表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影遊び  作者: はなび
4/6

4話目



僕が、彼らに(まつ)わる小さな事件を起こしたのは、梅雨の合間の晴れた日の事だった。

その日は休日だっので、遅く起き出して、昼食がてら朝食を摂りに遅めに食堂に行った。

中途半端な時間なので、食堂を利用する職員の数も少ない。あと30分もすれば、今度はランチで混み合う。僕は端の席に陣取り、ブランチを楽しんだ。

梅雨の晴れ間は貴重なので、今の内に買い物に行こうと思っていた。どこに行こうか迷っていると、足元が急にひやりとした。

その感覚に覚えがあって嫌な予感がしたので、机の下を覗く。

ゆらり、と、影が揺れていた。

叫び声を上げそうになって、僕は口を手で覆う。

彼らは、と周りを見回したが、姿は見えない。

足元の影は、眠た気にゆらゆらしていたが、その内、不機嫌そうに震えだした。

これ、ヤバいやつだ…。

視線を巡らし、周りが気付いていないのを確かめる。今のところ誰も気付いていない。

一瞬だけ迷って、僕は、彼らがしていたように影を足で払った。何度かやってみたが、効果はなかった。

影の震えは大きくなっていて、徐々に闇色に染まっていく。

彼らは、どうしてたっけ?

僕は必死に考えて、彼らが素足だったのを思い出した。

周りをもう一度見回し、誰も見ていないのを確認して、僕は素早く机の下に潜り込む。ふるふる震える影に、手でそっと触れた。

ふに、と柔らかい。

さらっとしていて、仄かに温かかった。

なんだか小動物みたいだ。

僕が触れると、影は次第に大人しくなって、色も透明に戻っていった。その内、僕の指にじゃれついて遊びだす。

しばらく遊んでやってから、僕は影に囁いた。

「…ここに居ちゃ駄目だよ、早くお家に帰りな…」

影は返事をするように、ゆらりと揺れて消えた。

ほっと一息吐いて机の下から這い出ると、驚いた顔の先輩が、机の向こうに立っていた。

「……」

「…おま、え…あれ…」

先輩は、言葉を詰まらせて机の下を指差す。

「…えーと…」

僕は言い訳を探すが、何も出てこない。気まずくなって、先輩から目を逸らしたまま呟いた。

「…そのまま放置、は出来なくて…」

「…お、おまえな、あれ、ヤバいだろ…!」

小声で(たしな)められた。

「…あー、悪いモノじゃないのは、知ってるんで。あの2人の真似すれば下に帰せるかな、って」

バツが悪くて頭を掻きながら答えると、先輩は口を手で覆って、大きく溜め息を吐く。思い切り呆れた顔をされた。

「悪いモノじゃなくても、危険なモノかも知れないだろ。ホイホイ手ぇ出すな」

先輩は向かいの席に座りながら、僕に説教した。

僕が、すみません、と小さくなって謝ると、先輩はもう一つ、溜め息を吐く。

「…ま、おまえらしいっちゃ、らしいんだが…。あんまり無茶するなよ?」

先輩は心配そうに言うと、くしゃくしゃと僕の頭を撫でた。

そのまま席を立った先輩を見送って。

僕が急に倒れて、食堂が大騒ぎになったのは、それから30分ほど経ってからだった。



僕が倒れた後の事は、ほとんど憶えていない。医務室に運ばれた時には、意識もなかったそうだ。

高熱が出ていたが原因も分からないので、一晩、医務室で様子を観る事になった。

僕が目を覚ましたのは、真夜中を少し過ぎた頃だった。

ふと、冷たい何かが額に触れた感触に、意識が引っ張られたのだ。

目を開けると、黒い闇…の端に、銀の模様。

ああ、クロさんか…。

「……クロ、さ…?」

出ない声で問いかけると、僕が目を覚ましたのに気付いた彼が、そっと手を引いた。

「目、覚めたか? もう大丈夫だな」

彼は優雅に笑う。

「あんまり無茶するな。アレは悪いモノじゃないが、人には毒だ。もし触れてしまった時は、早目に流水で流すか、氷水で毒を追い出しな」

分かったな、と彼は僕に教え諭す。僕が頷いて答えると、彼が、堪えきれないように笑い出した。

「…しかし、アレに生身で触れて倒れたバカ見たの、久し振りだ。シロ以来だよ」

「……ぇ……?」

「大昔に、シロも同じ事やらかしたんだ。あの時は、2、3日ぶっ倒れてたけど」

楽し気に笑って、懐かしそうに目を細める。

どういう事?

僕が聞こうと口を開く前に、彼は僕の瞼を手のひらで覆う。

「もう少し眠りな。朝には毒は抜けてるから」

優しい声と裏腹に、その手は冷たかった。感触は人のものなのに、今の季節にはあり得ない冷たさだ。

まるで、石みたい。

でも、高熱の出ている僕には、その冷たさが気持ち良かった。

眠りに落ちる寸前に、ありがとな、と、彼の呟きが耳に届いた。



ありがとうございました。


影ちゃんのイメージは、赤ちゃんのほっぺです。ふにふにもちもちです///


そして、主人公とシロさんが、実はバカだと判明しました…_| ̄|○

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ