きさらぎ駅にて
私は、とあるオカルト雑誌の記者だ。
今、電車に乗っている。もうすぐ期待している現象が起こるだろう。
「きさらぎ駅?」
私は同じ部署の後輩に聞き返した。
「ええ、きさらぎ駅です」
「きさらぎ駅って、あの、アレだよな」
「一昔前、2ちゃんねるで話題になった駅です。
そこは異世界につながってるだとかいう話ですね」
「そうみたいだが、どうしてそこへの行き方なんてわかったのかい」
「いや、噂話を知人たちから聞いて。最初は信じてませんでしたけど。
ですが、きさらぎ駅について聞くと皆同じ行き方を教えてくれるんです。
皆、全然関係ない人たちなのに」
「うん、それは気になるな」
「ですよね。ダメもとでいいので是非取材していただけませんか」
そうして、今その「行き方」に従って電車に乗っているわけだ。
もう真夜中。窓を覗いても闇があるばかりだ。
まわりにはもう誰もいない。それによれば、そろそろのはずだが。
突然、不気味な声が車内に流れた。
「次はきさらぎ、きさらぎ・・・」
お、遂にきたか。
いよいよとなると緊張してきた。
しばらくした後、電車は無人駅に到着した。
たぶんきさらぎ駅なのだろう。無論、そこで降りた。
辺りは相変わらず真っ暗だ。どこからか太鼓の音が聞こえてくる。
「ええと、11時に乗ったから・・・」
携帯電話の時計を見て、思わずニヤリとした。
2時間程度乗っていたはずなのにまだ11時半と表示されている。
どうやら本当にきさらぎ駅らしい。
時刻表をよく見てみると不思議な文字で書かれている。
「じゃあ、取材と行きますか・・・」
カメラを取り出して写真を撮ろうとした。
・・・
「あれ、電池切れかな・・・
なるほどこの駅では写真は撮れないんだな。
噂と一緒だ」
そこで、あらかじめ作った「きさらぎ駅でやってはいけない一覧表」を取り出した。
それらをできる限りやろうと思ったのである。
まず、ジュースを買い、それを飲むこと。
近くに赤い自販機があったのでそれから買うことにした。
適当に硬貨を入れてみる。
なにかの飲み物-もっとも何なのかは分からない-が買えるようになったので
それを購入し、すぐに飲んだ。
「う、う、う、まずい・・・」
すぐに残りを捨ててしまった。
だが、まずいだけで、体の不調はない。
次に歌を歌うこと。
好きなポップ曲を歌った。一番だけでは何も起きず、結局最後まで歌ってしまった。
が、何も起こらない。
眠ったり、線路をたどってトンネルに入ったり出たりと
他のことも実践したが、何も起こらず、遠くで太鼓がなっているだけだった。
何の収穫もなかったが、仕方がないので帰ることにした。
今までの例だと前の道路から帰った例があるらしい。
私もそれに倣うことにした。
しばらく歩いていると、車が走ってきた。
たぶん、もとの世界に戻ってきたのだろう。
なかなか帰れないといわれているばかりに、少し悲しくなってしまった。
すると車は私の近くで停まり、車に乗った人物は私に向って言ってきた。
「そこの方、もう夜遅いですよ。お送りしますか」
私は送ってもらうことにした。その方が速そうだし、きさらぎ駅から出てやってはいけない「車に乗る」も実践できる。
「では喜んで。」
突然、後部座席から男二人が現れ、私を車の中に強引に連れて行った。
「なにをするんだ、離せ」
すると先ほどの人物が答えた。
「私は社会不適合者選別機関の者です。
あなたはきさらぎ駅でやってはいけないことをさっきしましたよね。
そのような行動を意図的にされる方は社会的に不適合です。
よって貴方を社会から隔絶します」
「なんで私がそこに行ったことを知ってるんだ」
「きさらぎ駅はですね、オカルトでもなんでもなく、私たちの施設の一つですよ。各地の鉄道と協力して古い駅を買いとり、まわりに不思議な現象を起こす機械や得体のしれないものを置いておくんです。
時計を狂わせる機械や不味い飲料の自販機、おかしな文の張り紙とかね。
そんなおかしな状況の中でも、社会に不適合な行動をする人を見つけるんです。例えばTwitterとかで知人からするなと言われたことをする人。
そのような人は社会に反逆しかねません。
その場合、その人にとっても社会にとっても良くありませんので、あらゆることから隔離しないといけません。」
「そんなこと、許されない・・・」
「公共の福祉ですよ。しようがありません。
特に、貴方は車に乗ろうともした。ここまでひどい人はあまりいませんよ。
大丈夫、隔離されても衣食住には困りませんから・・・」