プロローグ
『決まったーーーー!!!! 24分32秒! 24分32秒!
挑戦者氷室いずみのハイキックが! 王者ミシェル・インフェルノを捕らえた!
最後の力で覆いかぶさるようなフォールで決着!
王者交代! 王者交代ですよ、解説の吉田さん!』
『ええ、今のは見事でしたね。膝蹴りで動きを止めてからの側頭部への一閃。まさに氷室選手の死神の鎌が王者の首を刈り取ったと言えるでしょう』
『そうですね! まさしく、氷室いずみの死神の鎌でした! ベルトを受け取る氷室の目には、涙が見えます! いかがですか吉田さん』
『団体発足から3年、このベルトが創設されてから14ヶ月。初代王者決定戦で氷室が敗北を喫し、外様の初代王者ミシェル・インフェルノから誰も奪えなかったこのベルト。それを氷室選手がエースの意地で手にした、といったところでしょう』
『そうですね! このベルトを取れなかったことで、これまで氷室選手は仮エース、はりぼてエースなど心無い呼び方もされていましたが! これで真のエースとなったと言ってもよいでしょうか吉田さん!?』
『真の、ということではここからでしょうけれど、最初の一歩をようやく踏み出せたと言うことかもしれませんね』
『なるほど! これからの氷室選手の活躍に期待しましょう! さて、シャングリラ旗揚げ3周年記念興行、ディファ幕張よりお送りしておりましたが、放送時間も後僅かのようです! 解説は週間女子ゴングの吉田さんでした! 吉田さん、ありがとうございました!』
『はい、ありがとうございました』
『実況はわたくし瀬古が、お送りいたしました…………
時は女子プロレス戦国時代。女子プロがエンターテイメントの上位コンテンツとしてもてはやされる時代。
新興の女子プロレス団体『シャングリラ』の3周年記念興行メインイベント。
シャングリラ無差別級シングル選手権試合、王者ミシェル・インフェルノvs挑戦者氷室いずみ。
この試合は後々語り継がれることになる名勝負であった。この試合に感化された少女たちは多く、シャングリラへの入団希望者の増大に繋がっていった。
そして、ここにも……
「お兄ちゃん、女子プロレスってかっこいいね!」
「だろう、だから一度見てみろって言ってたんだよ」
「はー、これはすごいやー。あたしにもできるかなー」
「うーん、お前チビだけど体力はあるからな。練習生くらいにはなれるんじゃないか?」
「練習生かー。どうやったらなれるんだろう」
「専門誌に時々新人募集の広告見るから、そういうので応募してるんじゃね?」
「おー、なるほどねー。ふむー」
「おいおい、本気じゃないだろうな、ケイ?」
「えへへ、どうだろうねー」
「やっぱり、女子プロレスラーってカッコいいですねえ! はあ~、氷室さんかっこいいなあ」
「ほんとにねー。なりたいんでしょ、女子プロレスラー」
「はい! 私、中学を卒業したらシャングリラの練習生に応募するつもりです!」
「そこまで考えてるんだ、雪江は」
「はい! どうですか、あっちゃんも一緒に」
「え、あたしはいいよ! てか巻き込まないで! 見るだけで十分!」
「ええ、そうですか? 残念ですねえ」
「もう~、驚かさないでよ~」
これは、四角いリングという舞台で戦う熱き乙女たちの物語。
少女達は新たなるヒロインになるべく、第一歩を踏み出すのであった。