表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/42

28. 彼女の代わり




 ドレスは二週間後に出来上がるらしい。


 普通は早くても一ヶ月。

 遅くて後半月は掛かる。


 でも、それでは間に合わないからと、マダムとそのお手伝いの人が不眠不休で作り上げてくれるようだ。


 ──私達に任せて!

 と、親指を立てたマダムは、女の私でもかっこいいと思ってしまった。



 でも、頼もしい味方が居るのはありがたいことだ。

 ドレスのことは彼女達に任せ、私は次の場所へ向かう。


 流れていく風景を横目に、私はルディと入念な打ち合わせをしていた。一分一秒も無駄にはできない。


「ルディは引き続き、マダム達と連絡をお願い」


「かしこまりました。……それでお嬢様。プレゼントの方はどうなさいますか?」


「それについては今、ベルディア殿下にそれとなく探りを入れてもらっているわ。次のお茶会までには調べ上げると言っていたから、まだ後回しね」


「…………王族を使い回しにする人って、お嬢様くらいですよ」


「あら。強要はしてないわ。あちらが快く使われてくれているのよ」


 と言い訳のようなことを言ったら、とても微妙な顔をされた。


「本当に、恐ろしい人です」


「褒められているのだと受け取っておくわね。……それで、次の予定だけど」


「はい。次の店は美容店です。これから毎日、夜会まで磨いていただきます。放課後も同様です。学科の用事が終わり次第、馬車でそちらに行っていただきます」



 私は、はぁ……と溜め息を一つ。



「うちの使用人を自由に使えたら、こんなに苦労することはなかったのにね」


「仕方ありません。あのば──ンンッ! あのお二人はメアリー様にしか興味がありませんから」


「ほんと、あの馬鹿二人も大概よね……公爵家を存続させていられることだけが奇跡だわ」


「俺がわざわざ言い直したのに、お嬢様がそれ言っちゃうんですね」


「今はあの二人の目がないのよ。何を言っても聞かれやしないわ」


 ルディは苦笑する。

 大方、相変わらずだと思われているのだろう。


「でも、これだけ才能に溢れているお嬢様を放置して、なんの才能もない箱入り娘に執着するとか、本当に何を考えているのでしょうかね? 公爵家としての、当主としての自覚あるんでしょうか」


「許可を出した瞬間、急に毒舌になったわね」


 むしろこっちの方が呆れてしまう。

 それだけ両親に不満を持っているのだろうけれど、ほぼ私も同意見なので嗜めるようなことはしない。


 二人が何を考えているのかは、わからない。

 馬鹿の考えを理解しろという方が無理な話だ。



「使用人は完全に妹だけのもの。……ルディまでも取られなかったことだけが、唯一の幸いね」


「お嬢様の担当から外されたら、俺はあそこで働いていませんよ。それに、公爵家のご令嬢が誰一人も従者を連れていないのは、流石に問題があるでしょう。そういう常識だけ中途半端にあるようで……」


「そんなことを言ってあげないの。流石にそこまでやったら、お祖父様やお祖母様にぶん殴られることくらい、あの人達も理解しているもの」



 私の祖父や祖母は、ちゃんとした常識人だ。

 記憶を失ってからはまだ一度も会っていないけれど、一応私の味方をしてくれているのはルディから聞かされている。ただ、今は隠居暮らしのため遠くの地方に居るらしく、あまり公爵家のことに関しては口出ししてこない。


 ……まぁ、必要以上に接触されるのも面倒なので、私はそれで満足している。

 味方が増えるのは確かに嬉しいけれど、それ以上に、敵が増えないことはもっと嬉しい。



「……本当に、面倒臭いわね」


 気が付けば私は、そんな悪態を付いていた。



「今は我慢しましょう。いつか誰かがお嬢様を認めてくださいます……きっと、素晴らしい方が」


「そのためにヴィオラは味方を増やしている。私は彼女の頑張りを無駄にしないよう、彼女の代わりを務めるだけよ」




「………………あ、そうだった。お嬢様は記憶喪失でした」




 ──忘れていやがったなこの野郎。

 という言葉は、ギリギリのところでグッと飲み込んだ。


 私は公爵家の長女、ヴィオラ・カステルだ。

 たとえ従者相手だろうと、言葉使いには気を付けなければいけない。



 でも、睨む程度なら許されるだろう。



「いやぁ、お嬢様がいつも通りすぎて、すっかり忘れていました。本当に記憶喪失なんです? 最初の方は何の知識もなかったから変でしたけど、今はヴィオラお嬢様そのものですよ」


「これでも変化を悟られないように頑張っているのよ」


「あ、それは今更なので気にしなくていいと思います」


 …………この野郎。

 ぎゅっと拳を握る。


「だってお嬢様考えてみてください? 『シャトルレーゼ』のマダムと個人的に繋がっていて、剣術のみの決闘で次期騎士団長候補を打ち負かし、皇太子と交流を持ち、挙句にはいいように使っているのですよ? これでおかしいと思われなかったら、逆に世界がおかしいです」



 ぐうの音も出ないとは、このことか。

 でも、冷静になって考えれば、私とヴィオラのやっていることはおかしいのだろう。


 公爵家長女という立場を考えても、やはり異常だ。


 マダムは立場とかで物事を決める人ではない。ベルディア殿下も同じだ。

 確かに出会いやすさを考えれば、公爵家という立場は利用しているのかもしれない。……でも、あの二人ならば、私が平民であっても変わらず接してくれていただろう。


 真に才能のある人は、爵位を気にしない。

 だって他に才能ある者を、そんなつまらない理由で見捨てるのは、とても勿体無い行いだから。



「…………私は、絶対にルディを見捨てないから」


「え、何ですお嬢様? 馬車の音で、ちょっと聞こえませんでした」


「何でもないわ。ただの独り言」



 もし両親が、ルディを私から引き剥がそうとした時、私はどうするだろう。


 きっと私は、感情を抑えられない。

 きっと私は、これ以上両親を許せない。


 だから、そうならないことを祈っている。

 今の私には、彼が必要だから。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ