表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影遊び  作者: はなび
2/6

2話目



次の満月の晩、僕は北の庭園に来ていた。

当日の夕方まで、行くかどうか散々悩んで、結局、先輩の助言と好奇心に負けて来てしまった。

夜の庭は底冷えする。厚着をしてきたが、長時間待たされると真から凍えそうだ。

夜空は雲もなく澄んでいて、満月が白く浮かんでいる。溜め息を一つ吐くと、白い吐息が夜空に溶けた。

月の白い光が強くて、星は息を潜めて瞬いていた。庭は月明かりで仄明かるく、広場になった場所に、うっすらと植木の影の輪郭を写す。

ずっと待っていても、誰も来ない。時折、植木の枝がさやさやと風に揺れるだけだ。

帰ろうかな。

そう思った時、後ろから声をかけられた。

「早かったな。ちゃんと来たか」

後ろに立っていたのは、彼だった。

上機嫌な彼は、広場の入口の植木の側に僕を連れて来ると、

「ここで観てな」

と言った。

そして、彼は広場の中央に戻ると、しきりに地面と月を見比べる。

相変わらず、彼は黒の着物一枚を着付けただけで、足も裸足だ。見ている方が寒くなる。

「…寒くないのかな?」

思わず口にした僕の言葉に、

「うん、寒くないよ」

背後から、誰かが答えた。

勢いよく振り返ると、広場に立つ彼と同じ格好をした人が、もう一人。

色だけ違って、こちらは、真っ白の着物に金の帯を結んでいる。裾にあしらわれた刺繍も、同じ柄で色だけ金だ。

白い着物の彼は、僕の横を通り過ぎる。

「遅い、シロ」

すかさず、彼から文句が出た。

「うん、ゴメン、クロさん。寝過ごした」

もう一人は、ほわりと笑う。

「珍しいね、今日はギャラリーがいる」

「俺のご招待」

「へぇ、本当に珍しい」

「そりゃ、お気に入りだからね」

自慢気な彼に、もう一人が、あはは、と笑い返し、彼と背中合わせになる位置に立った。

「もうそろそろ?」

月を見上げた彼に、もう一人が地面を見つめて訊ねる。彼は、ああ、と短く返事した。

僕も、彼らに倣って地面を見てから月を仰ぎ見る。

月は真上で、冴え冴えとした白い光を放っている。

さわ、と地面が蠢いた。

影が、ゆらゆらと地の底から這い上がって来る。月明かりで明るいはずの広場が、ゆっくり闇に呑まれる。影は眠た気に揺れていたが、次第に不機嫌そうに震えはじめ、その色彩(いろ)を濃くした。空気に不穏な気配が混じる。


きぃーーー…ん


突然、耳鳴りがした。頭に響く。あまりの酷さに耳の奥が痛い。

彼は僕に振り向くと、

「耳、塞いでな」

ジェスチャーしながら言った。

彼の言う通りに耳を塞ぐと、少しはましになるが、それでも頭に響く。

広場は、何時の間にか濃い闇に包まれていて、どこかどんよりしている。蠢く影たちが造る闇だ。心なしか、周りの温度も下がっている。

彼らは、影が造る闇を穏やかに見つめ、空気を払うように一度、袖を振った。

ふわり、と彼らが舞う。お互いが立っていた場所を中心に、同心円を描きながら、風を切るように舞った。

裾を捌く素足が、闇色の影を払う。彼らが触れた部分から、影の闇色が溶けて透明感が戻る。何度も同じ事を繰り返しながら、彼らは軽やかに舞った。

優雅で、でも、どこか愛嬌のある舞だ。

徐々に透明感を取り戻す影が、彼らを追いかけてじゃれついている。まるで遊んでいるようだ。

いつしか魅入っていた僕が、思わず、わぁ、と感嘆の声を上げる。その声に反応して、彼らがこちらをちらりと見やった。

いいモノ見れたろう?

黒い着物の彼が、優雅な笑みを浮かべた。

やがて、遊びに満足した影が消えて、彼らの着物の裾が地面についた時、彼らの姿も忽然と消えた。



ありがとうございました。


クロさんとシロくんの舞は、結構スピードがあります。くるくる回ってるので、踊ってる本人たちの目が回らないか、心配です(笑)


…2人共、足癖悪い訳じゃないですよ、ちゃんと理由あります…(汗)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ