第16話 大っ嫌い
僕とレイは僕が作った料理を食べたあと、僕の部屋で少しゲームしていたが、急にレイが言った。
「これ、持ってきちゃった。一緒に見よ。」
レイがDVDを持ってきていた。DVDは無地で何も印刷されていない。
「もしかして、それ、レイが出た映画?」
「せいかーい。関係者用のサンプルね。アタルには特別に、見せてあげる。」
レイ、自分のラブシーン満載の映画、なんでそんなに僕に見てほしいんだろう。気持ちが全くわからないけど、拒否するのも可哀想だし。「わかったよ。」
その返事を聞く前からレイはDVDをプレーヤーにセットしていた。
映画は、序盤は普通の学園ものに見えた。主役の男の子ともう一人の男の子の友情がメインの話のようだ。急にレイが登場した。学生服を着たレイはなんだか新鮮だ。ヘアピンで前髪を留め、長い白銀髮を後ろに結ったレイは、いつもより可愛い感じだ。レイは夜の繁華街を彷徨い、おじさんを捕まえてなにか話した。
次の瞬間、場面がホテルに切り替わり、レイはおじさんにキスされ服を脱がされ体を触られ始める。レイの喘ぎ声が部屋に響きわたる。
「うわあああ!ちょっと止めて!」
僕は思わず映画を止めた。
「ちょっと、こんな肝心なシーンで止めないでよ!」
レイが怒った。
「いやいやこんなの見てられないし!なにこれ!?レイ何やってんの!?あんなおじさんとお金目当てであんなこと!」
「演技だっつーの!マジでやってねーし!AVじゃないんだから、ほんとにエッチしてるわけじゃないよ!」
「そりゃ、局部は写ってないけどさ、キスとか体舐められてるのはマジじゃん!何やってんの!?」
「それぐらいいいじゃん。別に。」
レイは勝手に映画を再生した。僕は愕然とした。妖精なんてとんでもない。レイの頭どうなってんの。だけど少しずつ見慣れてきて、ストーリーが頭に入ってきた。主役の男の子をレイが口説きだした。どうも主役の男の子をレイともう一人の男の子で取り合いしている話のようだ。映画の中のレイは普段とは全く違う表情で、暗く、心の闇が深そうだ。普通の会話のシーンを見ていると、主役の男の子よりレイの方が演技が上手い。段々話に引き込まれた。
そして、主役の男の子とレイは徐々に発展し、主役の男の子とラブシーンがやってきた。
「うわあああ!」
「いちいちうるさいな!いい加減見慣れたでしょ!」
レイがたしなめてくるが、見慣れない。相手がおっさんよりかは主役の子が相手の方が絵面はマシだけど、やってることはさっきより激しい。
「レイ!何やってるの!?学校でこんなこと!」
「僕が決めたんじゃねーよ!台本だわ!!」
台本だからってこんなこと、やる?ギャラがよっぽどよかったのかなあ。
しかもしかも主役の男の子ってば、最終的にはレイを差し置いてもう一人の男の子とくっついてしまった。主役の男の子ともう一人の男の子のラブシーンは全く見る価値がないので早送りした。これについてはレイも何も言わなかった。
見終わった。今までの人生で見た映画で見ていて一番疲れた。
「レイ、なんでこんな仕事したの?お金に困ってるの?欲しいものがあるなら僕が・・・」
「ちがーう!僕は演技が好きだからやってるの!プロなんだから求められたらやるの!」
「レイ・・・」
僕はこんな体質だからバイトすらせずここまで来た。僕にここまでしてやりたいことなんてない。そう思うとレイってすごいな。
「レイ、撮影大変だったろ。お疲れ様。見てよかったよ。」
僕はレイをねぎらった。なのに、レイの表情はみるみる不機嫌に変わっていく。今まで見たことがない、歪んだ表情だった。
「レイ、どうしたの?」
「アタルってなんでそうなの?いっつも中途半端に優しいんだから。こんなもの見たんだから、欲情するか軽蔑してよ!」
「え?」
レイが言ってることの意味がわからない。
「僕のこと大好きになるか大嫌いになるかしてよ!こんな生ぬるい友達でいるの、もう嫌なんだよ!」
レイが泣きそうな顔をしている。もう僕でもわかる。友情が壊れる音がする。
「好き・・・」
レイが絞り出すような声で言った。
「アタルのこと、好きなんだよ。」
「アタルって、中途半端に優しすぎ。」
いつだったか、高校二年ぐらいの時だ。コースケに言われた。
「どういうこと?」
僕がコースケに聞くと、
「ソラが頭おかしくなりかけてるの、気づいてないの?」
「ソラが?頭おかしいって何が?」
「ソラ、明らかにお前のこと好きだろ。そっちの気ないんだったら、思わせぶりなことしてやるなよ。可哀想だろ。」
「好きって?まさか恋愛?そんなことないでしょ。もしそうだとしても、ソラは大事な友達なのに、優しくするなって言われても・・・」
コースケは、ため息をついた。
「お前、片思いすらしたことないだろ。」
「うん。」
「だからだよ。とにかく、ソラと友達でいたいなら、距離感考えろよ。多少は突き放すのも、優しさだぞ。」
僕はそのとき、コースケの言いたいことがわからなかった。
レイが僕に近づいてくる。目の前まで来て、僕の頬に触れた。
「ねえ、キスしてよ。ウサミちゃんとは喜んでしたんでしょ?ほんとは抱いて欲しいけど、それはウサミちゃんに譲ってあげる。」
「レイ!」
「キスしてってば。できないなら、殴って。僕、アタルの中途半端に優しいとこ、大っ嫌い。」
僕は、結構本気で迷った。レイの商売道具である顔を殴るなんてできないと思った。だから、キスしようか真剣に考えた。ウサミちゃんとしたよりもっと軽く、少し触れるぐらいなら、別にしてもいいと思った。だけど、もし、あのウサミちゃんがキスしてくれたのが、恋愛感情が含まれていないとしたら僕は死ぬほど悲しい。あのデートのとき、ちゃんと好きってウサミちゃんにまだ言ってないし言われてないけど、好きあっていると信じている。
僕は、すごく軽い力でレイの頬を平手打ちした。
「バーカ。」
と、レイは言った後、僕に無理矢理キスした。
僕は反射的にレイをぶった。今度は本気だった。するとレイは、なんと僕の頬をぶった。
「なにすんのさ!!」
僕は思わずレイに馬乗りになりレイに平手打ちした。レイもやり返してくる。気がつけば取っ組み合いで喧嘩していた。何発かレイの頬を殴って、レイの顔が嬉しそうに歪んでいることに気がついた。
「レイ、なに喜んでるの・・・。」
「あはっ。気づいちゃった?僕マゾなんだよねえー。ふふふ。」
僕はわなわな震えた。レイからすぐ離れて、DVDを取り出しレイに突き返す。
「こんなの気持ち悪い、地獄絵図だったよ!僕は、こんなことしないから!今日はもう帰って!」
僕は怒鳴った。
レイは静かにDVDを受け取り、部屋を出ていった。
たぶん、もう二度とレイに会えないだろう。正直、寂しい。だけど、仕方ないと思った。




