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第二話「そして、僕らは一つになった」その六


「もう不意打ちは通用ないだっちゃよ」

『いや、まだいける』

「え?」


 ヴァージニアの体は無造作に右へ左へと剣を振った。敵に当たるか当たらないか微妙なラインで軽快に動かし続ける。


『弱パンチ、弱パンチっと』

「キキ、人間の攻撃など効かな……、なにッ!?」


 盾歩兵は雑草に足を取られて前のめりに転倒する。

 ここをヴァージニアはすかさず頭を数回殴打、「ギャァァァ!」最後に突き刺してとどめを刺した。

 これで煩わしかった敵の防御は無くなった。


「変態、何をやった?」

『あらかじめ、この周辺に雑草を縛って即席のトラップを作っておいたんだ。それで剣を振り回せば警戒して防御役が前衛に出てくる。そこをトラップに引っ掛かってくれたら……』

「後は殺せば良いだけと?」

『そういうことだね。いい作戦でしょ?』

「ふ、ふん、全然駄目だちゃ」


 苦戦していた身としては、素直に喜べない。


『とにかく、こいつら倒して早くここから離れようよ』

「……駄目だっちゃ」

『え?』

「変態、私は仇をとりたい。その力を貸してくれないか?」


 強気のハルトも流石に戸惑った。あの凶暴な鬼を到底一人で撃破出来るとはとても想像出来ないからだ。


『気持ちは分かるけど、無理無理。こいつらとは訳が違うんだよ?』


 その間にもゴブリンに対して、突いてきた槍を引っ張って転ばし、そのまま重心をかけて首を落とす。格ゲーで馴れたカウンターアタックがオートスキルの如く発動。その一連の流れる無駄がない動きは、熟練のプロと相手に錯覚させた。


「頼むだっちゃ」


 ヴァージニアは食い下がる。

 

『君が酷い目に合っても?』

「当たり前だっちゃ! あの鬼を殺す為なら悪魔にだって魂を売るっちゃ。そうでないと、もし生還できても仲間の親族達に赦してもらえない。それに私の師匠を……」


 深く握った拳から朱色の液体が絞ったレモンのように滲み出た。

 言葉の最後だけ執念または怨念みたいな負の気を感じ取ったのか、ハルトは口を噤む。


「言うことを聞いてくれるのなら、特別にお前を豚野郎と呼んでやるっちゃ」

『ぶひぃぃ、それ嬉しくなぃぃ!』


 豚野郎はノリが良いから思わず鳴いてしまった。


「おかしいだっちゃね、母が大抵の殿御はこう言えば大いに喜ぶって」

『いやいや、その知識、物凄く偏っているからね!』


 普通だったら親の人格を疑うべきだが、意外と世間知らずなお嬢様だった為、疑問に感じることはなかった。


「だったら、何でも一つ言うことを聞いてやるっちゃ。それに大丈夫、お前がいるから無茶はしない。倒せなくても、せめてあの鬼に一太刀浴びせたいんだっちゃよ」 

 

 ハルトは相手を牽制しながらもしばし熟考後、『……分かった。まだ隊長さんの操作に馴れていないから、初っぱなから飛ばしたくなかったけど、直ぐに逃げるのなら、力を貸すのはやぶさかではないよ』画面の体力ゲージが赤近くまで削れている現実に心配しながらも、縛りプレイをチャレンジしているみたいで、不謹慎ながらわくわくしている自分もいて驚いていた。

 でも、危なくなったら泣き叫ぼうが離脱するからと言葉を添え、一応血気盛んな騎士様に歯止めをかけておく。


「うん……」


 心はもう別にあるかのように短く承諾。

 出会ったばかりの挙動不審者に体を預けるのは不安だが、一子報いられる光明が僅かばかり差した今、選択肢は残り少ないヴァージニアにはこれしかなかった。


『ところで、隊長さんのお名前は?』

「重要な事なのか?」

『最重要事項だよ!』

「そうか……、そんなに私の事が知りたいんだっちゃか」


 少し優越感。吊り橋効果が働いているのかは定かではない。


「確かにお前の名前を知っていて私が名を名乗らないのは、騎士道に反しているっちゃ」

『因みに変態は名前じゃないないからね』

「……私の名はヴァージニア・ウィム・ソード。覚えておくっちゃ」

『ヴァージニアさんか……』


 それよりハルトは最初の間は何なのか気になったが、ゲーム以外無駄な労力はしない主義なのでこれ以上は問わなかった。

 

「改めて言われると照れるだっちゃ」

『これがないと何も始まらないんだよ』

「そ、そうか、そうだよね、何事もステップは必要だっちゃ」

『うん?』


 だが、時を移さずに、互いの思惑がズレている事実に気付く。


 携帯をいじって、『ゴットハルト、発進どうぞ』わざわざボカロで合成したナビゲーターで雰囲気を出す。もう、そこにいるのはパイロット。


『神 ハルト、重量級ヴァージニア・ウィル・ソード、出る!』


 リアルロボットの定番、発進シークエンスを決められハルトは満足顔。日本人はとにかく、名乗り口上系が大好きなのである。ラストに格好良く見得を切って後方が爆発したら感無量だが、大クレームがきそうなので思いとどめた。


「ちょっと待てぃぃぃ、私は太っていないっちゃぁぁぁ!」


 乗りに乗っているお馬鹿に即座に反応。流石は乙女。危機的状況でもそこは譲れない。譲れない。

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