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第三話「武力100一騎当千VSアーケードゲーマー 月下の死闘」その4

金曜更新


『あ……』

「ん?」


 国の行く末を憂う騎士は、忠臣蔵や白虎隊や神風特攻隊に並ぶような華々しい覚悟を決める。しかしその矢先、大祭の護摩焚きみたいな黄昏時の闇に紛れ、赤い巨人の背後に影が迫った。

 この気配にヴァージニアは正体不明の寒気が走り、武人ではないハルトでさえ、直感的にソンゲンは終わったと感じ取れた。


「――ソンゲン、軍機違反だ」

「え? あばばば」


 オーガの固い外皮をものともせず、羊羮のように胴体から首が音もたてずに流れ落ちる。そのさまは刀で大木を居合斬りしたような精度だった。

 一瞬の刹那に起きた転機、ヴァージニア達は何も手を出せず、雪崩や大地震や株の大暴落を体感しているような錯覚に落ちた。


「嘘だっちゃ!?」

『瞬殺か』


 あれだけ苦しめられた化け物は、倒壊したビルの様に巨体が崩れいとも容易く事切れる。被害者であり当事者は敵が死んだうれしい等とそんな簡単な理屈で片付けなれない、何とも名状しがたい複雑な思いにかられた。


「これはどういう事だっちゃ!?」

『うーん、軍人が一人暴走した末路は、どんな歴史でも結果は同じじゃないのかな』


 まだ、状況を飲み込めきれてない逆襲の少女は、「皆ごめん、敵とれなかっただっちゃ」助かった事実より討ち取れなかった悲劇を悲しんだ。

 対してハルトは灰となって消えていった哀れな鬼と魔族達へ、最期に黙祷を捧げた。なのでその間に《ソンゲンの赤魔水晶》を手に入れたとデロップが流れるが、見逃してしまう。


「でも、何か都合が良過ぎっちゃよ。師匠は戦場では神の奇跡などけして起きない。結果として残るのは、純粋に力と用意主周到に準備した者だけだと仰っていた」

『実は悪足掻きに狼煙を上げておいたんだ』

「そこまで見越していたのか?」

『も、もちろんだよ』


 実際は魔族襲来で気が動転している時、原始的なSOS信号を上げておいたのだ。良くも悪くも結果としてみれば、ハルトの悪運が強いと示している。

 蓄えられた雑学的無駄なアニメ知識が、こんな場面で役に立つとはと、本人は胸を撫で下ろした。


「――残ったのは人間のお前だけか?」

「誰だ!?」


 聞き覚えのある張り詰めた声色に緊張が走る。

 ハルト達を苦しめた鬼を退治したさしずめ桃太郎は、暗がりから殺気を放ちながら、カーテンコールでもないのだが月明かりのステージへと姿をみせる。

 ワニのような太い尾っぽ、緑のうろこに覆われた鍛え抜かれた肉体、そしてその上から纏っている札甲と呼ばれるラメラアーマー、特徴的な大きな口は小型動物など一呑みにしてしまいそうだ。


「お前はバクリュウキョウ!?」

「む、小娘か。ヴァージニア・ウィル・ソード」

『このリザードマンは知り合い?』

「師匠の仇だっちゃ!」


 再びまみえた強敵が名を覚えてくれている事に対して、嬉しさと忌々しさが相まって、駆け出しの騎士としては複雑な心境であった。


「すまない、約束が守れなかった」

「お前は誇り高い武人じゃないのかだっちゃ!?」

「俺の部下が暴走した。戦いの意思のない者達を襲ったのは俺の監督不行きだ。だが、言い分けはしない」

「当然だっちゃ!」


 敵意剥き出しのヴァージニアに対して、バクリュウキョウは辺りの凄惨さを見渡しながら鎮魂を祈るように、静かに大きな口を開く。

 そのままヴァージニアの横を通り抜け、爬虫類特有の縦一文字の眼孔が瞬きもせず、犠牲となった彼女の仲間一人一人に敬意を表し拝手して回った。

 これが将の器または侠気なのであろうかと、ハルトは設定が酷似している三國志の英傑達と姿を重ねる。


「小娘よ、こんな場面で言うのは非常識と重々承知で訪ねる。どうだろうか、魔王軍側に来る気はないか? 悪い様にはしない。兵糧が絶たれた今、この戦は意味をなさなくなった。それどころか、ヴァージニア・ウイル・ソードよ、のこのこ戻れば恐らく敗軍の責をとらされるぞ」

「……」


 考えもしなかった唐突な提案に戸惑いの色を隠せない。思わず剣が手から離れ、神木の聖地に突き刺さった。

 再会した事を想定した幾通りのシチュエーションに当てはまらず、流石に一時、何と答えて良いか考えが纏まらず言葉を失う。例えるなら、ジグソーパズルに違うピースが紛れていたような感覚だろうか。


「ヴァージニア・ウイル・ソードの胆力、行動力、判断力は見事だ。単刀直入に言う、俺の養女になれ」

「お断りだっちゃぁぁぁ!」


 ありったけの声量で拒絶。唾が盛大に飛び散った。

 

「即答……。当然と言えば当然か。俺が逆の立場でも同じ答えを示すだろう。それを差し引いても、お前をこのままにしておくのは勿体無い。暴走したとはいえ、俺が丹精込めて育てた最強の精鋭達が、たかがメスの人間一匹に掌で踊らされるのだからな。それに――」

「師匠の仇が何を言っても無駄だっちゃ! 第一このまま処刑になるとしても騎士として祖国を裏切られるか!」

「愚問だったか」


 残念そうに目を閉じる。


「ならば」

「後は剣と剣で」

「拳と拳で」

「「語るだけだ(だっちゃ)」」


 武器を構える両者。


 だが、


「その前にこれを飲め」

『おっと』


 何の前振りも無しにいきなりバクリュウキョウは何かを投げ付けてきた。ハルトは反応が遅いどんくさいヴァージニアに代わり操作してキャッチ。


「これは?」

「即効性の回復薬だ。お前とは対等な条件で勝負したい」


 藍色の変わった造形の小瓶だ。中には液体が入っていた。


「誰が飲むか!」

『いや、ヴァージニアさん、僕としては飲むべきだ。自分でも分かっているでしょ、もう、体力も残りわずかだよ。それにこのリザードマンはソンゲンとは違う。恐らく義を重んじる本当の武人だよ』


 ハルトはレットラインに達しているライフメーターを睨みながら、自らの意見だけ提示すると、最後の選択は宿主に任せて見守る。

 ヴァージニアは長考後、毒を考慮して、一度、捨てる動作をするが、一度生を諦めた身、ハルトに全てを委ねると表明した以上、疲労困憊の彼女に元々選択肢などない。思い止まって漢方薬や青汁を口にするように、怪訝な表情を浮かべながら鼻をつまんで無言で瓶に入った液体を飲み干した。


「変態どうだちゃ? 変化はあったか?」

『うん、体力は回復したよ。そっちはどう?』

「メチャメチャ不味い、ではなくて体が軽い。それに一気に楽になった」


 ヴァージニアは屈伸やジャンプして反応を確認。


「当たり前だ。それはいざという時の為に取っておいたエリクサー。どんな瀕死の重体も即座に治る世界最強の回復薬だ。大したことはないが俺のせめてもの侘びと受け止めてくれ」

『うお! こんな所でロープレの代名詞の名前を聞けるとは!』


 ゲームで定番の最高級アイテムの名前を聞き、ハルトは興奮した。 


「礼は言わないだっちゃ」

「それでいい。これから死合う俺達には一切不要。さあ、仕切り直しといこう」


 今のやり取りを指しているのか、それとも昼間の一戦の事を指しているのか、武人はこれ以上深く語らなかった。


「バクリュウキョウ・モウハ!」


 大型の戟を片手で振り回す。


「ヴァージニア・ウイル・ソード!」


 大剣を引きずり下段へ。


「「いざ、尋常に勝負!」」


 ハルトは再び、一段下げたギアをクラッチを踏み込み上げる。


『ヴァージニアさんの身体能力をまた一段上げたよ』

「了解だっちゃ」


 ヴァージニアは気合いを入れなければ振ることも叶わない重い大剣が、また、みるみると木の棒切れなみに軽くなっていく事を直に感じたとった。

 ギアを上げると身体能力が格段に上がる。だが、同時に精神力が著しく低下する諸刃の剣。だから、セカンド以上は上げられなかった。ゲームでは一時行動不能になるが現実ではどうなるのは検討もつかなかったからだ。ソンゲンのバックに強大な敵がいるのは感覚的に察知していた。だから、警戒してサードは温存していた。そうでなければ、余計な作戦をとらなくとも正面からでもソンゲン達に勝てたのである。



この話が面白いのか、面白いのかよく分からない。

面白いのか、面白くないのかだけでいいから感想してくれたらありがたいが、それは自分勝手な願望というものだろう。

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