第18話 不安から回復
次の日の朝、ウサミちゃんは目を覚ました。
「あれ?あたし・・・」
僕はウサミちゃんにすぐ抱きついた。横にいたトラジロウも、ウサミちゃんの腕にしがみついた。
「アタルくん!?トラジロウも・・・ここ、病院?」
僕は状況を説明したかったけど、できないぐらい泣いていた。
「そうだ、あたしちょっと貧血あって、あのときちょっとくらっときて転んだんだわ。アタルくん、トラジロウ、ごめんね。心配かけちゃった。」
「僕こそ・・・」
ウサミちゃんの運に下限があるとはいえ、運を奪ってしまってたのは変わりない。
「よかった。ウサミちゃんが生きててくれて、僕、もうそれだけでいい。」
僕はウサミちゃんにしがみついてさらにわんわん泣いた。
「アタルくん、もう大丈夫だから。」
ウサミちゃんは僕の頭を撫でる。トラジロウまで一緒に僕の頭を撫でた。少し感情が落ち着くと、僕はウサミちゃんから離れて、ベッドの横にある椅子に座り直し、ウサミちゃんの手を握り直した。
「僕、ウサミちゃんが好きだ。」
「うん。」
「だけど、僕、本当にウサミちゃんの彼氏でいいのかな。底があるとはいえ、運奪っちゃうし、さっき目覚ますまで、運奪いそうで触れもしなかった。ウサミちゃんにはもっと、ふさわしい人がいるんじゃないかな。僕みたいな運を奪う男じゃなくて、運を上げてくれる人と一緒になった方がいいんじゃないかって・・・」
「なに言ってんの!アタルくんてば一回エッチしたら満足しちゃったの?」
「なっ!?違うよ!」
「だったらごちゃごちゃ言わないの。この通りあたしは大丈夫なんだから。」
「う・・・。」
僕はまたベッドに突っ伏して泣いてしまった。
「もう、アタルくんは泣き虫だなあ。」
ウサミちゃんにも、トラジロウにも少し呆れられるぐらい泣いてしまった。だけど、これ以上大事な人を失うのは、本当に嫌なんだよ。本当に、怖かった。ウサミちゃんはこう言ってくれたけど、正直言うと付き合いを続けるのが怖かった。またこんなことがあったらと思うと・・・。
ウサミちゃんは念の為数日検査入院することになった。
レイが見舞いに来た。
「あれ?アタルだけ?ウサミちゃんは?トラジロウは?」
「今ウサミちゃんは検査中だよ。トラジロウは売店に行くって。」
「アタル、ウサミちゃんがせっかく目覚ましたのに浮かない顔だな。」
「わかる?」
「当たり前だろ。どーせ自己嫌悪してたんだろ。いつものことじゃん。」
「うん。まあね。」
僕はやっぱり迷っていた。セックスした途端彼女が倒れたなんて、両親と友達を一気に亡くした僕にはきつい出来事だった。このまま付き合うのは僕にとってもウサミちゃんにとっても良い選択なのか不安だった。だからといって別れる気にもなれないから、だからこそ苦しんでいた。
「気持ちはわかるけどさ、そんなこと言ってたらマジで僕しかつるむ相手いなくなっちゃうよ?いいの?まあ僕は、アタルとなら、友人だろうが兄弟だろうが恋人だろうがセフレだろうがペットだろうが○○だろうが○○だろうがなれるけど?」
「後半ただのレイの願望じゃない。ほぼ性のことしか言ってないし。」
後半のレイの発言は自主規制。
「まあね。」
「ねえ、レイって僕の何が好きなの?」
「運が強いところ。」
「それだけ!?」
「それだけ。運が数字になって見えてんだぜ?運が強いやつはもうそれだけでかっこいいの。」
「なるほどね・・・」
レイって、さすが運0だなって思う。可愛い顔なのに、男に産まれたばっかりに、僕とは結ばれないのだ。レイが女の子だったら、僕もあんなふうにレイのこと振ってない。恋人になって二人でひっそり過ごしたんじゃないかな。僕もレイもこんなに恋愛に悩まずに済んだだろう。
「まあ、レイの言うとおり、ウサミちゃんといたいならしっかりしなきゃね。」
僕は、レイじゃなくて、ウサミちゃんを選んだんだから。
「あ、レイくん来てたんだ。」
ウサミちゃんが検査から帰ってきた。トラジロウも一緒だった。
「え?」
レイが驚いた声を出した。
「レイ、どうしたの?」
「・・・いや、なんでもない。」
ウサミちゃんの検査の結果は問題なく、無事退院した。
数日後、ウサミちゃんの退院祝いということで、僕の家でみんなでご飯を食べた。今日はお寿司を頼んだ。メンバーは僕とウサミちゃんとトラジロウとレイとカナメとハヅキさんだ。自分で言うのもなんだけど、ほんとホームパーティー好きだなあ僕。
いつものように楽しく食事していたのだが、
「レイくん、どうしたの?」
ウサミちゃんが言った。
「ん?どうしたの?」
「さっきから、レイくん、私のことばかり見てるけど・・・」
「え?」
みんながレイを見た。
「あ・・・、あのさ、こないだからウサミちゃんの運が高いんだよね。今876。」
「ええ?私って100止まりじゃなかったの?」
「そうだと思うんだけど、こないだから会うたびにじわじわ上がってんの。」
「こないだって?」
「ウサミちゃんが検査入院してるぐらいからかな?検査入院のときは150ぐらいだから誤差かなと思ったんだけど・・・さすがに今は高すぎだよね。」
「えー?まあ、運が上がってるならいいじゃない!」
「んー、これは僕の憶測だし外れたら申し訳ないんだけど・・・」
「ウサミちゃん、妊娠したんじゃない?」
「えー!?」
一同びっくりした。
「妊娠したら、運って上がるの?」
ウサミちゃんが聞いた。
「僕もよく知らない。ただ、アタルと同じように運の強いの子がお腹にいて、ウサミちゃんの運が一緒に上がってるとしか、思えないんだよな。」
レイが言う。
「そもそも避妊しなかったのかい?」
カナメが聞いた。
「あ、あはは・・・その急にそんな雰囲気になったからその、避妊具とかなくて・・・」
みんなの前でこの説明は恥ずかしい。
「アタルくんは真面目なんだか不真面目なんだか・・・」
カナメが呆れている。無理もない。僕も万が一出来たら結婚すればいいと思ってたとはいえ、さすがにたった一回でこんな話になると思わなかった。だけどよく考えたら僕の人生その万が一にどれだけ当たってきたかを考えると、なんかありえそうだ・・・。
「ねえ、ほんとに出来てたらどうする?」
ウサミちゃんがあっけらかんと聞いてきた。この状況で動揺してないってすごい。ウサミちゃんって肝座ってるなあ。
僕は・・・
子供が出来てたら、嬉しい。前から、ウサミちゃんと結婚して、ウサミちゃんとトラジロウとここに住んだら、ウサミちゃんは金銭的に楽になるだろうと思ってた。なにより僕に家族ができる。これは僕が一番望んでいたことだ。だけどさすがに今すぐ結婚は早いかと思って何も言わずにいたけど、子供ができたのなら、すぐに結婚できる。
「結婚、したい。ウサミちゃんとトラジロウと子供で、この家に住もうよ。」
「そっか!じゃあそうしよう!トラジロウはそれでいい?」
「いいよ。この家大きいし。」
僕はかなり勇気を出して言ったのだが、ウサミちゃんは思いの外あっさり受け入れた。
「出来てなかったら?」
ウサミちゃんが、重ねて聞いてきた。
「出来てなくても、結婚しよう。」
「おお、なんだか、おめでとう。」
カナメが言った。
「おめでとう。」
ハヅキさんも続いた。
「おめでとう!」
レイも言った。
みんなで乾杯した。ウサミちゃんは、念の為お酒を控えた。
「水差すようで悪いんだけど、アタルくんまだ大学の一年生だろ?家と遺産があるとはいえ、生活問題ないのかい?よっぽど遺産あるの?」
カナメが聞いた。
「遺産もあるけど、親の事故死の賠償金あるし、それとは別に一億円あるから僕が大学卒業ぐらいまでなら問題ないと思うけどな。」
「一億円?」
レイ以外のみんながこっちを見る。
「あ、言ってなかったね。今年の春に宝くじで当てた一億円があるんだ。」
「えー!?」
「アタルくん、それも当ててたの!?」
さすがにウサミちゃんが動揺している。
「うん。もともと一億円は家族のために使おうと思ってたのに、一億円手にしたときには家族死んじゃってさ、絶望してたんだ。だから家族が出来て、その生活のために一億円使うのは本望だよ。一億円は、ウサミちゃんとトラジロウと子供のために使う!」
「お姉ちゃん、宝くじ当てたいってよく言ってたじゃん。よかったね。間接的に当てたようなもんじゃん。」
トラジロウが言った。
「そうね・・・」
ウサミちゃんはまだ呆然としていた。




