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第一話「田舎者のブリキ騎士」その一

金曜日更新


 はためく大旗、大地に突き刺さりて、双頭獅子、七海轟き、英雄英傑、蒼天を穿つ。


 彼の国を語る時、この詩の一文が必ず入る。


 東ザンレシア大陸北に位置する、『スタンドライオ王国』。東大陸は中世西洋文明に極似した文化が発展していた。いにしえより多くの英雄英傑を輩出していた誇り高き勇者の国。特に建国の祖『ルイーン』は獅子王と呼ばれ誉れ高き12騎士と、二つ名の元となっている騎士団を率いて魔王討伐の偉業を成し遂げている。

 国旗には炎に挑むまたは防いでいるようにも見える二頭の獅子が描かれ、目にする者全てを圧倒した。


 その御旗の元、声高らかに演説する一人の男あり。


「皆、聞いているとは思うが、とうとう魔族がこの王国に侵攻してきた。主張は『建国王といにしえの魔王が着けれなかった決着を今こそ着けよう』だそうだよ」


 白髪と顎髭と藍色のとんがり帽子がトレードマーク。刺さっている白い羽が自己主張していた。

 この男、声が通っている。マイクがないので、声が大きいまたは澄んでいるというのは将として重要なファクターであった。


「なんとも馬鹿げている。大義名分をこじつけなのがまる分かりだ。実にスマートじゃない」


 歳は四十中頃、顔にシワがちらほらと大人の渋味があった。瞳は深く鼻は高く眉は細長い。弁がたち、均整の取れた顔立ちが、若者だった頃はどんな輩だったのかを推測するのが容易かった。

 演技派だ。いちいち芝居がかった主張に己自身が陶酔している風にも伺える。


「我らは誇り高き獅子王騎士団の一員だ。幾ら魔族でも慈愛を持って紳士的に接してきた。正式な国同士の貿易の話だって持ち上がっていた。なのにこの仕打ちだ。実に嘆かわしい」


 騎士団幹部のみ許される黒光りしているプレートアーマー一式、胸には獅子王紋が刻印されている。

 この『獅子王騎士団』とは、王国建国の王が創建、数々の名声と歴史がある由緒正しき正義の騎士団だ。過去、幾つもの国難を退けた実績がある。

 王国の誉れ、大陸の憧れの的。


「この魔角断伯を祖に持つゴスロ伯爵、エドウインが誓う。再び魔王と対峙した暁には必ずや角を斬ると!」


 オーバーアクション気味に対陣している魔王軍へ、手を剣に見立てて斬りつける。

 この瞬間に幕が降りれば、一人芝居は成功だったかもしれない。

 ゴスロ伯爵、ゴスロ地方一帯を支配している王家に仕える領主だ。先祖は建国王の指揮の元、魔王討伐に参加したとある。見事魔王の角を切り落とし、王から魔角断伯の名を賜った。

 獅子王騎士団第十三席の位にあり、平時は幹部として運営にも携わっている。

 爵位はそのまま軍の階級を示しており、伯爵は大雑把に分けて、下位将軍または武将と同等。辺境伯は上級将軍または家老扱いだ。

 

 饒舌なスピーチが終わりを告げ、辺りから喝采が上がる。

 拍手がまばらなのは人望がない訳ではなく、ただ単にその場に人が少なかっただけであった。


 吹き抜ける風が冷たく、早くも冬の到来を予兆。伯爵の羽織ってるマントがその大地の溜息に煽られて暴れ馬のように躍っている。お気に入りの帽子が飛ばないように上から押さえ付けた。


 スタンドライオ領内にあるゴルダ平原。広き国土の割りには数少ない平地と一つだ。草原と違い森林も多く、農作にも適していて、周辺には集落も多数点在している。

 ここには王都へ続く街道があり、他の所は山道な為、最短で着く。貿易上はさることながら、北から侵攻する場合、軍事でもゴルダ平原を押さえることは重要な意味があった。


 そこに世界支配を目指す魔界の王、魔王シュリン・ランホウが大陸全土に向けて宣戦布告してくる。

 シュリン治める魔王国は、軍事中心の中央集権完全魔族主義国家だが、人間との貿易も盛んに行って国を富ませていた。

 スタンドライオ王国とも国交の為、お互いの貿易品をやり取りする予定であったが、献上した貿易品の水晶を見るや、魔王は目の色を変え使者を殺し、王国に宣戦布告を宣言する。


 魔王は第五軍団率いる驃騎将軍バクリュウド・コウシンを派遣。北大陸半分を自軍だけで統一した魔王軍が誇る常勝無敗の無敵軍団だ。

 この国家存亡の危機に対して、国王は全国に迎撃を勅命。

 応戦するのは大陸最強の伝説を持つ獅子王騎士団。魔族が北の海上国家を滅ぼしたと報を受けて、王命により直ぐに獅子王騎士団を編成。全騎招集は邪竜王ブラックドラゴン討伐より実に150年ぶりの事であった。


 伯爵の任務は本営後方の兵糧庫の警備。

 食糧を貯蔵しているこの場所は、脳が本営なら言わば心臓部。長期戦が出来るかどうかはここの存続に掛かっている。


 大型の幕舎が十数個、その回りにも入りきれない木箱が山積みされている。

 ここから各陣営に配布されていた。

 大きな戦になると分散させるのがセオリーなのだが、軍上層部自体が相手を侮っている嫌いがある。


「我が弟子よ、いつまで拍手しているつもりだい。ボクにワルツを踊れとでも?」

「きき、緊張してますです。はい」


 見た目、ゼンマイ仕掛けのブリキ人形にしか見えない程、完全プレートアーマー身に纏った騎士。声が兜でくぐもって聞き取りにくく、右手右足が仲良く出るぐらい緊張していたせいで、子供並の身長からか本物の玩具に見えなくもない。

 

「初陣だ、詮無いことだよ」

「父の分までがんばりましゅ!」

「それは良い心がけだ。でも気負いすぎるなかれ」


 カミカミだが、ジェントルマンとして、または師匠としてここは指摘しない。

 ブリキは父の代行で今回参陣したのだ。まだ、叙勲式を受けて三ヶ月も経っていない新米騎士。三年の間、伯爵の従者から見習い騎士を経てここに至る。


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