6話目
次の日、僕は施設の資料室で、該当する資料を探した。すぐに見つかった資料には、当時の状況や犠牲者の事が細かく書かれていた。
資料を見ても、あの事件は不可解な点が多い。
爆発の後に、半径10kmの狭い範囲で、強い地震が起きていた事。
瓦礫に埋れた地下階の壁に、爆発や地震ではつく筈の無い、無数の引っ掻き傷が刻まれていた事。
生存者が一様に、数日間、高熱で意識がなかった事。
そして、2人だけ、遺体の一部すら見つからなかった事。
忽然と消えた2人の名は、玄田真琴と鈴城笑太。
ようやく、僕は、彼らと彼らを取り巻くモノの真実を知った気がした。
しばらくして、僕が1人で食堂に居る時に、白い彼が現れた。
僕は正直に、上司から彼らの過去を聞いたと告げた。彼は、じっと僕を見つめて。
「…そっか、聞いたんだ」
静かに言った。
「…あの…」
「別にね、知られたくない訳じゃないから、安心していいよ」
彼が、どこか寂しそうに笑う。
目の前から居なくなって、もう現れてくれなくなりそうで、僕は必死に言葉を探した。
「…あの…っ、重守さん、きっと、2人の事が心配だったんです。だから、寂しい思いしないように、僕に話してくれたんだと思います。だから…っ」
必死で言葉を紡ぐ僕に、彼は、ほわんと微笑む。
「知ってるよ、シゲさんの優しさだって。あの人、昔からそうだったから」
彼の笑顔は、嬉しそうな、ほんの少し泣きそうな笑顔だった。
あれから数年過ぎて、僕にも後輩がたくさんできた。仕事も順調に覚え、今では任される仕事も増えた。
先輩は、今では管理職に就いていて、かなり忙しいらしい。仕事を僕に押し付ける為に、自分の部署に引き抜こうと躍起になっている。
上司は一年前に定年退職した。くれぐれも彼らの事を頼む、と念を押された。上司とは、今も定期的に会っていて、僕から彼らの近況を聞くのを楽しみにしていた。
そして、彼らは相変わらず、僕の元を訪れる。
「…で? 今度の休みはいつ?」
「水曜と木曜。久し振りの、本当の休日だよ…」
疲れ気味の溜め息を吐く僕の隣に、黒い彼が座っている。作業をする僕の手元を楽し気に見つめ、弾んだ声で質問してきた。
「へぇ、やっとか。シゲに会いに行くんだろ?」
「そう。前回も、その前も、急な仕事で休み潰れたからね。今度こそ絶対休んで会いに行く」
力説する僕が可笑しかったのか、彼は声を立てて笑う。
「そりゃ、シゲも楽しみだろ」
そう言って、彼はニヤリと人の悪い笑みを浮かべる。
「今度の休日も、潰れなきゃ良いけどな」
「…うわ…、クロさん、意地ワルい…」
僕が心底嫌そうに返すと、彼は、また声を立てて笑った。
僕の勤める職場には、ほんの一握りの人しか知らない秘密がある。それを知る事は、難しい事では無いが、簡単でも無い。
いつか、僕が知ったように、ここに勤める誰かも気付いてくれるだろうか?
そして、僕は、上司から真実を伝えられたように、誰かに伝えていくのだろうか?
出来れば、そうあって欲しい。
彼らの事を忘れないように。
彼らが、寂しい思いをしないように。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。
拙いお話で恥ずかしいですが、少しでも気晴らしになっていれば嬉しいです。
これで、このお話はお終いです。
お疲れ様でした。