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第一話「田舎者のブリキ騎士」その七

金曜日更新


「お嬢様になにするだ」

「このシュレリアの希望なんだべ」

「殺すだよ、幼女趣味に良い奴はいねぇべ」

「だども、生涯貞操を守りそうなお嬢様には良い記念な気もするべ」

 

 最後あたり失礼な事を口にしていたが、「ううっ!」顔をひきつりながらも、血管が浮き出る程度で聞き流す度量は持ち合わしていた。


「えっと本物?」


 夢うつつまでいかなくても現実感を伴っていない危機感がない声。状況をまるで把握出来ていないのか、少年は一番若い少女、即ちヴァージニアに尋ねる。

 少年は尖った先に指を置くと、うっすらと血が滲んだ。

 

「幻でも幽霊でもないちゃよ」


 こいつは可哀想な人だっちゃと悟り、優しく語り掛ける。


「なら何故、僕は学校帰りにゲーセンよって全財産を消費してゲームしていただけなのに、ライフポイントまで消費の危機に直面しているのでしょうか?」


 真顔で心境を説明。

 これだけ聞くと色々とダメ人間にしか聞こえてこない。


「何を言っているのか分からないっちゃ」


 内心では、やばっ、関わらない方が良いのではと頭を過る。


「うーん、ここは何処なんですか?」

「ゴルダ平原にある女神の森だべさ」

「シュレリア男爵の領地でこの方はその御令嬢だべ」


 暫く考え込む少年。腰を据えて緑がめくれた地面にあぐらをかく。


「今度はこちらから質問だっちゃ。お前は何者だっちゃ?」


 こんな奇妙な格好をした少年など領内でみたことがないと、全ての領民を覚えているヴァージニアは疑問抱かず聞く。


「何処から来た? もし軍属なら証を立てるだっちゃ」

「僕の名前は神 ハルト。私立千迅学園1年。生まれも育ちも横浜、バリバリのはまっ子だよ。ゲーセンと水族館がおいらの遊び場さ」


 キャッキャッウフフの高校生デビューを想定して千回以上予習マニュアル化した自己紹介、フィニッシュと言いたげに学生証を高らかに掲げる。偏差値が高い名門校を1ヶ月丸暗記で奇跡合格した学生証を自慢げに。


「……ヨコハマ? ガクエン? 訊かない言葉だべ」

「ミヤコの流行語はここまで来ないから分からんだっぺ」

「腑抜けた顔。よっぽど絵が下手な画家に頼んだんだちゃね」


 この時ハルトは幾ら有名校でも異国の地では、総理大臣の名前と同じ程に認知度が無い事を初めて知る。


「……」


 ちなみに複雑な気分なので最後の感想だけ無視。


「ペンタゴンと同じぐらい知名度がある世界のYOKOHAMAを知らないとはどんな秘境なのですか? ライスカレーでも食って思い出せと言いたいですね。ちなみにクロブネ来訪はURAGAだからね」


 これはお馬鹿なギャル対策のマニュアル。もちろん相手方は全くの無反応。

 

「誰がペッタンコだっちゃぁぁぁ!?」


 ヴァージニア以外。

 胸ぐらつかみヴァイブレイションから、木の中で巣作りしている小動物へまるで借金取りをしている様な連打ノックを変態石頭で打ち付ける。思わず慌ててリスは蓄財した木のみを献上するのでなかろうか。


「痛い痛い、そんな事、全然言ってませんよおぉぉぉ!」


 全否定。マラカスやトンカチの気持ちが何となく分かってしまったハルト。苛められると無意識に敬語になってしまうのは弱き者の性か。


(だけど、これで別の国にゲートが繋がったいう線は消えた。なら本当にここは一体何処なんだ? いやいや、一つだけあるではないか、高校生にもなって恥ずかしいから思考から外していた答が……」


 途中から声がだだ漏れしている事に気付かないハルト少年は、一旦間を置き、


 「ここは異世界ですかぁぁぁ!?」


 絶叫と同時に複数の槍が再度ドーナツまたは首輪となり、首元まで迫る。


「ごめんなさい。痛くしないでくださいぃぃ!」


 異世界――、短絡的にそこに行き着く。もしくは元々ハルトには逃避願望があったということなのだろうか。


「隊長、このガキンコ怪しすぎるだ」

「この場で殺した方がよかんべ」


 怪しすぎるハルトの言動。人が良いヴァージニア小隊の面々でも警戒するには十分すぎる動機だった。


「待つだっちゃ。まだ決断は早い」


 鶴の一声ならぬ幼女の一声。


「味方かもしれないし、ただの旅人かもしれないだっちゃ。または逃げ出した異国の奴隷かもしれない」

「始末するべきだ。こんな身なりの良い旅人や奴隷はいないだよ」

「捕虜として捕らえて男爵様に判断を委ねた方が得策じゃねぇべか?」

「いやいや、こんなあからさまに怪しい奴土に埋めるべ」


 意見が真っ二つに割れる。


「ただのキチガイだっぺ」

「「「……」」」


 皆頷く。ここだけ一同合意した。


「酷いよぉぉ!」


 葉がゆっくりと踊っている間に沈思黙考、「……連れていくっちゃ」ヴァージニアは隊長として決断する。

 

「初めてを奪われたのだから、情が移ったんだっぺ」

「そうかそうか」

「奪われていないっちゃぁ!」


 耳まで真っ赤にして否定。何となく放って置けないと思ったのが本心だ。


「ところでそろそろ、この物騒なの退けてくれると嬉しいのですが……」


 何処か抜けている若者ハルトは上目遣いにヴァージニアへと訴えると、目配せして槍を引かせる。安堵したのか胸を撫で下ろした。


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