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影遊び  作者: はなび
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1話目

ほのぼの系の、不思議なお話の始まりです。


優しい、ほんわりしたお話を目指しますが、若干、避けられない内容により、残酷な表現が入ります。

ちゃんとハッピーエンドですが、少し、メルヘンホラー…?



僕の勤める職場には、ほんの一握りの人しか知らない秘密がある。

その秘密を知ったのは、勤め始めて一年目の冬の事だった。



僕の職場は、国際公共機関も兼ねた国の施設の一つだ。

広い敷地と、真上から見ると花に見える建造物が特徴だ。中央館と呼ばれる建物の四方に、半円形の建物が併設されている。

働く外部職員の数も多く、社会見学や一般公開なども常時行われているから、人の出入りは激しい。加えて、独自のセキュリティシステムを導入している為、普通の警備会社では技術が追いつかなかった。その為、管理を担当する特殊なオペレーターと整備士が、24時間体制で勤務していた。

不規則な勤務で通勤もままならないことから、技術職員の拠点となる東館に隣接して寮が建てられていて、渡り廊下で繋がれている。

東館には職員用のオフィスや作業場の他に大小の会議室、専用の食堂、医務室があり、敷地内の少し離れた所にはコンビニや喫茶店、美容室もあったから、普段の生活に困る事は無かった。



その日は朝から雨が降ってとても寒い日だった。夕方には雷雨に変わり、施設に雷が落ちたせいか、一部の機器類に異常が発生していた。

全館の点検と整備を総出で行う事になり、僕と同期の同僚が東館の非常階段を任された。手分けした方が早く終わりそうだったので、途中から同僚と別れて、僕は上階を担当する事になった。

不思議な体験をしたのは、15階の非常扉の点検をしている時だった。周りに誰も居ないはずなのに視線を感じたのだ。

視線の方に振り向くと、真横に見知らぬ人が座っている。

驚いて無線に手をかけた途端、冷たい手が僕の手を止めた。

「無駄。お前の先輩方は、俺の相手はしないよ」

「そんなの、わかんないだろ」

僕は冷たい手を振り払うと、管理室に連絡を取る。警備員が来てくれると思っていたのに、監視カメラを確認した先輩から返ってきた返事は、放っておいて良い、というものだった。

「だから言ったろ? ここの古株とは付き合いが長いから、ちょっとした事じゃ相手してくれないんだよ」

そう言って肩を竦めると、彼は優雅に笑った。

「ねえ、少し暇なんだ。ちょっとの間、相手してくれない?」

彼は、優雅な笑みを浮かべて僕に言った。僕は眉根を寄せてしかめっ面を作ると、

「僕は忙しいんだ。邪魔しないでくれる?」

不機嫌に返す。

「邪魔はしないよ。しばらく話し相手になってくれればいい」

その言に、それが邪魔なんだ、と返そうとして。

彼の格好の異様さに、初めて目が行った。

闇のように真っ黒な着物に、銀の帯を前で結んで長く垂らしている。着物の裾は銀糸で繊細な刺繍がしてある。裾下に行くほど緻密な模様だ。襟足は大きく開いていて、青白い首筋が見える。その上、裾から覗く足が裸足だった。

いくら館内に暖房が入っていると言っても、真冬の非常階段だ。すごく寒い。僕でも作業用のコートを着込んでいる。

「…寒そう…」

思わず、正直な感想が漏れた。

彼は、僕を呆然と見つめて。

声を立てて楽しそうに笑った。

「おまえ、面白い奴だな。気に入った」

言いながら一頻(ひとしき)り笑うと、彼は音も無く立ち上がる。ゆっくり階段に向かい、

「今度の満月の晩、北の庭園においで。いいモノ見せてやる」

上機嫌で言って、階段を飛び降りた。

ふわり、と踊り場に降り立って。

彼の足元から、うっすらと半透明の影が滲み出る。彼は、踊りながら影を足で払った。楽し気に舞う彼と戯れるように、影が後を追いかける。

やがて、影が消えて、彼の着物の裾が地面についた時、彼の姿も忽然と消えた。



次の日の朝、食堂で僕は先輩の一人に声をかけられた。彼と会った時に、無線に出た先輩だ。

「よう、おはよう。昨日は災難だったな」

「…おはようございます」

先輩は、浮かない顔の僕の肩を叩くと、隣に座る。

「どうした?」

「…なんか、狐に化かされたみたいで…」

「昨日の事か?」

先輩の問いに僕が小さく頷いて答えると、ガシガシと頭を撫でられた。

「まあ、そうだろうな。あいつの事、視える奴と視えない奴がいるから。視える奴に寄って来るんだ」

「先輩も、視えるんですか?」

「一応な」

「…あれって、幽霊ですか…?」

霊感無いですけど、と恐る恐る訊く僕に、先輩は、いやいや、と首を振る。

「俺も霊感なんて無いよ。正確には、幽霊じゃない」

「先輩、何か知ってるんですか?」

「いいや。ただ、俺も視える先輩から言われたんだ。あいつは傍迷惑な奴だが、悪い奴じゃないから、寄って来たら話し相手になってやれ、って」

苦笑を浮かべて、先輩は言った。

「ま、そういう事だから。で、どうだった? あいつ、何か言ってたか?」

先輩は、興味深々で聞いて来る。僕は顔を(しか)めると、

「…今度の満月の晩、北の庭園に来い、気に入ったからいいモノ見せてやるって…」

ボソボソと呟いた。途端に、先輩が驚きで目を(みは)る。

「…おまえ、あいつに気に入られたのか?」

「…らしいです…」

彼のお誘いをどうしようか悩んでいると告げると、先輩は、行くべきだ、と強く言った。

「あいつのお誘いなんて、滅多に無い事だぞ。本当にいいモノ見せてもらえるから、行ってきな」



ありがとうございました。


短編では書き切れなかったので、小雫夜話(http://ncode.syosetu.com/n9571dt/)に入れられなかったお話です。

ちょっと続きますが、お付き合い下さい。


…一度、最後まで書き上げて、全部データ吹っ飛ばしたのは、内緒のハナシです…。

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