第6話 才能
「あ、もう終電ないや。どうしよ。」
レイがスマホを覗きながらつぶやく。
「レイ、どこに住んでるの?」
「A市」
電車で五駅ほどのところだった。タクシーで帰るには金銭的に痛いだろう。
「僕の家来る?」
「え?いいの?」
「いいよ。どうせ一人で心細かったし。それに、僕と喋ってたから終電逃したんだし。泊めるのが筋じゃない?」
「じゃあ、遠慮なく。」
駅から歩いて僕の家に着いた。レイは僕の家が想像より大きかったらしく驚いている。
「ふええー。立派な家だな!これ、もうローン返し終わってんの!?」
「うん。」
たしか父が去年ローン終わったって言ってた。
「まじかよ。この家と一億ありゃ余裕で生きていけるじゃん。さすがに死ぬのはもったいねーよ!アタル。」
「うん・・・。」
僕の暗い返事にレイはすぐ反応した。
「ああ、金と家がありゃオールオッケーじゃないよな。アタルは今辛いよな。悪いな。」
レイは慌ててフォローした。
「いや、レイの言う通りだよ。僕も、運が良すぎて現状に感謝が足りないんだと思う。世の中、もっとキツい人もいるのにな。」
「アタルの現状も、十分キツいって。」
「・・・うん、やっぱり、キツい。」
今ここで、金が十分あるんだから泣き言言うなとか言われたら、僕の心は壊れるだろう。レイが気遣ってくれて助かった。
もう夜も遅かったのでそのまま寝ることにした。こないだソラを泊めたときみたいに、ベッドをレイに貸して僕はその横で眠ることにした。寝る前、レイがスマホをいじりながら、
「あ、アイドルセブンの新しいガチャ出てる!アタル、引いてよ!ウルトラレアの存在を僕に証明してくれ!」
いつぞやのユウトみたいなことを言い出した。
「いや、僕スマホゲームのガチャは全然引き良くないんだ。」
「えええ??まじで?こりゃまた謎が一つ増えちまったな!何でも強いわけじゃないのか!うーん、もしかして、アタルは周りの人がいないと運気上がらないから?スマホゲームって基本家で一人でやるしなあ。」
「だけど、スマホでTポイントとかは普通に当たるんだよな。家に一人でも。カップラーメンのフタの当たりとかも普通に当たるし。」
「うーん?ますます謎だなあ。まあ、とりあえず今日は寝るか。もう眠いや。」
「そうだね。」
この謎は置いておいて、とりあえず眠ることひした。
なんだか、すごく久しぶりにちゃんと眠った気がした。
翌日、僕は大学に行かなきゃいけない状況だったが、行く気に全くなれず悩んでいた。一週間も休んでしまって授業についていけるか不安だったし、なにより、大学にいけば当たり前のように会えたはずの、ユウトもコースケもソラもいないのだ。行ったら暗い気持ちになるのはもう間違いなかった。
朝食時にレイが今日の予定を聞いてきたので、このことを素直に話した。
「よし、ちょうどいい、僕、アタルと行きたいとこあるんだ。」
とレイが言い出した。
レイが僕を連れて行ったのは、パチスロ店だった。
「え?なんで?」
「僕、いろいろ考えたんだ。僕の立てた仮説が正しければ・・・」
レイはわざわざ一呼吸置いた。
「アタルはパチスロ最強説」
「なんだよそのうれしくなさそうな顔!全国のパチスロ好きに怒られろ!」
レイがプンプン怒り出した。
「ごめん。」
自分で言うのもなんだけどお坊っちゃんの僕は、パチスロに対するイメージがよろしくない。周りにパチスロに手を出している者もいないから、悪い意味で遠い世界のイメージだ。
「まあまあ、まだアタルの能力には、謎がある。それを検証するためにもいっちょやってみてよ。」
そう言われると、引き下がるわけにもいかず、入店する。店の自動ドアが開いた瞬間爆音が聞こえた。玉がぶつかる音といろいろな音楽が入り混じっている。
「う、うるさいね。」
「え?この店静かな方なんだけどなあ。」
これで?すごいところだなパチスロ店って。
店内もそれぞれのパチンコ台が光っていてものすごくギラギラしている。僕もゲームセンターは好きだったが、また全然違うところだなと思った。
「パチンコとスロット、どっちがいい?」
「どっちが僕才能ありそう?」
「いやそれはたいして変わんないと思うわ。だからどっちでもいいよ。」
「レイはどっちが好きなの?」
「僕はスロットだね。」
「じゃあ、スロットにするよ。」
奥の方にあるスロットのコーナーに移動する。平日の昼間だけど結構な人が打っていた。みんななんの仕事してるんだろう。大学サボってる僕が言うのもなんだけど。そして、いろいろな台があるみたいだけどどれを打てばいいんだと思っていると、
「アタル、アタルってアニメとか見ないの?」
「そこそこ見るよ。」
「だったら好きなアニメの台でも打ったらどうよ。有名なアニメならあると思うわ。」
レイの言う通り、すぐに好きなアニメの台を見つけた。
「これ打っていい?」
「じゃ、それでいこう。」
僕は台の前に座った。レイも僕の右隣に座り同じ台を打つようだ。
「よし、最初の1000円は僕がおごってあげよう。」
レイが台の隅にあるお札を入れるところに1000円入れると、メダルが出てきた。
「ここにメダルを入れてっと。」
レイがメダルを入れるところに1枚メダルを入れる。
「そんでここのレバー引いて。」
レイが指差したレバーを下に引いた。スロットのリールが回りだす。
「それぞれリールの下にボタンあるだろ。左押して」
左のボタンを押すと、リールが止まる。
「その調子で、真ん中と右のボタンも押して」
真ん中と右のボタンも押した。リールがすべて止まる。どうやら数字は揃わなかったようだ。リールの上の画面でアニメののんびりしたシーンが流れている。
「とりあえずそのまま続けといて。僕は、他の客の運を見てくる。」
と言ってレイは席を離れた。
僕はレイに言われた通り続けた。メダルを入れてレバーを引く、ボタンを押してリールを止める、を淡々と続ける。今のところなにも数字が揃わない。レイがおごってくれたメダルはあと一枚だ。ほんとに才能あるのか?と首を傾げつつ最後の一枚を使った。赤い7が三つ揃って「大当り」という文字が画面から飛び出した。
「え?」
アニメの主題歌が爆音で流れ出した。急に画面のアニメーションが派手になり、周りの電飾がギラギラしだす。
「うわあああああ」
ボタンを押す度にメダルがガンガン出てくる。慌てふためいていると、レイが大慌てで戻ってきた。
「やっぱり!出てると思ったわ!」
「これ、どうすればいいの?」
「終わるまでやるしかねーよ。続けて。」
最初は戸惑ったが、好きなアニメの主題歌とアニメの名シーンが流れるというのはやはりテンションが上がる。結構楽しい。主題歌が途切れ、アニメーションが落ち着いてきたと思ったら、なぜかまた7が揃った。
「何これ?終わったんじゃないの?」
「連チャンだな。さっきのがもう一回来るよ。」
さっきと同じようでアニメーションのシーンは違うのが流れてきた。この連チャンとかいうのが何回か続いた。
当たりが終わり、換金してお店を出たころにはもう夕方になっていた。近くのカフェに入って一休みする。
「1000円が25万円かあ。これって多い方なの?」
「多すぎだっつの。」
「そうなんだ。なんかいろんな人から見られて恥ずかしかったよ。」
「あんな爆当たりそりゃ見るって。」
「疲れたけど、主題歌は好きだったから、主題歌聞けて結構面白かったよ。」
「その主題歌聞くまでに普通もっと金と時間かかるんだぜ?普通あんなガンガン聞けないから。いやあ強いだろうとは思ってたけど、これほどとはなあ。」
「そうだ、なんか僕の謎を検証したいことがあるって言ってたじゃん。なんかわかったの?」
「うん、まあだいたいわかったぜ。」
「昨日、アタルは周りから運を奪ってるって言ったけど、」
「うん」
「厳密に言うと、同じ土俵で運試ししてるやつから多めに奪ってる。」
「というと?」
「昨日もコンビニもそうなんだけど、アタルは、店員からも客からも運を奪ってるけど、客の方から多めに運を奪ってるんだよな。そして、スマホガチャに強くない点を考慮すると、」
「アタルは、敗者がいる運試しだと強いんだよ。というか、敗者がいない運試しでは力を発揮しないタイプだ。」
「敗者?」
「宝くじの場合、アタルが一等を取ると他の購入者は一等を取れないだろ。」
「うん。」
「そんでもって、ほとんどの宝くじ購入者は、赤字だ。3000円買ってせいぜい300円の当たりが一個とかそんなもんだろ。」
「うん。」
「だけど、そういう赤字のやつが存在するから一等のやつに一億行くわけだ。つまりアタルは、宝くじ購入者でしかも赤字になるようなやつから多めに運を奪って自分の運に変えて、一等を取るタイプなんだよ。」
「えええ・・・」
「そういうタイプだから、スマホゲームのガチャでは力を発揮できないんだよ。スマホゲームのレアカードは、運のいいやつが手にしたら他のやつには手に入れられないかというと、違うだろ?誰でもある程度ガチャれば当たりは引ける。他のプレイヤーの成績は関係ない。」
「た、たしかに・・・」
なるほど、いろいろ納得いった。宝くじは父さんもユウトもコースケもソラも買ってた。だからより多く運を奪ってたんだろう。
「レイ、ありがとう。おかげでいろいろわかったよ。」
「どういたしまして。」
「だけど、そうなると、僕、もう運試ししたくない。」
「え?」
「当然だろ。人から奪った運でなにかを手にするなんてやだよ。今日も、スロットのお客さんから運奪っちゃったんだろ。お客さん大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。客多かったし、一人の人間から奪った運の量は昨日のコンビニくじと変わんねえから。」
「ならいいけど・・・。だけどもう、こんなのやめる。明日から真面目に大学行って就職しなきゃ。」
「ええー。せっかくの能力活かさないのもったいなくね?奪いすぎなきゃ問題ないんだし、なにもやめなくても。それに、言いにくいんだけど・・・」
「なに?」
「アタルは何もしてないときも、少しずつ周りから運を奪ってるから、今もカフェの客からほんの少しずつ奪ってる。だから運試しを止めて定職に就いても・・・」
「なんだって!?ていうかなんでなんでもないときまで運奪ってるの!?」
「運て、結構本人の知らないところで使ったりするからさ。例えば今、スリがターゲットを探していたら?アタルは選ばれないように無意識に運を周りから奪って助かっちゃうだろうね。もう一つ言うと、アタルの両親や友達も、宝くじが原因というより付き合いが長いから運が下がってた可能性が高いよ。宝くじはただの引き金だろうね。」
「そんな・・・じゃあ僕これからどうしよう。」
僕は、途方に暮れた。本当に何をしたらいいのかわからない。
「別に、今すぐ決めなくてもいいんじゃね?僕も、こんな能力なんの役に立つんだと思ってたけど、今アタルの友人として役に立ってるし。そのうち、アタルの能力を活かせるときが来るかもしれないよ。」
「そっか、そうだね。」
本当にそんなことある気がしなかったけど、相槌を打った。
「あと、アタルは運を奪う能力だけじゃない。もう一個すごいものを持ってる。」
「え?なに?」
「一億円を手にしてもなんとも思わない心だよ。」
「それって、長所なの?いいことを喜べないってまずくない?」
「まずくねーよ。凄まじい長所だよ。普通その年齡で一億円持ったら調子乗るか頭おかしくなるぞ。平然としてるアタルはいい意味で普通じゃない。今日のスロットもそう。25万も勝ったのに、なんとも思ってねーだろ。」
「うん。」
「普通、スロットで25万も勝ったら豪遊しちゃったり、このまま明日も明後日も勝てると思って浮かれたりするぞ。まあ僕のことだけど!逆に怖くなって止めるやつもいる。アタルはその、どれにもならない。ずばり、アタルは運を使わなくてもスロットで勝てるタイプだよ。僕がアタルパチスロ最強説を唱えた理由はこれもあるのさ。」
「スロットって運じゃないの?」
「運の要素もある。だけど、一番大事なのは心なんだ。アタルみたいな金に対して冷静なやつが勝てるんだよ。ああいうのは。アタルは自分が思っているより心が強いんだ。」
「だから、運を奪う能力を活かしても活かさなくても、アタルはどこかで成功できるし、幸せになれるよ。僕が保証する。」




