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side2. 第一王子の興味



 俺の名はベルディア・ルート・アクセラ。

 我が国『アクセラ王国』の第一王子にして、『エルスト王立学園』の2年生だ。


 今、俺が居るのは、生徒会が所有するサロン。

 ようやく書類作業がキリ良いところまで終わり、学園に仕えている使用人にお茶を淹れてもらって休憩している。




「どうだ、お前も一緒に座らないか?」


 俺は後ろを振り返らず、そこに居るであろう人物に声を掛けた……が。


「いえ、俺は大丈夫です」


 返ってきたのは、遠慮の言葉だった。


「……相変わらず、愛想の無い奴だな」


 どうせ断られると思っていたので、別に「第一王子の誘いを断るなんて!」とは怒らない。それに、このサロンの中で起こることは全て『無礼講』だ。身分の差を考えるほうが間違えている。



 ……だから誘ったのだが、やはり愛想の無い奴だ。


 俺はティーカップに口を付けながら、そう思う。



 後ろに控えて居る者の名は、ダイン・マクレス。男爵家の長男で、小さき頃から俺の護衛役を務めてくれている男だ。


 代々騎士の家系として王家に仕えてきた彼らの家は、男爵家でありながらそれなりに歴史が深く、王国内の貴族としての発言力は大きい。


 マクレス家の当主は現王国騎士団長であり、ダインはその次期後継者候補筆頭だ。


 ダインはこちらが呆れるほど真っ直ぐな男で、良い意味で言えば『騎士のように忠実な男』で、悪い意味で言えば『本当の堅物』だ。


 このサロンでの無礼講を知りながら、こうして主従関係を徹底しているということだけでも、それはよく理解できるだろう。




 はぁ……と、俺は溜め息をつく。




「お前、今日何があったんだ?」


「何が、とは?」


「こっちの方にも噂は流れてきたんだぞ。午後の体験加入の時、お前が新入生に決闘を申し込んで、しかも負けたとな」


「申し訳ありません」


 別に謝れと言っているわけじゃないのに、これだ。

 根は良い奴なのだが、やはりやりづらい。


 彼の父親である騎士団長殿はここまで堅物ではなかった。むしろ人柄が良く、部下とも良い関係を築いている人だ。なのに、どうしてその息子は、こうも一直線な性格なのだろうか。



 俺は内心、もう一度溜め息を溢した。


「俺は、何があった? と聞きたいだけで、一度でもお前に謝れと言ったか?」


「ですが……」


「言い訳はいいから、早く話せと言っているんだ……ったく」


 ここまで言わないとわからない男だ。

 話しているこちらまで疲れてしまう。


「実は…………」



 ダインは重い口を開き、午後にあったことを話し始めた。











「──あはははははっ! ぶっ! あっはっははははははは!!!!」



 数分後、俺は腹を抱えて笑っていた。何年かぶりの大爆笑だ。


「殿下。流石に失礼です」


「い、いや……だって、ぷくくっ、すま、ぶふぉっ!」


 笑いを堪えようとしても、やっぱり面白くて吹き出してしまう。


「まさか、まさか決闘の相手があの薔薇姫で、しかも決闘中に胸を触り、焦って逃げてきた!? く、はははっ! これは傑作だ!」


 ──ヴィオラ・カステル。


 『紅蓮の薔薇姫』という社交界の二つ名を持つ、カステル家のご令嬢だ。ヴィオラ嬢とは夜会で一度だけ会ったことがあるが、それはそれは美しい女性だったことを覚えている。一度笑えば男性を魅了させ、動作の一つ一つに高貴な気品が溢れている。


 そんな彼女が今年、この学園に入学してくることは知っていた。


 おそらく『応用学科』か『礼法学科』のどちらかに入るのだろうと思っていたのに、彼女が入ったのはまさかの『剣術学科』。


 そこは将来、騎士になりたいと思う者達が集まる場所で、平民の割合が大きい。そんな場所に公爵家の令嬢が入るとは思わず、どうせただの『噂』なのだろうと思っていたら……まさかのヴィオラ嬢とダインが決闘をしたらしいと小耳に挟んだのだ。


 それを聞いた時、流石の俺も「ええ、まじか」と呟きそうになったのだが、やはり真実は当事者に聞いた方がいいだろうと思い、実際に聞いてみたら──ダインの反則負け。


 ダインがバランスを崩し、咄嗟に手を伸ばして掴んだものがヴィオラ嬢の胸。

 なんという幸う──こほんっ。なんという不幸な事件なのだろうか。




「だが、それで逃げたのはいただけないな」


「……それは、そうですが……パニックに陥ってしまい、気が付けば、稽古場を出ていまして……」


 ダインは気まずそうに視線を泳がしながら、言い訳をしていた。

 ここまで彼が動揺するのは珍しい。……いや、初めてのことだと言っても過言ではない。


「それで、どうしてお前は公爵家のご令嬢に決闘なんて申し込んだんだ? 女性に手をあげるなんて、騎士以前に、男としてどうかと俺は思うが」


「…………遊び感覚で来ているのだと、勘違いしていました」


「ほう?」


「今まで女性が剣を取る姿なんて見たことがなく、そしてあり得ないと思っていました。騎士に興味を持つご令嬢は、鬱陶しく群がってくるだけで、一度も剣術に目を向けようとはしてこなかった。だから、どうせヴィオラ嬢も同じなのだろうと、そう思っていました」


「して、どうだった? 彼女は今までのご令嬢達と同じだったか?」


「…………彼女と他の令嬢は、何もかもが違いました」


「まぁ、長い話になりそうだな。ソファに座れ。ゆっくりと話を聞かせてくれ」


 座るように促し、ダインは「失礼します」と腰掛けた。

 そぐに使用人が新たなティーカップを運びこみ、ダインはそれをグイッと飲み干し、口を開く。




「正直、驚きました」


「ああ、俺も驚いた」


「……?」


「あ、いや、なんでもない。続けてくれ」


 彼が飲み干した紅茶は淹れたばかりだから、相当な熱さだったと思うのだが、本人はそこを何とも思っていないらしい。そこに俺は驚いていたが、話が脱線しそうだったのでやめた。




「ヴィオラ嬢との決闘。あのまま続けていても、俺はおそらく負けていたでしょう」


「なんだと?」


 信じられない言葉に、俺は眉を顰める。


 彼はまだ騎士として強いとは言えないが、学生として見ればかなりの実力者だと思っている。

 そんなダインが、今なんと言った? 自分が負ける? ヴィオラ嬢に?


「待て。お前と戦ったのはヴィオラ嬢だったんだよな? 彼女の従者とはではなかったのか?」


「俺が戦ったのは、ヴィオラ嬢です。あれほど美しい赤髪の女性は、彼女以外に知りません」


「それは、まぁ……そうだな」


「彼女の剣術は見たことがありません。でも、俺の剣は全ていなされ、掠りもしませんでした。まるで赤子を相手しているかのように、彼女は常に微笑みを絶やさず…………最後の時まで、彼女はその場から一歩も動いていませんでした。俺の、完敗です」


「それで胸を触るとか……お前、絶対に嫌われたぞ」


 勝手にヴィオラ嬢が遊び感覚で来ていると勘違いし、強引に決闘を成立させ、一方的にやられて、しかも最後は胸をつかんで逃走。騎士としてあり得ないことだ。


 公爵家の権力で家ごと消されても文句は言えないことを、俺の護衛はしてしまった。本人もそのことを理解しているのか、苦い表情で俯いている。


「俺は、どうしたら……」


「仕方ない。ヴィオラ嬢を呼び出そう」


「っ、ですが……!」


「俺の護衛が無礼を働いたのであれば、俺も謝るのは当然だ。……それに、俺も会ってみたいしな」




 ヴィオラ・カステル。

 彼女のことは何度も聞いている。


 曰く、男を弄ぶ魔女。

 曰く、社交界を支配する悪女。

 曰く、令嬢の皮を被った化け物。


 酷い言われようだと思うが、それでも彼女は常に凛々しく、勇ましく、高嶺の花として社交界に君臨してきた。


 そんな彼女の新たな一面を知ることができる。



「……楽しみだ」






          ◆◇◆






「──へくちっ!」


「どうしたんですか、お嬢様。ハンカチどうぞ」


「…………なんか、良からぬ期待をされている気がするわ」


「はぁ?」


そろそろストックが無くなってきました。

……はい。頑張って書きます。

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