8 討伐準備
「なぜだ? 盗まれたことからの恨みがあるなら自分で行けばいい。もしほっておいてもそのうち討伐されるだろう」
「ギルド員から聞いた話をしてくれたのは貴方だ。厄介そうな依頼で自分たちだけでは危ない。それに師匠作の武器を持っている貴方は相当な手練れだろう。師匠は自分が認めたものにしかに武器を作らない」
「俺はここでなくクノカクを探しに行ってもいいんだが。魔大陸の方の戦線にいるんだろ」
「戦線、そうはいっても広大だろう。手伝ってくれたなら連絡手段を」
「……リク。受けよう」
エリスが、そういった。
やはりなにか思うところがあったのだろうか。
……しかたがない、対人戦は嫌いなのだが、魔物の相手だけでいいかもしれないし。
それに、ここでの魔剣の鑑定が絶望的なところを見るとどっちにしろクノカクを探さなければならないだろう。
「わかった。具体的に何をすればいい?」
「依頼を受けて他の冒険者の介入がないようにしてくれ。あとは依頼の状況に応じて適当に。依頼報酬はいらない」
「何が目的なんだ?」
「ただ、ただこの工房の素材を取り返したいだけだ。店では扱っていない一級品の素材から大戦時に師匠が手に入れたもの、私たちがパーティとして手に入れてきたものもある。それを盗むのは……、許せない。自分たちで回収しておかないとギルドに持っていかれてしまう。それだけだ」
「わかった」
「貴方の剣の手入れをしておこう。空き部屋を貸すから今日は休んでくれ。明日に出よう」
「ああ、ギルドで依頼を受けてくるよ」
「わしらは明日の準備でもしようかの」
「そーだね! 大変そうだし!」
「リク……。私は」
「ここにいてもいいぞ。どうせすぐ帰る」
「いってらっしゃい」
エリスは本当にリク以外には慣れが早い。
慣れというよりリクとの出会いが悪かっただけかもしれない。
今頃気づいた。
こうして、晴れて面倒を背負うことになった。仕方ない流れだったかもしれないが。
商業区からまたギルドまで行かなくてはならない。距離があるためとても面倒に感じる。まさか往復することになるとは……。
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「! 受注してくださるんですか!」
「ああ、一人だがいいよな?」
「お、お一人ですか? 金等級冒険者とはいえ流石に危険では……。お連れ様もご一緒に受注してはどうでしょう? お連れ様の実力にもよりますが」
「……危険は無いと思うが。それにエリスは冒険証を持っていないんだが受注できるのか」
「はい。金等級冒険者様のお連れですし、例の盗賊を手刀のみで打ち崩す様子を私も見ております。実力的には問題ないでしょうね。受注した証があればクエスト中は一時的な冒険証代わりにもなりますよ」
「どうすればいい?」
「リク様とエリス様ですね。この受注証の名前の横に母印をお願い致します。王都の門ではこれを照合して冒険証代わりになりますので、出立前に押しておいてください。あとは報告のときに持ってきてくださればいいので。では、エリス様の責任はリク様にありますがよろしいでしょうか」
「それで受注させてくれ」
「かしこまりました」
書類にリクとエリスの名前のを記入してその後、職員が自分の名前をサインする。そして朱肉を差し出した。
「リク様はここで母印を押して頂けますか? あとプレートをもう一度お願い致します。記録をさせていただくので」
リクは金のプレートを提出して母印を押す。
よし、あとは鍛冶屋に帰って____。
「えっ!? これは……」
「その記録は気にしないでくれ。ちょっと特別なんだ」
「お、お一人でも大丈夫だったかもしれませんね…………」
「そうでもないさ」
お金の引き出しのときは関係ないため見なかったのだろうな。
職員が冷や汗を垂らしながら見る記録の表示画面にはリクの依頼達成履歴が表示されていた。
そこには一人で乙種難度依頼を達成しているという記録が。通常は数人単位で挑む依頼、乙種難度を、だ。そうでもないさ、とはいうもののまぁまぁ謙遜だ。
もちろんあほみたいな多くの魔物を一斉に相手にできるわけではない。ある程度はどうにかなるが、何十人もの金等級冒険者で挑むような数の魔物が出てくると、死なないとはいえどうすることも出来なくなるだろう。だが多少の不利なんかには影響されない程度、生まれ持ったものと長く生き磨いてきた技術が、さらには決して死なない体が組み合わさり、不可能を可能にするのだ。
ドラゴンさんとかは甲種難度というさらに上の難易度の依頼なのだが、本当に死なないまでも死ぬ気で死ぬほど頑張れば、結果リクは死なないのだから、倒せるだろう。技術や装備が未熟ならばダメージを与えられないなんてこともあるようなドラゴンさんだが、リクはそんなことはない。いつか倒せる。戦ったことないけど。
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エリスのプレートを作っておいたほうがいいかもしれない。
一気に金等級に、というのは無理かもしれないが銀くらいなら、クエストを達成知った後になんとかなるかもしれない。終わったら報酬としてねだってみよう。いくらか手続きや昇級面接なんかを飛ばせるかもしれない。
ちょっと悪い笑みとともにモチベーションが生まれた。
「えー、ではですね。その、プレートをお返しいたします」
「おう。じゃあ報告のときに」
「は、はい! ご武運を!」
着々と、準備は整うのであった。