10 依頼道中②
先からさらに数時間、景色は草原のままほとんど変わらない。のどかにゆっくりと時間が過ぎていた。
馬車や冒険者とまったくすれ違わない。田舎である。いや、辺境といってもいいか。
二股の道に差し掛かった。右は町へ、左が洞窟へ行く方の道だ。
つまり進むのは左。
左へ行くとこれ以上先は町や村なんかはない。
王都に近いにもかかわらず町や村が全くない地点があるのは大戦の時に戦場となったからである。だからといって町なんかが作れないわけではないが、進んで作ろうとは思わないだろう。
戦場跡地ということで、少し強い魔物が発生するもとになる”魔素”が多いかもしれないが土地が死んでいるわけではない。人口が増えると開拓されるかもしれないな。
依頼の洞窟は今すすんでいる草原の先にある森を抜けて少しらしい。地図を見た感じ、このペースだと二日もかからず早く着きそうだ。
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森は普通より良質な木材が取れるらしい。そのため森の中でもある程度の道はある。やはり早く着きそうだ。
良い木材、というのは魔素が関連したりするのだろうか。なんだか不気味な模様の木がちらほら見える。きもい。
ノクファイトはそれが珍しくないのか無反応だ。職人だから素材として目にしたことがあるのかな。
二匹の馬が嘶いて止まる。魔物のようだ。すこし大きめの犬の魔物だった。当然だが蛇よりは強そうだ。
前方から六匹。犬ころなど敵ではない。
リクはノクファイトとともに馬車を降り、抜刀する。
犬が警戒するように唸った。
「どうしたのー? ついたの?」
「魔物だ。六匹だからすぐに終わる。 ……あと四匹」
ノクファイトが魔物を切り捨てて言った。黒髪が軽く舞って、一瞬。リクの遠い昔の師匠を思わせる動きだ。かっこいい。
師匠のほうがかっこいいけど。師匠は大太刀でノクファイトは小太刀二刀。武器は違うのだが、黒髪という共通点から連想してしまったのだろうか。師匠は女性なのに、ノクファイトから連想してしまって少し申し訳ない。ノクファイトくん美形だししかたないね。
そんなことを考えるリクも二匹を一呼吸に切り裂いている。当てれば切れる武器なのだ。振るうだけ、力は入れていない。
それと、やっぱり鍛冶屋って強いんだ。そういえばクノカクも強かったな。
「座りっぱなしでお尻と腰が痛いんだー。少し運動させて?」
「どうぞ」
「よいしょっと」
年寄りくさい声をあげながらヴァルカが出てきた。エリスとセネカは戦うつもりがないのか声すらかけてこない。
両手に黒い皮手袋をしている。強そう。
そんなヴァルカは魔物が二匹いるほうへ歩いていく。強そう。
仲間を四匹も瞬殺された犬は牙をむきだし、近づくヴァルカにとびかかる。
「これは防刃手袋でねー。すっごい頑丈なん__だッ!」
リクに説明してくれているのか、そんなことを言いながら……。
次の瞬間、インパクト。
犬の頭が空中で押しつぶされたように見えた。それほどの強撃。
犬の魔物は吹き飛んでいく。命はないだろう。
にしても……このパーティ強くないか。
ついていく意味がないような気がする。
長く生きた金等級冒険者といえど、なかなか見ることのない魔物が殴られて飛んでいくという光景。昔の大戦の時でも人がやっているのは見たことがない。ゴリラみたいな魔物がよく人間相手にやっていたやつだ。
驚きからリクは敬語でヴァルカに尋ねる。
「ヴァルカさん。今、この攻撃時にあなたは肉体に強化魔法を使いましたか?」
「いいえっ! リクさん、あたしのこれはこの身一つだよ!」
「私はパーティの中でも最弱……」
ノクファイトがそうつぶやいたのを、確かに耳にした。




