第12話 夏休み
学食の一件以来、大学はさらに過ごし辛い状況だったが、すぐに夏休みに突入してくれたので、しばらく大学から離れて過ごせるようになった。履修した科目の単位はすべて取れていて、大学一年の前期は無事終えたことになる。
大学の単位が無事取れたのはカナメのおかげだと思う。大学生活でわからないことはカナメに聞けたからなんとかなった。はじめは不本意だったものの、カナメも良き友人になりつつある。カナメは一応先輩なんだけど、皆がカナメ
と呼ぶのでカナメと呼んでくれと言われ、別に敬語じゃなくてもよいというのでそうしている。
そして、僕は思いきって、ウサミちゃんとトラジロウ姉弟に自分の体質のことを話すことにした。あとレイの能力のことも。今ならこのことを打ち明けても友達付き合いに支障ないと思った。また僕の家でレイ、カナメ、ウサミちゃん姉弟の五人でご飯を食べる機会があったので、そのときに打ち明けてみた。
僕の体質が原因での両親と友人の不慮の死にウサミちゃんは同情してくれたが、それ以上にウサミちゃんがショックを受けたことがあった。
「なんであたしの運だけマイナスなのよー!」
そう、ウサミちゃんが低運ということである。「アタルくんの運がいいのはわかるとして、カナメくんも、弟のトラジロウも高いのになんで私だけ低いの!?マイナスって!0のレイくんよりまだ下なの!?」
ウサミちゃんは食事どころではないようで、せっかくの焼肉なのに手をつけずに椅子から立ち上がって話している。
「いや、ウサミちゃん今、まだましなんだよ。トラジロウが隣にいるから。トラジロウいないともっと悲惨。」
レイが宣告すると、
「いやー!トラジロウがいてもそれでもマイナスって!なんでよもー!スロット好きとしては聞き捨てならないわ!なんとかして上げてちょうだい!」
ウサミちゃんがレイに詰め寄る。
「運のいい男とエッチしたらいいよ!アタルみたいな運のいいやつとさあ・・・」
「レイ!?」
僕は運を奪うかもしれないのに、なに無責任なことを!と思ったが、
「そっか!アタルくんと付き合えばいいのね!!」
ウサミちゃんは目を輝かせて正面に座っている僕を見た。
え・・・?身も蓋もない理由だけど、ウサミちゃんが乗り気になってる!?
「アタルくんは運奪うんじゃないの?」
トラジロウが聞いてきた。
「ちっ、さすがトラジロウ、鋭いな。このまま流れでアタルとくっつけようと思ったのに・・・」
レイが舌打ちした。ていうか、レイとウサミちゃんよ、トラジロウの前でこんな話題ダメだよ・・・。僕も我に返った。
「そうだよ。僕は運奪いかねないよ。彼女いたことないから確証はないとはいえ、危険だよ。もしウサミちゃんに何かあったら・・・」
「あ・・・そっか・・・他にいい方法ないかなあ。」
ウサミちゃんはようやく席について肉を焼き始めた。すでに焼けている肉はトラジロウに先に食べるように促している。先程の教育上良くない発言から一転してよき姉に戻った。
ちなみにこの場にはもう一人、運のいい男、カナメがいるが、ウサミちゃんはそこには触れずスルーした。特にカナメも気にしていないようだ。ということはなんだ、ウサミちゃんは運がいい男なら誰でもいいわけでもないのか。つまりウサミちゃん僕のことまんざらでもないと思っているということか!?やばい、心臓がバクバク言い出した。僕も今焼肉どころじゃない。
「前から疑問だったんだけど、巷にある運気を上げる物とかは効果あるのかい?」
カナメが言い出した。
「運気を上げる物って?なんか怪しいブレスレットとか?お守りとか?」
レイが聞き返すと、カナメが頷いた。
「そういえば、聞いたことあるけど、僕どうせ運0だし試したことないからよくわかんないや。どうなんだろうな。」
そういえば僕も、試したことない。運上げようと思ったことないし。
「実は、うちのサークルの部員で趣味で開運ブレスレット作って売ったら、実際に運が上がったっていう客が続出して、その口コミだけで店開いたやつがいるんだ。その店の売り物が本当に効果あるのか、前から気になってたんだ。レイくんなら調べられるんじゃないか?」
「ブレスレットかあ、それで運が上がるなら欲しいなあ。一度行ってみようよ!」
ウサミちゃんもこう言うので、後日みんなでその怪しいグッズ売りの店に行くことが決まった。
それにしても、ウサミちゃんがギャンブル好きでよかったかもしれない。何が何でも運を上げる気でいる。ウサミちゃんの運が上がったら・・・。え?ここからどうすればいいんだろう?告白すればいいの?恋愛ってどうやって始まるんだろう?この辺のことが僕はわからない。困ったなあ。
ウサミちゃん姉弟を家に送ったあと、レイとカナメと僕の家に泊まることになった。レイとカナメは酒を飲み始めた。僕はまだ18歳だからノンアルコールのチュウハイで二人に付き合っていた。
「アタル、さっきさあ、なーにバカ正直に運を奪いかねないからやめとけなんて言ったんだよ。ウサミちゃん乗り気だったんだから、勢いでエッチしちゃえばよかったのに。せっかく運が上がるかもって機転利かせて言ってやったのにさあ。」
レイがやや不機嫌そうに言った。
「あ、あれそういうことだったんだ。でも、ウサミちゃんの身になにかあったら困るし・・・」
僕はようやくレイが突拍子もないことを言ったことを理解した。
「それにさ、運が上がるからとか、そんな理由で付き合っちゃっていいもんなの?事実ならまだしも嘘ってのは・・・」
「んもー!アタルは真面目すぎ!ウサミちゃんも、運がいい男なら誰でもいいなんて思ってねーだろ!きっかけなんてなんでもいいじゃんよ!」
レイからお説教を受ける僕。恋愛ってそんな軽く始める感じていいのかなあ?
「レイ君の言うとおりだね。現にウサミちゃんは僕という選択肢は考えてなかったから、脈はあるだろうに。とりあえず付き合うところまで取り付けて、運のことは後から考えればいい話だろう。嘘も方便だよ。」
カナメまでレイに乗ってきた。
「ほんとそれ。ていうか、カナメは堅物に見えて案外そうでもないんだな。」
「一応オカルトサークルの部長だからね。堅物じゃやっていけないよ。部員も変なやつしかいないし。」
「今度行くパワーストーン売りのやつも部員だっけ?やっぱ変なやつなの?」
「変わり者ではあるな、僕の彼女だし。」
僕もレイも飲んでいるものを吹きかけた。
「彼女!?カナメ彼女いたの!?」
「ああ、いるよ。意外だったかい?」
意外だった。宇宙人とかにしか興味ないのかと思ってた・・・。
「お店行くの楽しみになってきた!パワーストーンより、カナメの彼女の方が気になる!どんな女なんだ!?」
レイが聞いた。僕も気になる。
「なかなか美人だぞ。ただでさえ女が少ないオカルトサークルだから、彼女が入部してくるなり、部員の男皆で取り合いになった。」
「ほうほう、それで?なんでカナメと付き合ったんだ?」
「僕の手持ちの黒魔術と呪いをすべて使ってライバルを蹴散らした。具体的に言うと・・・」
「お、おう・・・」
僕とレイは震えながらカナメの話を聞いた。おかしいな、恋愛の話だったはずだけど、怪談を聞いてる気分がする・・・。
「だからさ、アタルくんってすごいと思うんだ。」
急にカナメが僕に話題を変えた。
「へ?僕?急になに?」
さっきまでカナメの恋話(一応)だったのに、なんで急に僕?
「アタルくんって、その気になれば人殺せるんだよ?それも、法律に引っかからない方法で。」
「え・・・」
「僕が彼女を取り合いしてるとき、もしアタルくんのような能力があったら、僕は適当に部内でくじでも作って、部員から根こそぎ運を奪って殺してるね。殺すまでいかなくても、瀕死にする。」
「えええ・・・怖いなあ。そんなこと、考えたこともなかった。」
「そうだよ。そういう発想をしないところが、アタルくんのいい所だ。世の中、僕みたいな考えのやつ、たくさんいるんだよ。周りが不幸になろうがなんだろうが、君の体質になりたいと思うやつなんて、いくらでもいるさ。」
「そうそう。アタルは優しすぎ。」
レイも同意した。
「しかも、大学で死神呼ばわりされて実際嫌な思いしてるのに、よく体質を悪用しなかったなと思うよ。本当に、アタルくんが優しい性格じゃなかったら、うちの大学は今ごろどうなっていたことか。」
「だよねー。その体質の持ち主がアタルでよかったよ。持つべくして持ってるってことだね。」
「なにさ、レイもカナメも、急に、照れるなあ。」
こないだのソラの手紙といい、みんな、僕のこと泣かせないでよ。僕はただ、恵まれてるだけなのにね。




