5 財布
「なるほどのう。お嬢ちゃんも不老不死じゃったか」
「おじいさんは何者」
「わしはただの商人じゃよ。そのわっぱの事情をしっておるだけじゃ」
「まぁもちろんそれだけじゃないがな。伝手がすごいらしいぞ。昔は冒険者でメイジだったとかいう話も聞いたぞ」
「……そう」
「まぁ色々やっておっただけじゃわ」
リクたちは椅子に座ってジジイに説明をした。リクのことは前パーティの時に話をしている。今はエリスのことについての話だけだ。
まぁこのジジイは一般市民じゃない。ちょっと特殊な方だ。別に通報とかはされないだろう。
ついでに魔剣も見せてみたがなにもわからなかった。禍々しいからしまえと言われたくらいだ。
きれいだと思うんだがな。
「黙っててくれよ?」
「ああ、わしはかまわんわい」
「……ありがとう」
「いいんじゃよ。面倒ごとに巻き込まれたわけじゃないしの。実際に見れば危険かどうかなど判断できる。それに簡単に死ぬほど軟ではないのじゃよ」
「だろうな。採寸はおわったし、そろそろいくか」
「……うん」
「待て待て、このフードは調整が終わっておるぞ。もっていけ。いくつか簡単な付与ならつけてやるがどうする?」
「気配遮断を。エリスはなんかあるか?」
「それだけでいい」
「うむ」
ジジイは頷くとフードに手をかざし小さく口を動かす。
フードの上に小さな魔方陣が浮かび上がる。
「これでよいぞ」
「さんきゅな」
「おうおう。金はまとめてあとで請求するから来るんじゃぞ」
「……はい。またあとで」
そういってリクとエリスは店を出た。エリスはフードをかぶり替えている。
店内側の取っ手はあまり汚くなかったので普通に開けた。
次は服だ。あとギルドから貯金の引き出しもしておかないとジジイの店のものは手持ちの金では足りない気がする。服を買った後に王都のギルドに行かなくては。
店のある路地から出て通りを歩く。
さっきリクが貸していたフードは茶。今エリスが被っているフードは白。今のほうが目立つ気もするがそこはジジイの付与。しっかりと機能しているようだ。付与が効いているなら顔を隠す必要もないだろうが、念のためだ。
「服は目星がついている?」
「いや、服の店は全然でな。気になった店があったらそこに入ろう。どこでもいいぞ。たぶん買ってやれる」
「……ん。ありがとう。あそこでいい」
少し歩いた後、エリスが指さした店は……なんというか、普通だった。通りに構えている店だけあり表はきれいにしてあるし、ある程度の大きさだ。これで店内は汚いなどということはないだろう。ジジイの店とは大違いだ。
店に入ると内装も普通だった。無難な感じでちょうどいい。高級店に入ると貴族用の高級衣類だとか、あほみたいな手のかかる付与のされた小物だとか売ってるとこがある。もっともそんな店は貴族の居住区に行かなければそうそうないだろうが。
冒険者なら高級装備が欲しければ付与は自分でするだとか知り合いに頼むだとかあるし、素材を自分で採ってきて仕立ててもらった方が安い。伝手も知り合いもなしだと、そういうものができるまで冒険者は大変かもしれない。自分はその苦労を味わうことはなかったから幸運な部類だろう。
「いらっしゃいませ。どのようなものをお求めでしょう」
「頑丈な薄手のシャツと丈の短い厚めのパンツはある?」
「はい。こちらへ」
エリスが無茶な注文をした気がするがそんなことはなかったのだろうか。店員さんはちゃんと対応をしてくれている。
店員さんについていくエリスについていくリク。入り口で待っててもいいかな。
「こちらのもので全部です。どれにいたしますか?」
「これで」
エリスが肌に張り付くような生地の黒いインナーと同じ色のシャツ。そしてジーンズ生地のホットパンツを手に取って言った。
「あと、下着おいてる?」
「あります」
「おねがい」
「カウンターのところで待ってるからな!」
まぁついていく意味もないからな。
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「お買い上げありがとうございましたー」
満足げな顔の店員が後ろで見送ってくれている。思ったよりも高かったため手持ちの金がほとんどなくなってしまった。無難とか普通とか言ってたやつ誰だ。相場が変わっていたみたいだ。危ないところだった。
エリスさんの格好はだいぶきれいになっている。白いフードと黒いインナーの上にシャツ。ホットパンツも買いたてのきれいなものだ。胸当てなんかはジジイの店に置いてきたためいまはつけていない。
……金を引き出してこないと。
この後のジジイ店と鍛冶屋での出費を考えると胃が痛いなあ。
イベントが……思いつかないです……。