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第一話「田舎者のブリキ騎士」その三

金曜更新


 2


 上が太陽照りつく雲一つ無い美しい蒼天なら、下は死臭漂う重くむせ返す戦場と言う名の地獄絵図。平時なら見事な自然の造形に言葉を無くすであろう。しかしながら、阿鼻叫喚が木霊する神の慈悲なぞ否定してしまう処刑場と化した大地のキャンバスは、朱と緑の血のりと、多種多様の先程まで活動していたオブジェに彩られて、不気味な前衛芸術となっていた。


「弱い、実に弱いぞ人間共」


 敵の不甲斐なさに喪失感漂う武人が、倒した死屍累々に語りかける様に独りごちる。


 全身緑の鱗で覆われてる、常に実戦に身を置き鍛え抜かれた屈強な体。更に鎖帷子の上からを鉄製のカードを繋げこしらえたラメラアーマーを装着。恐竜を彷彿させる瞳孔が縦一線の瞳は、映る世界を脆弱と見下し、ワニの様な大きな尻尾は地面を叩きつけた。

 

 リザードマン:モンスターの知名度は高く、数々のロールプレイングで活躍したメジャーな名ザコキャラだ。魔族兵ではゴブリンと共に描かれる事が多いスタンダードタイプ。人間の近い知能と汎用性、更に身体能力も抜群。しかし、強そうな外見と裏腹に、爬虫類系ながら竜族に属さない設定が多い。

 

 緑色のトカゲは、鮮血が滴る1メートルを超える戟を片手に鋭い牙を剥く。


「バクリュクキョウ伯長、リュウカツ伍長及びチョウデン伍長、敵、掃討完了しました」

「ご苦労だ」

「はっ!」


 ゴブリンの伝令は左手で右手を包み込み拱手し頭を下げた。魔王国バクリュクド軍第八遊撃百魔人隊、姓はバクリュク、名はキョウ、あざなはモウハ、この百匹の魔物を束ねる伯長へ伝えに来たのだ。(伯長とは百人隊長の事を指す)

 この男は将軍バクリュクドの甥ながら、自らを常に極致に置き伍から自力で這い上がってきた。

 今回は特別に気合いが入っており、自分の力を上層部、特に伯父へ見せ付ける為に危険な役目を買って出た。


 それがこのゴルダ平原の戦い。


 そう、今、人間の王国軍と魔王軍が衝突。まさに戦争の真っ最中だった。


 中央大陸北に位置する、人間の国の一つ『スタンドライオ王国』。中央大陸は中世西洋文明に極似した文化が発展していた。

 いにしえより多くの英雄を輩出していた誇り高き勇者の国……、だが、それも過去の栄光だ。今では汚職、不正等の腐敗政治が当たり前。かつての誇り高き勇者の国の面影は無かった。


 そこに世界支配を目指す魔界の王、魔王シュリン・ランホウが中央大陸全土に向けて宣戦布告してくる。シュリン治める魔王国は、古代中華文明を彷彿させる中央集権強大独裁魔族国家だ。

 相手は第五軍団率いる驃騎将軍バクリュウド・コウシン。北大陸半分を自軍だけで統一した魔王軍が誇る常勝無敗の無敵軍団だ。

 この国家存亡の危機に対して、国王は軍に迎撃を勅命。

 応戦するのは大陸最強の伝説を持つ獅子王騎士団。だが、それも過去の話。現在は幹部になるだけで名誉な為、人選を公正に行われた訳じゃなく、賄賂で高い地位を手に入れた英雄のいないハリボテ騎士団であった。


「「「うわぁぁぁ!」」」


 わずかながら、王国に忠誠を誓っている騎士逹は果敢にもバクリュクキョウに挑む。しかし、騎士が騎馬から降りている時点で、雨の中の火縄銃の如く役にはたたない。


「兵科のセオリーも訓練も満足に施していない軍隊が挑んでくるとは、この国は俺達を馬鹿にしている。魔族とこのバクリュクキョウを舐めるなぁ!」


 向かってくる雑兵逹を息もつく暇もなく撫切りにする。


 伯長バクリュウキョウ率いる強襲部隊は隠密作戦中だった。目的は食料庫の放火。中世の戦争にとって最も定石の一つである。

 守備部隊も応戦するが、敵が強いと判明すると統率がとれていないので、隊長のゴスロ伯は一目散に逃亡。副隊長は雑兵に突撃命令を出し、その隙に貴族兵達は逃げた。

 平和ボケしていた騎士団の士気は低く、この部隊も例がいなく魔族軍に良い様に蹂躙されていた。


 されど、


「こんな所で死んでたまるかだっちゃぁぁぁぁ!」


 独特の方言を吐き、恐れずに挑み続ける一人の小兵あり。ボリュームある長い麦色の髪を乱しながら果敢に魔族を切り込む。


「邪魔だチビ!」

「きゃあぁぁ!」


 しかし気合いは空回り。ゴブリン達の強固な盾に弾き飛ばされた。その勢いのままバウンドして転がる。ソロのザコさえまともに倒したことがないのに、統率がとれた魔王軍に勝ち目があるわけがない。

 幸いメタリックに輝くプレートアーマーに守られているので目立った外傷はない。

 他に生き残ったのは少女率いる近隣の志願兵逹のみ。村を捨てて逃げる事が出来なかったのだ。

 

 戦場の習いに従って少女へ複数の槍は貫こうするが、「待て!」上官がゴブリン兵逹を止める。


「俺の名前はバクリュクキョウ。階級は伯長だ。チビ、貴様の名前は?」

「私は獅子王騎士団、ゴスロ伯所属、シュレリア男爵が一子、ヴァージニア・ウィル・ソードだっちゃ!」


 少女改めて騎士ヴァージニアは高らかに名乗りあげる。

 これが魔族に物怖じもしない勇敢なる少女のフルネーム。満身創痍にも立ち上がり、幼い顔立ちながら、まだ消えていない闘志を青い眼光に込める。

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