第1話 強運の少年
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僕は、レイ。ごく普通の男だけど、僕には1個だけ特殊能力がある。
それは、他人の「運」が強いか弱いかわかるというものだ。しかもなんとなくじゃなく、数値でわかる。この話は、僕が人生で出会った中で一番運が強かった人の手記だ。
先にネタバレしちゃうと彼は18歳のとき生まれて初めて買った宝くじで1億円当てるからね。
その宝くじのことはまた今度書くとして、まずは彼の少年時代の話から。
僕は、アタル(仮名)。とにかく運が強い男だ。
裕福な家に生まれ、幼少期から何でも手に入る環境だった。ガチャガチャでは欲しいのが一発で手に入ったし。くじ引きの一等も何度も引いた。ただ、これだけ当てるとありがたみを感じないので、物欲のない子供になった。親におもちゃをねだった記憶がないし、クリスマスのプレゼントのリクエストも何にすればいいかわからなかった。とはいえ物欲が薄いことを除けば普通の子供だったと思う。普通に子供らしく幸せに過ごしていた。
ただ、あまり運が良すぎるといいことばかりではないと知った。小学校時代、友達を家に呼んだとき、ガチャガチャで手に入れたものをひっそり盗まれてしまった。ガチャガチャのおもちゃなんてなくしても惜しくない。ただ友達に物を盗まれたことがショックだった。
気がつけば、僕は同級生から嫌がらせをされていた。原因は、妬みだった。テストの成績はヤマが当たるのでいつもよかったし、ジャンケンで何かを決めるときは必ず勝ってしまう。一部の同級生から妬まれていたのだ。しかも運がいいのでほとんどの嫌がらせは回避できてしまう。同級生はますます面白くなく感じ、僕を無視した。僕は、このことを両親に相談したところ、あっさり転校が決まった。
転校先は、小学校から大学まで一貫の、名門男子校だった。いわゆるお坊ちゃん学校で、同級生はみんなお金持ちだった。この学校では、ガチャガチャのおもちゃぐらいで妬むものもおらず、とても楽しく過ごせるようになった。こうやって、辛いことからすぐ脱却させてもらえるのも運がいいと思う。
今、僕は高校三年生。高三といえば世間は受験だが、僕達は大学に内部進学できるからわりとのんびり過ごしている。
僕は、欲しいものは、懸賞なりなんなりでいくらでも手に入る。だから、物やお金に相変わらず執着がなかった。
このころの僕の楽しみは、ずばり「自分が運よく手に入れたものを友達に分けてあげる」ことだった。もう僕自身は欲しいものを手に入れるだけじゃ面白くない。友達と共有して一緒に楽しく過ごすのが好きだった。だから、懸賞で当たった食事券で友達に奢ったり、くじ引きで当てた旅行券で家族で旅行に行ったりして、その時間を楽しむのが一番好きだった。僕は気前がいいタイプだと周りが思ってくれて、友達もたくさんできた。おかげで学校生活も楽しい。
「アタル!アイドルセブンのガチャ俺の代わりに引いて!」
ガヤガヤした昼休みの教室でユウトが話かけてきた。ユウトは、僕が転校してきたとき一番最初に話しかけてくれた。だから高三の今も特に仲がいい。どうも、スマホゲームのガチャを僕に引かせてレアカードが手に入れたいようだ。
「アタルだったら一発でウルトラレアのカード引けるっしょ!」
「いや、スマホのガチャはそんなに得意じゃないんだよね。」
僕はそう言うと、ユウトが驚いた。
「僕は、くじ引きで一等を引いたり、懸賞で欲しいものを引いたりするのは得意なんだけど、なぜかスマホガチャの成績は普通なんだ。悪くはないけど。」
「へえ?普通っていうと?そこそこレアが引けるの?」
「うん、例えばウルトラレアが10%のガチャだったら、ちょうど10%ぐらいの引きなんだ。」
「そっかあ。だけどそれなら少なくとも俺より引きいいっしょ!俺引き悪いよ!10%でウルトラレアでも30回ガチャってもだめなときあるし。」
「ユウト、30回ガチャってだめなときもあるけど、5回ぐらいでも当たるときもあったでしょ?」
「え?そうだな、そういうときもあったよ!たまにいいときもあるね。」
「ユウト、それなら普通だし、引き悪くないよ。僕と同じ。」
「どういうこと?」
「ユウト、ガチャの10%っていうのはね、10回引いたらウルトラレアが当たるってことじゃないんだよ。1回で当たったり、20回でようやく当たったり、無難に10回目で当たったり・・・という感じで、ガチャを何回も、いや、一万回ぐらい引いたとき、結局10%の確率で当たりがくるってことなの。僕もそんな感じだよ。」
いわゆる大数の法則ってやつだ。
「へえー。そうなんだ!アタル頭いいね。」
ユウトは感心している。
「いや、なぜかくじ引きや懸賞のようにうまくいかないから、不思議で調べたんだよ。」
ここで、ユウトが少し考え込んだ。
「だけど、その確率の考え方でいくと、アタルはくじ引きや懸賞当てすぎじゃない?」
「たしかに、そうなんだよ。そこは確率の理屈が合わないぐらい当たるんだ。あと、おもちゃのガチャガチャもすぐに目当ての当たるし、スマホのガチャよりそっちの方が自分でも不思議だよ。」
この謎は、のちに解明できるのだが、今の段階ではまだ謎だ。だけど、今思えばこの謎の理由を知る前の方が幸せだったと思う。
「スマホゲームのガチャの引きは普通だから、みんなと同じようにハラハラできて僕は好きだけどね」
「あはは、運良すぎるとそうなるんだ。面白いね。ま、ガチャは自分で引くよ!」
ユウトは明るくていいやつだ。僕にどれだけいいことがあっても「すげー!」の一言で済ませて妬みとかは一切言わない。僕にとってとてもいい友人の一人だ。
「アタル、こないだ頼んだチケットどうだった?」
もう一人の友人、コースケが話しかけてきた。
「うん、最前当たったよ。」
コースケは音楽好きで、好きなバンドのライブチケットを僕に取るように頼んでくる。僕はライブのチケット運も抜群に良いのだ。
「サンキュー!ありがとう。これチケット代ね。」
コースケはチケット代を僕に渡す。僕はびっくりした。チケット代よりも一万円も多い。
「いや、こんなにくれなくても。チケット代だけでいいっていつも言ってるじゃん。」
「いいんだよ。チケット取るときの手間賃だと思って受け取ってくれよ。このバンドのライブの最前なんて転売屋から買ったらもっと取られるし。」
コースケはいつもこんな感じだ。僕の運の強さを活用してくるが、ちゃんと僕も得するように考慮してくる。ちゃっかりしているタイプだ。
「そう、ありがとう。そうだ、今日はこの一万円でみんなでなんか食べようよ。」
「まじで、やったー!」
傍で聞いていたユウトがはしゃいだ。
「アタルはいつもそうだな。まあそれがアタルのいいところだけど。」
といいつつコースケも嬉しそうだ。
「ソラも、来るよね?」
僕は、さっきから黙ったまま話だけ聞いているもう一人の友人、ソラに声を掛けた。
「うん。」
ソラは、ものすごく無口だ。だけどいつも僕の側にいる。前、一度だけ話してくれたことがあるのだが、ソラ自身は運がかなり低いらしい。
具体的にはなにがあったのか教えてくれない。だけど、とにかく運のいい僕の生活が興味深いらしい。特に僕に頼みごとはしてこないけど、こうやって食事に誘うと着いてくるタイプだった。
こうして、僕とユウトとコースケとソラの四人で放課後ご飯を食べに行った。といっても、高校生の外食なんて、ファミレスしか思いつかなかった。四人いるから予算一万円だと一人あたりの予算は二千五百円だし、いつも手が届かないやや高いメニューを頼んだらそれで終わりだ。それでも高校生の僕らにとってはごちそうが並んだ。ステーキや、サラダ、大きなピザなどがテーブルにひしめく。
「ここのステーキ初めて食べた!おいしい!」
ユウトがはしゃいでステーキを頬張る。
僕は和風御膳にした。ご飯と味噌汁に小さなうどんと天ぷらがついたやつ。とてもおいしかった。コースケはピザとパスタを頼んで、ソラは生ハムのサラダを食べている。
「俺らも大学生かあ。アタルはいよいよすごいことになるな。」
「すごいことって?」
僕も、ユウトもソラも食事の手を止めて聞いた。
「18歳の大学生っつったら、パチスロもできるし宝くじも買える。運試しの規模が一気に上がるぜ。アタルだったらすぐ一億ぐらい手に入るだろ!」
「ええ!一億って、そんな大金、若いときから手にしたらろくなことにならないんじゃ・・・」
僕はたじろいだ。
「アタルは欲がねえな。せっかく働かなくても生きられる運があるのに、大学卒業したら就職すんの?」
コースケが聞いてくる。
「どんな仕事をしたいかは決めてないけど、人の役には立ちたいから、仕事はしたいよ。」
と僕は返した。とはいえ、お小遣いに全く困らない僕はバイトすらしたことなかったけど。まあそれとこれとは別で、やっぱり人の役立つことかしたいし、将来は就職するつもりだった。
「人の役に立つにも、金は必要だろ。人のためにお金使いだしたら一億なんてすぐ無くなるよ。大丈夫、アタルの性格なら一億ぐらいで堕落しねえよ。」
コースケがピザをちぎりながら言う。
「僕も、そう思う。」
そう言ったのはソラだった。ソラが珍しく発言したので僕たちはソラの方を注目する。
「僕は、アタルが宝くじ買ったりギャンブルしたりしたら、どんな結果になるか見てみたいな。」
ソラは、僕の運がどれくらいのものかいつも興味津々だ。だから僕が運試し的なことをするところはやっぱり見たいようだ。
「俺も宝くじ、買ってみたいな!当たらなくても、結果が出る日までわくわくできそうじゃん!」
ユウトが相変わらず高いテンションで言い出した。たしかに、欲しいものは割と何でも手にしてきたし、くじ引きぐらいじゃわくわくもしない僕だけど、さすがに億単位のお金は手にしたことはない。宝くじレベルなら、想像したらたしかにわくわくする。
「そうだね。みんなが乗り気なら、僕、買ってみようかな。みんなで買いに行くなら楽しそうだし。」
もし、大金が当たったら両親にあげて、ここのみんなと旅行でもして、残りは大学の学費にでもすればいいと思った。
「おう、そうこなくちゃ。18歳になったらできることを体験するってことで、気楽に行こうぜ。」
コースケが話をまとめた。僕達四人は、大学進学してすぐの春、宝くじを買いに行くことになった。
もうすでに、先に書いてあるから言ってしまうけど、僕は本当に宝くじで1億円当ててしまう。
そして、1億円当てたあと、ものすごく辛いことが起こった。
宝くじ高額当選者によくある、お金を目当てに人が寄ってくるとか、そんなレベルじゃない。
むしろ、それなら歓迎だよ。もともと当たったお金は人にあげようと思ってた。
もっと、恐ろしいことが起こってしまったんだ。
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