「序曲」2
金曜日更新
「明日の飢えより今日の後悔だよ」
宵越しの金を持たない刹那主義的セリフを吐き捨てる。本人はアウトローで格好良いと、アニメとゲームで洗脳されているので処置なしであった。
スタンダードな銃声の効果音を合図に、このゲーム堕天使にとって生命の灯火というべきクレジットカウントが0→1へと書き換わる。
静かに二双のレバーを握り、今日何回目触ったか明確にはリプレイ不可能なくらい理性と共に忘却の彼方へ置いてきたスタートボタンを、躊躇なくピンポンダッシュの要領でプッシュ。勢いあまってもう一度プッシュ。最後のワンプレイを噛み締めるつもりは毛頭ないようだ。
キャラ選択完了後、オープニングをキャンセル。再び全面に映し出された世界へ誘われるが、「金はないが暇な学生ナメん――、はれぇぇぇ!?」説得力が切ない情けない甲斐性ない三拍子に反応したのか、十年立て続けで凶を引く大坂おかんがおみくじをシェイキングするが如くの振動を前振りに、コマのような洗濯機のような高速回転で目を回し、爆弾テロでも起きたみたいなポン菓子が飛び出たみたいな大きな衝撃音で青ざめる。それと伴ってリセットされたゲームコックピット内は、漆黒の闇へと変貌しハルトを包み込む。
「おんぎゃぁぁぁぁぁ! なんですとぉぉぉ!」
何処から声を出していると思うぐらい悲痛な魂の悲鳴が室内を反響する。今なら描いた本人も見分けがつかない程の本家に負けないムンクの叫びが拝めるだろう。
返金レバーを激しく上下運動するも、彼の魂とも侠気とも言えるラストコインが再び手元に戻ってくる気配はない。
謎の停電より灰ゲーマーなハルトにとってゲームがプレイ不能という事は、世界が滅びる事より大事なのだ。支離滅裂だと思うが、作家になれなかったらラグナレクorハルマゲトン系で末世になった方がマシとマジで願っている数多の底辺Web作家群なら気持ちが分かり合えると思う。
店員に文句の一つでも言わないと気が済まないので、詫びに2クレジットの要求を目論んでここから出ようとするが、ハッチにロックが掛かって開かない。もちろん本物じゃないので緊急用開閉ボタンなんて付いている訳もない。ロボットのコックピットをモチーフに仕上げているので、一般的な扉でもなく観音開きでもなく、もちろん回転式でもない。ロボットアニメでは当たり前な上へと開くタイプ。ここだけ本物志向なので脆弱な若者ではびくともしないぐらい重かった。
ハルトは事態の深刻さを改めて認識する。
「これは無効だぁぁ、誰かもう一回ゲームさせてぇぇぇ!?」
ここは助けてだろうがと、もしお笑いの神様が傍観していたら間違いなくハリセンでつっこみを入れていたであろう。でも、一般学生とはベクトルが違うので詮無きこと。
それでも、このクズの訴えが天界に届いたのだろうか、ほどなくして、電磁音と共に360度ディスプレイは復旧した。余程、神様というのは暇と時間をもて余しているらしい。
そして、当初の衝撃的シーンへ戻る。
ゲーム止めて真っ当な人間になると誓った初日の出の感動(三時間で改心を挫折した)を上回る、アップされた女子用のパンツが鮮明に写し出されていた。シワ、生地の縫い目、繊維までも忠実に再現されている。これで匂いまで再現されていたら、確実にスタンバイ中の第二のハルトがウエイクアップしていたであろう。
しかも絶賛装着中。シミのない綺麗なおへそと太ももは、一生消えないようにハルトの脳内にダウンロードしていた。メモリーカードがあればバックアップも欲しいところだ。
何時からこのゲームはエロゲーになったと、ハルトは疑問に思う。父親から聞いたアーケードゲームの伝説、幻の脱衣麻雀並の衝撃だった。昔、エロ親父はこれの為に麻雀を覚えたそうだ。そもそもロボしか登場しないのに脱衣の意味があるのかと問いたいが。
ハルトは静止画かと思っていたが、対象は痙攣のような動きを見せ、周りも風に揺られ青々とした雑草がアニメーションの様に動く。その動作は最新CGのように滑らかでリアルだった。
「何なんだこれは?」
好奇心が旺盛で頭が足りないハルトでも、この異常事態に戸惑いが隠せない。
細いくびれの両端には林または森のグラフィックが映して出されてる。アングルからいって木の根元で豪快に転けたが正解だろう。その証拠に木々のてっぺんが覗いていて、更にその先には流れる雲が悠々と青い空の海を航海していた。
だが、葉っぱ一つ一つに至るまで同じじゃない。「これって映画か?」ここで初めて実写という答えに行き着く。
『 お嬢様大丈夫だべか? パンツ』
『ヴァージニア様も相変わらずそそっかしいだべさ、パンツ』
『隊長は天然のドジっ娘なんだべなぁ。パンツ』
枯れ葉を踏みつけるような音と共に、謎の複数のえらくなまった声がスピーカーから聞こえてくる。
『パンツパンツと、うるさいだっちゃぁぁぁぁ!』
「あふぅ……」
鼓膜にクリティカルヒットをぶちかます程の高音アニメ声がハルトの脳内を、ズッキューン! というときめきカウント音と共に波動砲の如く突き抜けていった。