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四月一日

作者: 瀬戸内檸檬

四月一日と言えばみなさんは一体何を思い浮かべるだろうか。ちなみに今言った"四月一日"というのは同じ"四月一日"でも"四月一日"と書いて"わたぬき"と読む苗字の一種ではなく暦の上での"四月一日"のことである。

さて、ここまで四月一日を連呼していればいくら察しの悪い読者の方々でもこの物語の舞台設定が四月一日である事は容易に想像がつく事だろう。

え、何? もしかしたら四月一日と見せかけて三月三十二日かもしれないじゃないかって? ではこの物語の主人公である俺が今ここで宣言しよう。今日は四月一日である。よってこの物語の舞台設定は四月一日である。Q.E.D. 証明完了。



完璧な照明を見せつけたところで本題に戻ろう。

すでに本題をお忘れの鳩のように明晰な頭脳をお持ちの読者様のために繰り返させていただくと、四月一日と言えばみなさんは一体何を思い浮かべるだろうか。ちなみに今言った"四月一日"というのは同じ"四月一日"でも"四月一日"と書いて"わたぬき"と読む苗字の一種ではなく暦の上での"四月一日"のことである。

さて、ここまで四月一日を連呼していればいくら察しの悪い読者の方々でもこの物語の舞台設定が四月一日である事は容易に想像がつく事だろう。

え、何? もしかしたら四月一日と見せかけて三月三十二日かもしれないじゃないかって? ではこの物語の主人公である俺が今ここで宣言しよう。今日は四月一日である。よってこの物語の舞台設定は四月一日である。Q.E.D. 証明完了。という事である。



天丼もこのくらいにしておいて話を進めよう。四月一日と言えばみなさんは一体何を思い浮かべるだろうか。

入学式? 違う。辛く苦い(からくにがい)高校受験を乗り越え新たな出会いに胸躍らせる新入生も季節一回り分の高校生活を経て「ああ~、来年はもう大学受験かあ。だるいなってか高校だるいな、始業式サボるか」なんて考えるベテラン高校生へと進化する今日この頃。ベテラン高校生もとい高校二年生の俺にとっては入学式なんて、明るい高校生活を夢見て顔を輝かせる一年生達や高校最後の一年間を前にちょっとしんみりした空気の三年生達を眺めながら、理想と現実のギャップに少しづつ目から光が失われていく一年生の姿や受験や就活を前に阿修羅と化す三年生の姿を楽しみにする程度の取るに足らん行事である。

そんな何の変哲も無い四月一日の朝、事件は起こった。いや、起こされた。

他でもない彼女の、一聞たわいない一言によって。


如何にしてそんなたわいない一言が世紀の大事件を引き起こし得るのか。それを説明するためにはまず彼女自身について説明させていただこう。彼女は変人である。

あれは昨年の五月、春も終わりを迎えて何と無くみんなの顔と名前が一致してきたかな、なんて時期に最初の事件は起きた。

あんまり長ったらしい言い回しを考えるのも面倒になってきたので一言で言うと彼女は授業中に炊き込みご飯を炊いていたのだ。それは中休みが終わりちょっと小腹も空いてくる三限目、数学の授業でのことだった。憐れな事に新任だった数学教師は、炊き込みご飯の香り立ち込める中で終始困惑顔のまま授業を行うことしかできなかった。


不幸にも彼女の隣の席だった俺は、奇遇にも開けっぱなしになっていた窓から吹き込む爽やかな春の風が運ぶ炊き込みご飯の芳しい香りのダイレクトマーケティングを受けながら、未だ授業中にもかかわらず一人颯爽と炊きたての炊き込みご飯を腹にかき込む彼女の姿を恨みがましい目で見つめていた。

後でこっそりおこげの部分を一口もらった。彼女は優しい変人なのだ。


「炊き込みご飯は炊きたてに限りるじゃないですか」とは怒り狂う生活指導の教師を前にした彼女の談である。

反省文百枚を命じられた彼女は実に百種類もの炊き込みご飯のレシピを書き上げ、少なくない数の教員がそれをこっそり持ち帰り日々の献立に悩む主婦を喜ばせたと言う。生活指導の教師は彼女への指導を諦めた。

実に賢明な判断だった。



そう、これはあくまで最初の事件である。最初と言うからにはその後にもいくつかある訳で、女子トイレお化け屋敷化事件や教頭先生後頭部ミステリーサークル事件など、例を挙げるときりが無い。

このように重大な事件以外でも、左右で別々の靴を履いているなんていうのは最早日常茶飯事で、トランポリンの上で縄跳びの二重跳びを百回跳んだり、調理実習でフレンチのフルコースを完成させたりと何かと話題に事欠かない変人の鑑のような彼女ではあるが、それらの事件等については今回は割愛させていただく。

このあたりで今日、四月一日に話を戻そう。


早朝、俺は誰よりも早くクラス編成を確認するため日の出とともに家を出た。人っ子一人いないグラウンドを明るく照らす朝日を背に、クラス編成の張り紙を眺める。実に素晴らしい。

ひとしきり眺めて満足した俺は、充実した気持ちを胸に人気のない校舎へと足を踏み入れる。二年生の教室の前まで着いてからふと気がついた。人気がある。彼女が、いる。

おかしい、彼女は朝が弱くいつも遅刻ギリギリに学校に着くはずだ。こんな朝早くから学校にいるなんて、天変地異の前触れか。あまりの驚きに俺が歩みを止め彼女を見つめていると彼女も俺の姿を認識したようで、少し気まずく思いながら挨拶を交わす。俺が適当な席に着いた途端、彼女は開口一番にこう言った。


「今日って四月一日だね」


これが彼女以外の人間が発した言葉ならば「そうだね、プロテインだね」などと返して容易く会話を続けることができただろう。しかし残念ながら相手はあの名だたる変人の彼女だ。わずか一年のうちに数々の伝説を残し、対高校生のプロフェッショナルとも言えるベテランの教頭先生の頭皮を涼しくしてなお、彼女の変人ぶりは今日も止まるところを知らない。

そんな彼女が! わざわざ! エイプリルフールの今日この日に「今日って四月一日だね」なんて白々しい前置きをして! 一体何を成し遂げようとするのか想像もつかない俺は、まな板に乗せられたこんにゃくのように震えながら次の言葉を待つことしかできない。ブルンブルン。

そんな俺の心境を知ってか知らずかは定かではないが、したり顔の彼女は得意げにこう言った。


「私は今嘘をついている」



嘘つきのパラドクス!!!!!

長編ファンタジーやゾンビものの構想を練っていたら四月も半ばだと言うのにこんなものを書き上げてしまいました。

季節外れの季節ものですがご閲覧ありがとうございました。

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