プロローグ②
「まだ、生きてるのかよ‥‥‥。魔王‥‥‥」
その声は先程倒したはずの魔王ゾーラであった。
「かろうじて‥‥‥、だがな‥‥‥」
「‥‥‥魔神の、加護か‥‥‥」
「あぁ、お前が女神から‥‥‥加護を授かったように、俺も‥‥‥魔神から‥‥‥加護を授かったからな‥‥‥」
「やっぱりか‥‥‥」
魔王ゾーラも勇者であるユーゴが女神から加護を授かっていたように魔神からの加護を授かっていた。そのため致命傷を受けていながらも、勇者と同じように何とか生きている。だがその加護は女神の加護を持っているユーゴが致命傷を与えたことで弱くなってしまい、このまま放っておいても先に死ぬのはゾーラである。
「勇者よ‥‥‥いや、ユーゴよ。どうする?‥‥‥お前なら這ってでも‥‥‥俺の所へ来て、とどめを刺すすぐらいなら‥‥‥出来る‥‥‥だろう」
ゾーラはユーゴに自身にこのまま放置して自分が死ぬ前にユーゴがとどめを刺すかを尋ねた。
「‥‥‥止めておく。それに‥‥‥俺、個人としては‥‥‥お前に‥‥‥恨みもないからな」
「そうか‥‥‥。なぁー、ユーゴ‥‥‥知ってるか?」
「この争いが‥‥‥女神と魔神のケンカが‥‥‥原因って‥‥‥ことか」
「なんだ、知ってたのか‥‥‥」
「あぁ、昨日寝る前に‥‥‥聖剣が輝いて‥‥‥、何も無い空間で、女神様に‥‥‥教えられて‥‥‥謝られたよ。女神様には‥‥‥自分からの‥‥‥神託で‥‥‥争いを‥‥‥止めて‥‥‥良いとも‥‥‥言われた」
「なんで‥‥‥俺を倒しに来たか‥‥‥聞いても‥‥‥良いか」
「簡単な‥‥‥話さ。俺が女神様に‥‥‥勇者として選ばれたときに‥‥‥好きだった、幼馴染の両親が‥‥‥一ヶ月位まえに‥‥‥お前に殺されてた。だから‥‥‥その敵を‥‥‥とってやるって‥‥‥約束してた。‥‥‥ただ、それだけさ」
「そうか‥‥‥」
「まぁー、もう十年位‥‥‥会ってないしな‥‥‥。良い奴と結婚でも‥‥‥してんじゃないか」
「そいつを恨んだり‥‥‥しないの‥‥‥か?」
「恨む。なんで?‥‥‥俺が勝手に‥‥‥魔お‥‥‥いや、お前を倒すって‥‥‥約束しただけだからな。‥‥‥まあー、勇者の‥‥‥称号を得る前までは‥‥‥よく一緒に遊んで‥‥‥、将来結婚しようとか‥‥‥言ってたけど、そんなものは所詮‥‥‥子供の冗談みたいな‥‥‥ものだしな。他の奴と結婚してても‥‥‥恨むことなんて‥‥‥無いよ」
ユーゴは心の底からそう思っていた。その幼馴染みのことは本気で好きだったのは事実であるし、今でも好きだ。できるなら結婚したいとも思っていたがそれ以上に幼馴染みには幸せになって欲しいとも思っている。それは例え幼馴染みの結婚相手が自分で無くとも‥‥‥。それに約十年もの間、手紙を送ってもいないのに覚えられていて、なおかつ結婚できると考えられるほど甘い考えをユーゴは持っていない。
「‥‥‥じゃー、家族は‥‥」
「さぁーな‥‥‥。家族とも‥‥‥連絡させてくれなかった‥‥‥からな」
「‥‥‥心残りは」
「心残りか‥‥‥あぁー‥‥‥母さんの飯を食いたい‥‥‥ぐらいかな。‥‥‥お前はどうなんだ?」
「俺か?‥‥‥あぁー、俺も‥‥‥妻の飯が‥‥‥食いたいな‥‥‥。あと、娘と‥‥‥もっと‥‥‥遊んでやれば‥‥‥と思うな‥‥‥。まぁー、数年前からは‥‥‥ウザいとか‥‥‥言われてたけどな‥‥‥」
ユーゴには見えないがゾーラは少しだけ涙を流した。
「魔王、お前‥‥‥結婚‥‥‥してたのか。まぁー、いいや。でっ‥‥‥なんでそんなこと‥‥‥聞くんだ」
「あぁ‥‥‥、少し前に‥‥‥酒に酔っていたとき‥‥‥、宝物部屋で‥‥‥イセカイソウカン魔法‥‥‥というのが‥‥‥書かれている‥‥‥紙を見つけてな」
「‥‥‥それで?」
「この城で‥‥‥魔王を行う者が代々‥‥‥受け継いできた‥‥‥物らしいんだが‥‥‥酒に酔ってて‥‥‥良く覚えてないんだか‥‥‥それを改造してしまってな‥‥‥イセカイテンセイ魔法という魔法に‥‥‥変わって‥‥‥しまったのさ」
「つまり、ほとんど‥‥‥何の未練も無い俺を‥‥‥実験代に‥‥‥したいって‥‥‥ことか」
「実験代ってのは‥‥‥当たっては‥‥‥いる。だが、‥‥‥お前だけでは無く‥‥‥俺とお前さ。‥‥‥俺とお前は対極の存在だ。‥‥‥だが、俺とお前は‥‥‥よく似ている。どうだ‥‥‥ユーゴよ?」
二人の間に流れる僅かな沈黙。そしてユーゴは口を開き
「良いだろう。どうせこのまま‥‥‥何もしなくても‥‥‥死ぬだけだしな。それに、今度は‥‥‥対極の存在であるお前と‥‥‥冒険するのも‥‥‥面白そうだ」
「ふんっ、‥‥‥お前なら‥‥‥そう言うと思ってた。‥‥‥そうと決まれば‥‥‥」
ゾーラはそう言うとアイテムボックスから改造した魔法が書かれている紙を胸元に落とした。
「ユーゴ、悪いがこっちに来て‥‥‥俺の胸元に置いてある‥‥‥紙にありったけの‥‥‥魔力を注げ。‥‥‥そうすれば、魔法が‥‥‥発動する‥‥‥はずだ」
「発動するはずって‥‥‥あぁー、実験‥‥‥だったな」
ユーゴはゾーラと会話をしながら、片手で首の裂傷を押さえつつもう片方の手を伸ばし這いながら、ゾーラの元へ向かった。途中、収納した折れた剣の剣先を見つけ何となくアイテムボックスの中に入れた。
「じゃー‥‥‥やるぞ」
「あぁー‥‥‥」
ユーゴが魔力を注ぐことのできる所まで行き、二人は確認し合うとありったけの魔力をゾーラの胸元にある紙に注いだ。
魔力を注ぐ量が増えていくと、紙に書かれているはずの魔方陣が空中に描かれた。二人は自身の魔力が無くなっていきさらに、傷口から大量の血を流して顔を白くしながらも、魔力を注ぎ続けた。それと同時に魔方陣は大きくなっていき、ついに魔法が発動した。そして二人の魂はこの世界から消え去り、魔方陣も消え去った。
「「オギャーオギャー、オギャーオギャー」」
「お母さん、おめでとうございます。元気な双子の男の子ですよ!」
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