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ゆめにっき。シリーズ  作者: 雪宮紫月
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シの形

目を開くと景色は青色に染められ海の中にいるようだ。

足をゆっくりと上下に動かし腕を精一杯外側に開き後ろへと送る。

体は前へと進み始める。水のように重くないが空気のように軽くもない。不思議な物質に身を包まれたまま泳ぐ。息は苦しくない。鼻で呼吸をしているのだろうか。

周りには生物はいないようで動いているのは私と上から降り注ぐ光の波だけだ。どこまで泳いでも下は真っ暗な闇。上はどこまでも青い。上に行っても下に行ってもずっと同じ景色。

ふと、後ろを見てみると、何かがこちらへと向かって来ているように感じた。

何も見えない。形もない。音もない。臭いもない。でも、何かが来ているという感覚だけが警報を最大限に鳴らしている。私はその姿も形も無い直感だけでしか分からない何かに言い知れぬ恐怖心を覚え、急いで逃げ始めた。

足は先程までの優雅さは無くなり、慌ただしく何かを蹴り続ける。腕は限界まで開き、何かを突き飛ばす。いつもなら痛みを覚えるような雑で大きな動きなのに、今は痛みなんて感じることがない。

後ろは見れない。それでも、言い知れぬ恐怖心は全身の動きを止めないようにと、脳を支配している。

疲労も、痛みもない。

まるで、夢の中を泳いでいるようだ。

今はアレから逃げる。それだけを考えていなければ……。

どれくらい泳いだだろう。

変わらない景色と疲れも痛みもない身体、そして、常に射し込む光のせいで時間という感覚は狂い、私の中の時計は完全に止まってしまった。

後ろを振り返ると既にアレに対する警報は消えて、私はまたこの空間で1人になった。

辺りに何か無いかと見回す。今まで来た方向から大きく右にずれた場所に点滅している光が見えた。波にしてはあまりにも規則的な点滅。恐らく、生物か機械があの場所にはあるはずだ。その場所を目指してまた泳ぎ始める。

先程までの慌ただしさは嘘だったように落ち着いていて優雅な泳ぎ。光へ少しずつ近づく。

点滅する光の大きさが二倍ほどになった辺りで大きな影が私を覆い隠した。

上を見上げると、鯨のような黒いものが私の頭上に居た。

いや、動いていない。尾びれを動かしている様子がなく、まるで船のようだ。もしかしたらそうなのかもしれない。

大きな影は私を横切ってどこかへ向かって進んで行った。

大きな影と別れ、泳ぎ続ける。光はより大きくなり、手を伸ばせば掴める様にも感じられる。

だが、私にはその光はまだ遠いという考えが頭の中にはあった。

ただ、無心で青い世界を一人で泳ぐ。

寂しさも楽しさもない。疲労感も痛みもない。時間という概念があるのかすら分からない。ただひたすらにその光を目指して私は泳ぐ。

これは夢なのか?

それとも、幻なのか?

いや、……なのかもしれない。

「かも」という推測と「なのか」という疑問を浮かべながら私はひたすらに進み続ける。

視界からの情報より頭の中の情報が多くいつからだろう、光は私の身体を飲み込める程大きく近くなっているのに気づけなかった。

その光は先程のアレとは違い暖かく、安心感を感じる。

母性のような、家族のような、そんな暖かさ。

手を伸ばすとその光は私をゆっくりと吸い込み始めた。私は吸い込まれることに恐怖などを抱かなかった。

ジリリリリ……。

どこからか軽く早い金属音が聞こえてくる。

その音に対して焦燥感と嫌悪感を感じる。

光に飲み込まれるにつれてその音も大きくなり少しずつ母の声も聞こえてくるように感じた。

青い世界は真っ白な光に閉ざされた。

私は真っ白な光の中をゆっくりと落ちていく。

柔らかく暖かい光は私の心を幸せで満たしていくようだ。

母の声と目覚まし時計の音が部屋中を埋めつくし、カーテンの隙間からは朝日が溢れる。

気持ちのいい朝だ。

私はその日、殺人鬼に遭い殺された。

今回の主人公は残念ながら死んでしまわれました。

次の主人公はちゃんと、死なずに生きられるのでしょうか?

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