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第二話「そして、僕らは一つになった」その三


「東にあるアシュレイ砦に逃げ込めば、父様がいる。私の事を話せば脱出の手助けをしてくれるだっちゃ」


 指で方角を示す。

 アシュレイ砦はシュレリア男爵:ソード卿の拠点であった。男爵でありながら広大な領地を支配。この広大な戦場、ゴルダ平原一帯は全てソード卿の支配下である。

戦功重ねて男爵位を複数所持しているから出来た。(生まれの身分が低いと、活躍しても特例か王族の鶴の一声がない限り、男爵が子爵になることはまずない)


「じゃ、僕がそこに行って助けを呼んでくるよ!」

「無理だっちゃ、今からじゃ日が暮れる。夜は魔族の時間。危険を犯してまで捜索隊を出すほど領主は私情は挟まないし、人情家でもじゃない」

「でも、君が!」

「騎士になった時から、こういう日が来るのも覚悟はしていただっちゃ。悔いはない」


 髪を表裏と弄びながら、瞳の色は沈み唇を噛む。言葉と表情が一致しない。

 

「私が死んでもここで惹き付けるから、その間に離れる――」


 残しておいた最後のミルクキャンディーを口に押し込んだ。


「何をすりゅ――、甘いだっちゃぁ」


 驚きから至福の顔へクラスチェンジ。

 この前、駄菓子屋の飴くじをトライした戦利品だ。少ない運で大当たりを引いたのだが、非常食用としてテッシュに包みポーチの底へ封印。大きめなので頬越しに転がっているのがまる分かりであった。


「テンパっている時は脳に甘い物を投入するのが一番だよ」


 飴ちゃん食べんしゃいのノリで、引きつってはいるが、少しでも緊張を解く事に貢献出来たのなら、駄菓子屋の婆ちゃんも本望だろう。


「隊長さん、もっと落ち着こうよ」

「お前、キモがすわっているだっちゃ。もごもご」

「まあね」


 でも、足だけマグネチュード8.4。耐震性偽造だったら積み木崩しのように倒壊していただろうか。


「ははっ、面白い奴だっちゃね」


 力は無いが両頬が自然と吊り上がる。


「お褒めに預かり光栄です」


 一人だったらおしっこチビってたよと、冷や汗をかきながら内心はドキマギしていた。


「でも、騎士として民間人を守るのは責務。残された選択肢は私が囮になるしかないんだっちゃ」


 聞き分けのない弟へ諭すように言って聞かせる。それと平行して、先程より覚悟が定まったのか、ヴァージニアは首にかけているお守りの水晶を握りしめ、まるで自身に改めて未練を断ち決意を固める儀式として言葉にしたみたいだった。

 

「で、でも!」

「うるさい!」


 鋭い蹴りがハルトを直撃、「ぐほっ!」転けたハルトの胸倉を掴み、「ぐぶ! ぐべ!」往復ビンタ、トドメに然り気無くおでこへキス。ミルクキャンディーの甘い香りが鼻孔をくすぐった。


「なななななな何するのぉぉ!?」


 不意打ちにうぶなねんねん風の後退り。


「それは助けてもらったお礼だっちゃ。ありがとう変態な勇者様」


 変態ネタ何時まで続くのかと思いつつも、照れが入っている太陽顔負けの満面な笑顔に心を奪われる変態勇者様。立ち上がりなおも食い下がろうと詰め寄ろうとした時、空間がハッチのように開き、「ノオォォォォ!」謎の大きな物体がスライドしてせりだしてきた。分かりやすく綺麗に纏めると、惹かれ合う二人を彦星と織姫のように別つとか切り離すとか表現した方がロマンスを感じるだろうか。


「いてて、一体何なんだよ! な――、ここここれは、我が青春、我が魂ではありませぬかぁぁ!?」


 クロスカウンター的な一撃が入った腹を押さえながらも、その事象を忘却したかのような思いの丈をぶちまける。

 そう、眼前にあるのはハルトが愛した多人数同時対戦型ロボットゲーム、『ヴァニシングライダー』のコックピットルームだ。

 だが、せりだしてきたのは、中身で、外部の球体ではない。何もない虚空から操縦席だけ飛び出してきた。まさにファンタジー。


 『4番』


 つい先程まで遊びに興じていたマシーンの番号。セロハンで固定しているので格好良い外見にミスマッチで目立っている。そこに手を重ねると、何とも言えない喜びと悲しみが沸々と込み上がってきた。

 4番機は元々欠陥品で操作性に不具合があり、ハルト以外使いこなせない事から、専用機になりつつあった。ライブで知名度が上がり客寄せ出来るので、店側も敢えて修理しないで放置している。


 その時、


 枝を踏みつける音を皮切りに、ハルト達に呼び掛ける威圧的な呼び声と無数の金属音を察知。


「どこにいる出てこイ!」

「隠れれても無駄だゾ!」

「出てこなければ、ここに火をかけル!」


 神という者、慈悲と無情は表裏一体だ。再び風雲急を黄昏と共に告げる。


「は、早く隠れないと!」

「……」


 ハルトはやり過ごすように促すが、相方は反応しない。まるでマネキンか魂でも抜かれたみたいだった。


「隊長さん、あ……」


 異変に気付くも、寄り添おうとした矢先、土から出ている根に足を捕られ豪快にもつれる。そのまま、「しまったあぁぁ!」操縦席に頭からダイビング、拍子にボタンをプッシュ、そのまま自動的にスライド、ハッチが静かに閉じた。

 

「くそぉ! 開けえぇぇぇ!」


 直ぐ様、開閉ボタンを何度も押す。でも、反応しない。再び狭い密閉空間に閉じ込められた。


「開いてくれお願いだ、このままじゃ、隊長さんが殺されてしまうよ!」


 硬いモニターの一部でもあるハッチを叩く。だが、幾ら訴えても無機物が反応する事は有り得ない。それでも、諦めていないハルトは、打開する手掛かりを探す為に見渡す。ギア、ハンドル、ペダル、二双のレバー、周囲を映し出しているビュジュアル。

 モニターが今いた現風景と変わらないものを投影していた。360度大パノラマを体感。違う点を挙げるのなら、そこにヴァージニアがいないことである。


「隊長さん、何処にいるの!?」

『な、何なんだちゃこれ? 頭から変態の声が聴こえる』

「よ、よかった!」


 ハルトは反応する自暴自棄気味なお嬢様に胸を撫で下ろすも、声は聴こえるが姿を確認出来ない現状に、まるでホラーにある殺害シーンの前振り状態みたいで不安が募る。今、恐怖を煽るようなBGMが流れてきたらお漏らし決定だろうか。あながち冗談ではなく、この短い間に再び外へ開放される方法が解き明かさなければ、本当に傍観者としてバッドエンドを視聴しなければならないから一秒だって気が抜けなかった。


 もう、何でもいい、この窮地を脱出する方法は何かないのかと、焦る気持ちを押さえながら記憶をなぞる。何故当初あのアングルだったのか、何故ヴァージニアの目の前にハルトは落ちたのか、この答えが分からないと先に進めないからだ。

 で、偏ったゲーム脳で導きだしたある結論へ繋がる。

 僕は誰かのアングルでこの世界を覗いていたのではないかと。


 ヴァージニアにも一通り説明するが、専門用語が多過ぎて理解不能の連続、いつ頭が沸騰してもおかしくはないぐらい戸惑っている。例えるならばサムライにパソコン、キャラバンに株、モーツアルトにボカロを説明するが如くだ。

 ここで気を保つ為、ナイフを器用に操りベルトの皮に新しい穴を明け締め直す。それに併せて悩める思春期アイズが観察している中、モニターの視点がヴァージニアの下半身を覗きこむ様に移動。


「ナイフ、ベルト、ズボン、ぱんつ、おぱんつ……、ああっ!?」


 無意識に連想チャンネルの周波数が合い、急に頭へ浮かんだワンシーン。

 直ぐ様永久保存していた脳内VTRを再生。パンツの事で容量一杯な為気付かなかったが、ここで初めてカメラとヴァージニアの視点が連動している事実に辿り着く。

 

『変態、何処に行ったっちゃ!? 声はすれど姿が見えない……』


 画面の視点が左右に動く。


「僕にも良く分からないよ。簡単に説明すると隊長さんと同化した……、と表現した方がいいのかな。それとも中にいる?」


 半信半疑気味に少ない脳細胞で自問自答。


『は?』

「原理は分からないけど、今、隊長さんと同じ景色を僕は見ているんだよ」

『うわぁぁ! 訳がわからないだっちゃぁぁ』


 スピーカー越しに鼓膜突き抜ける大音量高音ボイス&画面が揺れる、揺れる。頭をワシャワシャと掻きむしっているのだ。秋雨の置き土産で形成された水鏡に映し出される見事なハリネズミっぷりに哀愁を感じた。

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