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第三話「武力100一騎当千VSアーケードゲーマー 月下の死闘」その二

金曜更新


2


「ゴミの分際で遥か上位種であるオーガ族をおちょくるとは良い度胸である!」

『ヴァージニアさん、もっともっと挑発して!』

「ウドの大木!」


 でも、この後に続く言葉が思い付かないから、咄嗟にベロを出して相乗効果を狙う。


『ヴァージニアさん……』

「いきなりなんて無理だっちゃ」


 僕にはあんなに罵詈雑言浴びせられるのにと、傷つきやすい現代っ子は聴こえないように呟いた。


 この間にもハルトは、画面に表示されている車のスピードメーターと酷似しているソウルゲージがある程度上がったので、クラッチを踏み、ギアをファーストからセカンドへと切り替える。序盤では目で捉えられなかったソンゲン怒り任せの一撃が、「消し飛べ!」まるでスローモーションを眺めているが如く、走り高跳びのようにゆっくりヴァージニアのスレスレを流れた。そのまま、次の密集地へイルカジャンプ。


 ソウルゲージとはヴァニシングライダーの基本システムの一つで、心の高揚感または気合いを数値化したもの。ソウルが向上した状態でギア比を上げると火事場の馬鹿力ぐらい身体能力が格段にアップする。扱いは難しいが上位を目指しているヴァニシングライダー上級者には必須技能と断言していいだろう。

 

『頑張れ、ヴァージニアさん。いい感じ、あと一息だよ!』

「分かっているっだっちゃ!」


 敵を盾にしながら進む姿は、さながら海藻を隠れ蓑に使っている熱帯魚。


「お伽噺のマーメイドはこんな気分なんだろうかだっちゃ?」

『ジュゴンじゃ……』

「あ”?」

『ごめんなさい』


 などとハルトは軽口を叩きながらも、ソンゲンの執拗な攻撃を軽やかに躱し続け、コンスタントに敵の密集地へと誘導。その無駄の無い軌道修正は、あたかも未来予想または緻密な作戦が成せる動きであった。


「それにしても、お前は馬鹿なのか? 天才なのか?」

『藪から棒に何を失礼な事を言うのかな?』

「こんなこと土壇場で思い付くなんて普通じゃないっちゃよ!」


 これはヴァージニアの背の低さを利用したハルトが考えた作戦だ。沸点の低いソンゲンを煽って敵の数を減らしていく。

 あるレトロアクションゲームのノーダメージ縛りプレイで考案した、ハルト流サバイバル戦術だ。実際は小技を使って、敵に接触したら反射する特性を使ってピンボールのように移動する。プレーヤーが無尽蔵に存在するヴァニシングライダーにも条件が合えば好んで使う。いうなればハルトの十八番だ。ただ、ゲームのように反射機能はないので、再び数多プレイしたレトロゲームの知識を再利用。手の力だけで移動するアクションゲームがあったので、それを実践で取り入れる。

 だが、それを可能にしたのは強化したヴァージニアがいるからだとハルトは本音で主張した。


『……何だこれ?』


 操作にもなれディスプレイを僅かだが眺めるゆとりが生まれると、初めてある事に気づく。敵が消滅する度に画面端に表示されるドロップアイテム『魔水晶のカケラ』。数は×989。ヴァニシングライダーには存在しなかった用途不明アイテムに戸惑う。上位ゲーマーは不確定要素は嫌う傾向があった。当然、ハルトもその部類。


『まただ』

「どうしたんだっちゃ?」


 何となく気になったので、脳内に映る怪訝な表情をしながら画面を覗き込んでいる相棒に声を掛ける。


『ヴァージニアさん、魔水晶って何なの?』

「魔水晶は魔族のコアだっちゃ。人間に置き換えれば魂に等しい」

『魂?』


 画面の説明文では、魔力の結晶体としか書いていない。


「そうだっちゃ。でも、魔族なら誰でもあるというわけじゃなく、本能を律する理性を持ったモンスターを超えた存在じゃなければならない。それ以外はカケラだっちゃ」 

「そう」


 何の参考にならなかったが、一応は頭の片隅に置いておく事にした。それだけの情報だけじゃ、保管量が有限であるかもしれないアイテムボックスの捨てる対象でしかない。せめて換金アイテムであればと一類の望みをかける。


「邪魔だ、どけぇぇ!」

「ぎゃぁぁぁア!」

「やめてくださイ!」

「うごゃ! み、味方を殺すのは重罪でス!」


 ソンゲンが味方を屠る度に、次のポイントへ狭い隙間を縫うように高速移動。この度にハルトは治安の良い国で育ったあまちゃんだから良心が痛む。とても、こんなエグい作戦を決行した同一人物とは思えなかった。


「逃げるなである! 臆病者め!」

「何だと!?」

『耳を貸さないで!』


 ハルトはコンディション変化を恐れ、激昂したパートナーを嗜める。


「わ、分かっているちゃ! お前に全部預けているんだちゃ、今だけは余計なことは考えない。でも、変態、もういい加減仕掛けてもいいんじゃないのか?」

『いや、ヴァージニアさん、まだだよ』


 移動出来る箇所も減っていき、そろそろではないかと、ヴァージニアは感情抜きにして遠回しに突撃を催促するも、ハルトには見えている景色が違った。


「……分かった、信じる。お前に全てを委ねるっちゃ」

『うん』


 だが、仲間達の仇を目前に頭では理解しても、無意識に操作が反発している事をハルトは察して口にしなかった。


 確かにハルトの作戦は功を奏し、先程の喧騒が嘘のようなゴミ屋敷を清掃した後の静けさがここにあった。

 だが、操縦者としては躊躇。体力ゲージが残りわずかなので、ソンゲンの攻撃力を測りたくても、即死は避けたいので慎重にならずをえない。

 せめて敵のステータスを確認出来ればと、ゲーマーとしてはこのクソゲーみたいな現実に悪態をついた。

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