第三話「武力100一騎当千VSアーケードゲーマー 月下の死闘」
金曜更新
止める予定でしたが、執筆速度を早めたので、当分安定した供給が出来るのでここまま行きます。
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「まだ、見つからんのであるか?」
「はっ、まだ、連絡はありません」
虎をも畏縮される鋭い睨みに、側近の同族にも緊張が張り詰める。
ソンゲンは少々焦っていた。もちろんヴァージニアの存在じゃない。もっと恐ろしいものが迫っている。魔族は結果が全て。結果され出すことが出来ればどんな事でも許される。だが、その逆に出来なければどんな名族または幹部、重職でも、死神から平等に死を賜る。それが、古代より続いている暗黙の習わし。
赤色の肌から冷や汗が流れ落ちた。
腹いせに側にあった大木をベアハックでへし折る。その上に腰掛けた。
「捜索隊の数を増やせである。バクリュウキョウが介入する前に何としてでも始末をつけるのだ。今、奴と事を構えるには準備不足。我輩がこの隊を物にするためには何としてでも手柄が必要である」
「はっ、心得ています。誇り高きオーガ族がトカゲ風情の風下にいるのは納得いきません」
オーガ族としてのプライドがこのような暴走行為及んだ事に、ソンゲンは何の反省もなかった。それどころか、実力主義の国の方針に異を唱える言動が常日頃から悪目立ちしてしていた。
「なにをしていル!?」
「ぎぁゃあぁぁア!」
「な、なんダ!」
何の前触れも無しに一部から起こった絶叫。
「来たであるか!?」
「何も見えませんガ?」
だが、密集していたので幾ら拓けた場所でも森林に百人では手狭。黙視出来なかった。一匹一匹倒れていく。
ソンゲンは巨躯に似合わない洞察力を駆使して探すが、いくら身体能力が高い鬼でも、この密集した兵の中から異物を見つけることは用意ではなかった。
「わざわざ戻ってきたのは殊勝な心懸けだが、往生際が悪いのである」
「まさか、まだ、起死回生が可能と信じているのでは?」
「たった猿一匹に何が出来る?」
少しずつ兵が減っていく中、ついにソンゲンは姿を捉えた。だが、敵の意表をついた前代未聞の戦法に驚愕する。
「何だと!?」
「ソンゲン様、これでは手が出せません!」
「ゴミの分際で小癪な事を!」
折ることに飽き足らず、怒りに震えた赤い拳が丸太を見事に粉砕する。
ヴァージニアは器用にもゴブリン兵の足を利用し、かいな力だけで低空飛行を実演していたのだった。そう、パチンコの原理を利用して、ヴァージニアが玉、モンスターを釘に見立てて移動していた。
仲間を盾に使われているので、これではソンゲンも容易に手出し出来ない。まさに小兵を利用した奇抜ながら理に適った兵法だ。これは攻撃であって防御、防御であって攻撃。兵士が沢山いたから可能にした奇想天外な攻撃方法であった。
「それでも誇りある魔族か!? お前ら冷静に判断しろである!」
「ソンゲン様、恐れながらそれでは敵の思うツボです」
そう、この場面では上官の的確な指示がなくては、臨機応変が効かないマニュアル兵では想定外に対処出来ない。
「死ネ!」
「うが、俺は味方ダ!」
「こっちにくるナ!」
「ぎゃあああ!」
味方は為す術もなく大混乱に陥る。見えざる者に恐怖し、中には戦線離脱する者も現れた。
勿論ソンゲンも例外ではない。軍学を蔑み、己の生まれと才覚のみを過信したこの男も、環境が激変した生物のように適用が難しかった。このような輩ばかりでは絶滅危惧種にでもなりそうだ。
「おかしい。体力と勢いだけの猪のはずだが、どうすればここまで激変するのであるか?」
「やぶれかぶれの捨て身では?」
「そうであるな。この魔界貴族オーガ族の我輩がゴミに翻弄されるなんて有り得ん」
苦労知らずの高い身体能力からくる慢心が、現実を見据えることができず、自身のまなこを曇らせていた。
先程とは全く違う変則的な動きに、魔族達は動揺が隠せない。
次々と仲間が沈んでいく。だが、ソンゲンは動かない。何故ならばこれだけの相手をしていたらスタミナを使いきって、尚且つ、最後は一直線にこちらに向かってくると踏んでいたからだ。
だが、常に予測とは外れるもの。ある程度減らした処でヴァージニアの軌道が変化する。剣を大地に差し、強制的に軌道修正。待ち構えていたソンゲンを嘲笑うかのようだった。
「鬼さんこちら、手のなる方へだっちゃ!」
「オーガ族をバカにするなである!」
「おまちくださ――、ぐべ!」
ベタな挑発だった。だが、「うおおおおおお!」あのワードは鬼族の禁句なのか、本能が理性を凌駕し怒りのゲージが簡単に頂点を突き破った。
部下が制止するも、カナズチで釘を打つ要領で頭を潰す。本能に近い単純な思考回路では軍の役職は宝の持ち腐れだ。
「ゴミの分際で遥か上位種であるオーガ族をおちょくるとは良い度胸である!」
「ウドの大木!」
「消し飛べ!」
あっかんべーっと、舌を出す。
対して逆鱗に触れたソンゲンは怒髪衝天。味方諸共棍棒でフルスイングで凪ぎ払う。されどヴァージニアは紙一重で躱し、兵士達を踏み台にしてジャンプ、トビウオよろしく別の密集地へとダイブした。
次々と五条大橋の牛若丸を再現しているみたく軽やかに武蔵坊の攻撃を避けきる。これが来訪したての異世界人が仕掛けた罠とは露知らずに、怒りに我を忘れた愚か者は自ら味方の数を減らしていく。
だが、最後の伍になったところで空気が変わる。
「――軍旗違反だソンゲン」
「え? あばばば」
ソンゲンは聞き覚えのある謎の声に、何も理解出来ないまま一太刀で胴から首が離れた。
「お前はバクリュウキョウ!?」
「先程の小娘か」
夕闇に紛れ気配を消していたトカゲの武人がその姿を現す。手に携えた愛刀からは、反逆者の血が滴り落ちてこの地を汚していた。




