振り返っては同じ言葉を繰り返す。
「うん・・・お姉ちゃん、なんやかんや言って総隊長のこと嫌いそうだから心配で・・・」
「そうか?俺には、仲良しにしか見えないぞ」
「あの女ったらしの総隊長が毎月の会議でお姉ちゃんだけ呼び止めるのって絶対になにかあるよ!!!」
「それを総隊長の副隊長である俺に言う、お前の度胸が凄いな」
再び、隊舎へと向かう足が進みだす。
「べっつに!!誰にどう思われようと私は気にしない!!ただ・・・お姉ちゃんを傷つける人は、許さない・・・絶対に。」
「お前は、本当に姉思いだな」
「当たり前でしょ?だって・・・たった二人だけの家族なんだから」
「そもそも、使者に家族がいることは珍しいことだぞ」
使者になれるのは、『死んだ人間の魂』。そして、隊長格までいくには何かしらの動物との交合が必要だ。使者になる時、必ず神に差し出さないといけない物がある。それは『前世の記憶』。例えば、悲しかった記憶や苦しかった記憶。楽しかった記憶や嬉しかった記憶。全て、神に捧げ新しい力を受け取るのだ。
「確かに、使者になる時私たちの記憶は必ず消える。でも、何故か私とお姉ちゃんの記憶は消えていない。それが、何故なのかも分からないけど・・・でも、私には残っていない死んだ時の記憶を多分・・・お姉ちゃんは知ってる」
「小町隊長に聞けばいいじゃないか」
「何度も聞いた・・・でも、そのうちそのうち・・・って悲しそうな顔をするの・・・。あんなお姉ちゃんの顔見たくない・・・」
「そもそも、その姉妹の記憶は、正しいのか?」
「へ?」
「いや、俺も隊長格の人間だ。前世の記憶はないから、偉そうなことは言えないが・・・小町隊長が小巻の記憶を改竄している可能性だってある」
「それってつまり・・・」
「記憶の隠蔽」
冬夜の言葉に、全身まるで雷にでも撃たれたような衝撃が走った。
「そ、そんな・・・こと・・・」
しかし、全く考えてこなかった訳じゃない。もしかしたら・・・。と、何度か最悪の事態を考えたことはあった。
「ん?小巻、まだこんな所にいたの?」
ふと、声が聞こえた方に顔を向けるとそこには小町と紅月の姿があった。
「ん?どないしたん?小巻ちゃん、顔色悪いで?・・・冬、お前なんか小巻ちゃんにしたんちゃうやろうな?」
「いえ、なんにも・・・」
「いいわ、とりあえず失礼致します。帰るわよ、小巻」
「うん・・・じゃない・・・はい。隊長」
その日から、小巻はあることを心に決めた。