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それからの私は忙しかった。
晴れた日には光をいっぱい浴びなきゃならないし、ハウスの皆との親睦会とか目白押しで、
赤に磨きはかかったけれど、やっぱり『お前は甘いだけだ!』とレモン上司に怒られて、
それでも時間があれば、たまごチャンとたまご君の事を考えた。しつこいけど。
彼らは私の大事な友達だから。
でも、それは取り越し苦労でした。
「私達、付き合う事になったの!」
たまごチャンからの報告。
突然の事に私は面食らった。ちょっとだけ、青褪めた。
「……えっとぉ、たまご君と?」
「ええ!」
他に誰もいないのだけど。聞くまでもないのだけど。
暫くの激務で良い具合に赤く染まったと云うのに、天辺の部分が少しだけ黄色に戻ってしまった。
たまごチャンはそれに気づいてない様子だから良いけど……
ただ、すごく驚いたんだ。だって、
「たまご君とは会って間も無いけど、告白された時は驚いたけど、
きっと仲良くなれると思ったから、付き合う事にしたの。
これも全部、プチトマトちゃんのお陰! 本当にアリガトウ!」
「ぃ、いえ……それは、何よりです……」
驚き冷めやらず、上っ面だけの私。
恋愛に時間は関係ないとは思うけど、たまごチャンとたまご君は出会って2週間で、2人きりで会ったのはたったの2回程。
だから、何と云うか……
――浅はかだな。と。
勿論、たまごチャンと たまご君は良い人だ。とっても良い人だ。
私みたいなプチとも仲良くしてくれる、美しいたまご達だ。
だから、直ぐに魅かれ合うのは分かる。解かるんだ。
だけどね、
『やっぱり、私の中身を分かって貰いたいわ』
この言葉が、私の小さな胸に引っかかるんだ。
たった2週間で中身を分かって貰えたのかな?
たまご業界の1日って、野菜業界より長いのかな?
いや、そんな事より……意外に、たまごは中身が無いのかも知れない。
いや、違くて……中身を解かって貰ってから付き合うのか、
中身を解かって貰う為に付き合うのか、その違いなんだろうな。
私は、出来るだけ解かって貰ってから付き合いたいかな。
だって、そうしないと、別れた時には『相手が自分を解かってくれなかったから』……何て、自己中な事を思ってしまいそうだから。
まぁ、これはあくまで私の考えで、恋人として付き合いながらお互いを知るのも、発見の多い楽しい交際の1つだと思ったりもする。
「これから、楽しい時間を過ごせると良いですね!」
冴えない祝辞だけど、『きっと上手くいきますよ』とまでは云えないから。
たまごチャンとたまご君の事は、
たまごチャンとたまご君よりも、
友達として付き合いの長い私の方が知っているくらいなのだから。
考える度、グジュグジュと音を立てて、緑色に変色して行く。急速に。
もしかしたら、私の中身は緑色の気持ち悪い物体が詰まっているのかも知れない。
そう考えたら気持ち悪くなった。