第4話「無償コインでステータス&スキルアップ」その2
「それはそうと変態、何でさっきみたく飛ばないんだっちゃ」
『状況が全然違う。あれは一対多数だから意味があるんだ。今やったらハエのように一撃で潰されてしまうよ。今は出来るだけ切り結んで、相手の動きを覚えないと』
時間制限がないから可能な戦法だと、画面上に表示しているカウンターが∞になっているのを改めて確認する。
「前回は実力を隠していたのか?」
「さて」
ヴァージニアの無駄の無い動作の剣撃に、バクリュウキョウは驚きながら受け続ける。足の踏み込み方、腕の振り、洞察力、瞬間的判断力、どれをとっても幾多の死線を潜り抜けている自身と引けを取らなかったからだ。
六十合。
七十合。
八十号。
「はぁはぁはぁ!」
「中々しぶとい!」
息つく間も無い激しい打ち合い。流石にスタミナだけはあるヴァージニアも呼吸が荒くなっていく。お互い一歩選択を間違えたら死が待っている中、ハルトとバクリュウキョウの度胸試しが継続していた。
ふと気が付くと、鉄紺色の空が色を増し漆黒となり、二人の死闘を燦然と輝きを放っている数百の観戦者が見下ろしてしていた。 ゴルダ平原の秋夜は気温が下り、冬支度を怠ると生き物達に厳しい洗礼を与える。それは人間も同じ、デュエル中の騎士の体温と気力を容赦なく奪っていく。
『ヴァージニアさん、大丈夫?』
「はぁはぁ、て、手が痺れてきたっちゃ。強すぎる」
急激な温度変化で顔面が引いた汗でひりつくから、纏っているマントで乱暴に拭う。もう一方で、操縦者も数時間の激しい操作で手の痙攣が止まらなかった。
『同感。このリザードマンは限りなく少ない動作で攻撃の軌道を何通りにも変えてくる。手数が多いほど有利なのはアクション全般の常識だ。RPGでさえラスボスは二回、三回は当たり前。これをワンプレーで攻略しろって、無理ゲー過ぎるよ』
「はぁはぁ、また、訳の分からない事を……。じゃ、速さを捨てて渾身の一撃を喰らわせたら良いっちゃよ」
ハルトのゲーム談義にもう馴れたのか、ヴァージニアは呆れ顔で適当にあしらう。
『駄目だね。動きが愚鈍でも当たれば大きいが、俊敏さで回避されるし、圧倒的な体力の差がないと、所詮パワーがスピードに勝てるわけがないよ』
「そうなのか?」
その上、ハルト得意の中距離からの重火器が使用不可能な為、戦法が限られている。視界が限られている夜戦、接近戦の間合い経験がガンシューティングとカクゲー頼りなのは心もとなかった。
『更にあの鬼を即断した剣撃が厄介なんだ。全くもう、一撃ゲームオーバーなんてどんなチートだよ? レトロゲームかよ、ナンセンスだ、有り得ない。幸いまだ、僕達にそれを使っていない。だから、どうしても後手に回ってしまう』
「じゃ、どうするんだちゃ?」
『うーん、普通ならまだ体力あるから一か八かの防御無視のノーガード戦法か、向こうが対処できない奇をてらった戦法が有効打だと思うが、あのリザードマン相手では意味はなさそう』
カクゲーではノーガードとか、連続ジャンプとか、コマンドが分からないので通常攻撃のみで定石を無視した奇襲攻撃は、愛が足りなく良く解っていない素人がよくやる事だが、通常ゲームならキャラ選択とやり方次第ではそれなりに良いところまで勝ち続ける事ができた。
多少減ったが体力ゲージにはまだ余裕がある。敵将相手にあれだけの激しい打ち合いを繰り広げて無傷など虫の良い話だろう。
ハルトは操作をメインに置きながらも、その片隅でデーターを簡潔に纏める。
バクリュウキョウはゲーム的カテゴリーに分けるとスピード接近戦タイプ。しかも戟使いなのでリーチが長い。対人では上位ランカー、CPU的にはラスボスクラスを更に強化した程隙がない。
フィールドは夜の森。但し拓けている広場なので遮るものはない。照明は月と星のみ。
足場は草が生い茂っていて移動しにくい。牽制しながら敵との距離を詰めるのは摺り足で横歩きが常套手段だ。だが、その前段階、草を踏み固めているのが今の現状。
だがその刹那、
「――小娘もらったぁ!」
「あ! しまったっちゃ!」
『うそっ! 何で飛んでくるのかな!? だからこんな超ハードモードを初見クリアなんて無理ゲーなんだって!』
ハルトは考えを巡らせたせいで、一瞬、敵の姿を見落としてしまう。
足場の悪さを鳥をも掴める跳躍力で補い、急所を捉えた勢いのある一撃。しかもバクリュウキョウは鎧の防御が薄い箇所と大剣の可動限界の特性を見抜いていた。
ハルトはスピードタイプとまで見抜いていたのに、強い奴ほど技に固執してジャンプ攻撃はしてこないとゲーム的固定観念を持っていたのがこの油断の原因だ。
ヴァージニアは覚悟して思わず目蓋を閉じフェイドアウト。だが、自分の最後を目に焼き付けないのは騎士として失格だが、幾ら待っても衝撃と痛みが感じない。
「あれ? 痛くないだっちゃ」
『良かったゲージが全然減ってないよ!』
「俺が外しただと!?」
三者三様の反応。
信じられない少女は、体を入念にまさぐるように確認するが至って普通。
ディスプレイにはデロップで強運の二文字が流れていった。そう、強運のスキルを上げたお陰で、偶然にもヴァージニアが体勢を崩し、戟の攻撃が猫パンチ程度の威力になってしまった。
ハルトは思わず胸を撫で下ろす。
もう一度スキルを開くと、強運はどういうわけか受理されていた。だが、同時にあることに気付き、やばいと、口にてを当てる。
『ごめんヴァージニアさん』
「なんだっちゃっ――、フミュゥゥ!」
どうしてだか足下にバナナの皮。ヴァージニアは受け身できずに顔面から豪快にずっこける。
『コケるよ』
「この馬鹿! 言うのが遅いっちゃぁ!」
ケームでは反映されない運営のくだらない洒落が、現実にヴァージニアを苦しめているとは知るよしもない。




