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超強運  作者: コサキサク


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第10話 涙

僕は続けてラインした。

「親御さんいなくてウサミちゃん一人の収入で二人分の生活って大変じゃない?」

「コーヒーレディ時給いいし、朝コンビニでもバイトしてるからなんとかなってるよ、大丈夫大丈夫。」

と、返ってきたが、よく考えたら、百均での爆買いも、500円しか入っていない財布も、うちの学食に食べに来るのも、金銭的に苦しいが故であろう。ウサミちゃんは直接顔を合わせたときは必ず明るい顔をしていたが、その裏ではいろいろあるのだろう。


もう少し詳しく聞いたところ、ウサミちゃんは高校卒業後、家を出て一人暮らしをしていたけれど、一昨年母親が亡くなり、それから一年もせずに父親も亡くなって、ウサミちゃんは実家に戻りトラジロウと二人で暮らしているそうだ。実家と言っても僕が住んでる一軒家じゃなくて賃貸のアバートらしい。


「まあそりゃ、宝くじ当たらないかなて思ったりするけどね」

とラインが続いた。

「もしかして、こないだの宝くじも勝った?」

「うん。なけなしのお金で買ったよー。連番で3枚だけどwスロットと同じで当たらないのはわかってるんだけどね。」


僕は心が苦しくなってしまった。本来、親を失うとはこういうことなのだろう。僕ときたら、周りから奪った運で得た一億円、その他に親の事故の賠償金と遺産、家まであるのだ。その上宝くじではウサミちゃんのささやかな希望まで奪っていたのだ。僕ってほんと、なんなんだろう。自分が嫌になる。


せめて何かウサミちゃんの役に立てればと、僕はあの日以降、土日の昼間はトラジロウと遊ぶようになった。こないだと同じようにゲーセンで遊んだり、家に呼んで遊んだり、宿題を一緒にやったりした。トラジロウは他の人とは話さないとウサミちゃんは言っていたが、トラジロウは僕相手には結構よく話した。そういえば、友人のソラもそんな感じだった。他の人とはあまり話さないと言われていたわりに、僕とはよく話した。なぜなのかは、わからないけど。


あと、トラジロウが喜びそうなゲームとかお菓子もあげた。さすがに現金を渡すわけにはいかないので、運良く手に入れた商品券とか、うちの学食の無料券も、持っているものであげられるものはすべてあげた。


ウサミちゃん、トラジロウ姉弟とレイとカナメも呼んで、僕の家でご飯を食べたりもした。この日は大きな鉄板で焼きそばを焼いた。

「アタルくんの友達ってそれぞれタイプが違うっていうか、いろんな人と友達なんだね!」

レイとカナメを眺めながらウサミちゃんが言った。さすがに僕の体質のことや、レイの能力のことはこの姉弟には伏せていたから、どういうつながりで友達なのかの説明が上手くできずぎこちなくなってしまったけれど。

「それにしても、アタルくんのお父さんとお母さんまで亡くなってるなんて、アタルくん、さみしいんじゃない?あたしとトラジロウでよければ、いつでも遊ぶからね。」

「うん、寂しいときもあるけど、今はこうやって友達が来てくれたりするし、大丈夫だよ。」

僕の体質について話せない以上、ユウトやコースケやソラの友人の死についても話すことができなかった。だけど、今は新しい友達もいるし、だいぶ心を保てていると思う。


五人で食べる夕食はにぎやかで、楽しかった。両親と友達が亡くなってからもうすぐ三ヶ月になろうとしていた。


あくる日の夕方、僕は学食で晩ご飯を食べていた。

「あっ、アタルくーん!」

ウサミちゃんとトラジロウも学食に来ていたようで、話しかけてきた。僕があげた学食の無料券を活用してくれているのだろう。

いつものようにウサミちゃんとトラジロウは僕の横に座り、食事を始めた。

「アタルくんって、普段は友達といるのに学食は一人なんだ?」

僕はギクッとした。

「大学は、ほら、みんな受ける授業がバラバラだから、なかなか・・・」

「へえ、大学の授業ってそんな感じなんだね」

なんとか、ごまかした。そう思っていた。


「死神だからだよ」


後ろから、声が聞こえた。


振り返ると、男子生徒が後ろに立っていた。高校の同級生だった。関わりはないけど、一応顔と名前だけ知ってるやつだった。

「死神・・・?」

ウサミちゃんもトラジロウもいぶかしい顔をしている。

「そいつの近くにいると、死ぬよ」

その生徒はそう言い捨てて僕の後ろから去ろうとした。

「ちょっと待ちなさいよ!!死神ってなに!?」

ウサミちゃんがそいつに食ってかかった。

「あんたここの学生じゃないから知らないんだろうけど、四月に、そいつの両親が死んだあと友達三人連続で死んだんだよ。たった一週間で五人。」

「は?なにそれ?アタルくんが殺したわけでもないんでしょ?」

「みんな事故か病気だよ。だから余計おっかねえの。こいつ、アタルはくじやら懸賞やら当てまくるので有名なやつなんだよ。自分だけおいしいとこ全部持っていくタイプ。だけど周りに跳ね返ってくんのか周りは死人ばっか。あんたもあんまり関わると死ぬかもよ?」

学食にいる人間がみんなこちらを見ている。驚いた感じではなくて、そうそう、という感じの白い目だった。


もう、言い返す言葉もなかった。本当にその通りだ。僕は周りの運を・・・


ガターンと、椅子が倒れる音がした。


「死神だー!?お前ら大学まで行ってんのに馬鹿じゃねーの!?それが親と友達亡くしたやつにかける言葉かよ!!」


ウサミちゃんが椅子を蹴飛ばし怒鳴った。僕を死神呼ばわりした男はポカンとしていると、その男の顔にうどんが飛んできた。投げたのはトラジロウだ。学食がざわめきだし、学食の職員が駆けつけてきて、僕達は学食からつまみ出された。


大学の敷地外に追い出された僕らは、大学の門の前で立ち尽くした。

「アタルくん、大丈夫?すごく顔色悪いよ。」

ウサミちゃんとトラジロウが僕の顔を覗きこんでいる。

「うん。」

「両親と友達が一気に亡くなったのは本当なの?」

「うん。本当。両親が事故で亡くなって、その二日後に友達が事故で死んで、また次の日に別の友達が事故で死んで、その次の日に別の友達が病気で死んだんだよ。」 

「そんな・・・大丈夫なの!?」

「さあ、もしかしてまだ死人が出るかも」

「そうじゃなくて!!!そんなにいっぺんに親も友達もいなくなって大学で死神呼ばわりされて、アタルくんの心は大丈夫なのかって聞いてんの!ていうか、そんなの大丈夫なわけないでしょ!」


ウサミちゃんの言うとおりだった。全然大丈夫じゃない。だけど・・・

「だけど、あいつの言った通り、僕だけはやたらめったら恵まれてて、賠償金も遺産も家もあるし、今もバイトしなくても大学行けてるし、ウサミちゃんと違ってなんの苦労も・・・」

「何言ってるの!そういう問題じゃないでしょ!あたしも去年立て続けに親死んだけど、あたしにはまだトラジロウがいるわ。だけどアタルくんは一人ぼっちじゃない!それの、それのどこが恵まれてるって言うのよ!!!」

ウサミちゃんは、僕の顔を見て泣いていた。それを見て、僕も、泣いた。

「うわああああああ!!!」

僕はその場で膝をついて泣き崩れた。親が死んだ日より、葬式のときより、その後に泣いたときより泣いた。まだこんなに流し損ねた涙があったことに、自分でも気づいていなかった。そうだよ。辛い、辛いよ。一億円あろうが家があろうが新しい友達が出来ようが、寂しくて辛くてたまらないんだ。しかもそれが、自分が運を奪ったのが原因とか。こんな自分が嫌でたまらなくて、でも運がいいから死にたくても死にきれない。なのに、自分より不遇だと思っていたウサミちゃんとトラジロウがこんなに寄り添ってくれるなんて。僕は涙が止まらなかった。


ウサミちゃんは僕の頭を撫でた。トラジロウも一緒になって僕の頭を撫でていた。僕は本当に涙が枯れるまで、泣いた。


僕が、両親と友達の死から本当に立ち直り始めたのは、間違いなくこの日からだ。





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